私のバイト先に妹が来た(いづみside)
次の日……
――なっ、何でココにいるんだよ!?
バイト先で……思いもよらないことが起こった。
※※※※※※※
「いづみちゃーん! スムージーふたつお願いねー」
「はーい」
〝ヴィィィィン〟
――はぁ、また今日もミキサーとフルーツカットの仕事だ。
せっかくカフェの厨房でバイトができたというのに、こうも毎日スムージーばかり注文が続くとさすがに私も気が滅入ってしまう。
ここは会員制フィットネスジムに併設されたカフェ、会員さんはジムが目的なのでここを利用する人は少ない。たまに注文があってもスムージーなどミキサーで混ぜるだけのものばかり……。
あー営業時間中に加熱調理がしたーい! 一応、十六穀米を使った和定食とかあるんだけどなぁ。焼き魚とか豆腐ハンバーグとか高タンパクでヘルシーなメニューだけど、未だに注文されたことはない。
ちなみにカフェはジム会員以外でも利用できるようになってはいるが、入り口がジム内にあるせいか一般客は入りにくいようだ。
おまけに健康志向のメニューだからガッツリ食べたい人には不向きだし……このままじゃカフェは閉店、私はクビになりそうだ。
「どうしたんですかいづみさん、珍しくため息なんかついちゃって」
カウンター越しに声をかけてきたのは、このジムのオーナーの娘さんで高校生の上条 志麻ちゃんだ。
「いやぁ、注文ないなぁって……何かこのままじゃ私、クビになりそう」
「うーん、確かに売れてないですよね。それに最近ヨガやりたいって会員さんが多いんですけど……スペースがないんですよねー」
「えぇっ、ちょっと待ってよ! それじゃカフェは……私は……」
志麻ちゃんのシャレにならない話で私が困っていると、
「大丈夫ですよ! いづみさんの作る『まかない』はスタッフさんにも大好評ですから! それに、ほら……」
志麻ちゃんが指さした先には、
「いづみちゃーん、新しい会員さんにマシンの説明お願いねー」
ジムのスタッフさんが手招きをしていた。
実は最近、私はジムの手伝いもしている。私はバイトの後に筋トレをしているので、ここのマシンにだいぶ詳しくなった。パーソナルトレーナーはできないが、マシンの使い方がわからない会員さんに説明することくらいはできる。
「じゃ行ってくるね! 志麻ちゃん、注文あったら知らせて」
「はーい、がんばってくださーい」
ジムの仕事もするようになったので、もしカフェが閉店したとしてもクビは避けられそうだ。
※※※※※※※
「お待たせー! ってどうせ客はいないか……」
「そんなこと言わないでくださいよー、いづみさん」
バタフライマシンに逆向きで座っていた会員さんに正しい使い方を教えて、私は厨房に戻ってきた。
「今日はどうしよう……塩サバが余ってるから炒飯でも作ろうか?」
「えーっ、サバで炒飯? 何それ! 食べてみたい!」
「志麻ちゃんはすっかり『まかない限定スタッフ』だね!」
「あははっ! だってー、いづみさんが作るご飯おいしいんだもーん」
「ありがとー! ところでさぁ、志麻ちゃんはここで筋トレとかしないの?」
オーナーの娘さんとはいえ、いつもジムにいながら一度も利用したことがない志麻ちゃんを不思議に思った私は思わず聞いてしまった。
「えっ、私は会員になりたくてもなれないよ」
「あっそうか! 気づかなかった……ごめん」
愚問だった。この子は会員になる資格がなかったんだ! と、そこへ……
「いづみちゃん、ちょっといいかしら?」
このジムのオーナーで、志麻ちゃんの母親が私を呼び止めた。
「はい、どうかされましたか?」
「いえね、あの子なんだけど……いづみちゃんのお知り合い?」
「えっ!?」
よく見るとフロントの前にいる子どもがスタッフと揉めているようだ。外国人かな? 後ろ姿がシルバーの長い髪……あれ? この人どっかで見覚えが……って
――私の妹じゃねぇかぁああああああああっ!?
なっ何で? バイト先教えてないのに!
「貴音ちゃん!」
「あっ、おねえちゃぁああああん!!」
妹は私の顔を見ると、磁石がくっつくように抱きついてきた。
「この人たちひどいのです! 貴音が会員になりたいって言ったのにダメって言うのです! 差別なのです! 貴音がハーフだから人種差別なのです!!」
「あのなぁ……」
私は頭を抱えながら
「ココは十八歳以上でないと会員になれないんだよ!」
そう! 年齢制限があるので志麻ちゃん(高校生)も妹(中学生)もこのジムの会員にはなれないのだ!
※※※※※※※
「何で来たの!? ってか何でココでバイトしてるってわかったんだよ?」
私は説教するような口調で妹に聞いた。
「もっ、もうすぐ学校で球技大会があるのです! 貴音は体力をつけるためジムに入ろうとしたのです! そしたらたまたまおねえちゃんが……」
「ウソだよね!? 体を鍛えたかったら家の近くにもジムいっぱいあるよ!」
そう私に責められた妹は、半べそになりながら
「……ウソなのです。本当はおねえちゃんに会いたかったのです……おねえちゃん、最近夕ご飯にいないから寂しかったのです……ぐすっ」
そう言うとついに泣き出してしまった。でも「ぐすっ」って棒読みで言うなよ。
「あのなぁ、こっちは仕事してんだよ! そんな勝手な理由で……」
「まぁまぁいづみちゃん!」
さすがにこんな理由でバイト先に迷惑はかけられない。そう思って妹を強く責めた私をオーナーが止めに入った。
「妹さんもまだ子どもだから寂しいのよ……だから許してやって」
「あ、はぁ……」
「それにしても困ったわねぇ、ここはマシンが多くて危ないから子どもさんにいてもらってはマズいんだけど……」
オーナーが困っている隣で、何やら萌え萌えとしたオーラを放つ者がいた……志麻ちゃんだ!
「かかっ、カワイイっ! えっ、いづみさんの妹さん!? うわぁカワイイっ!」
妹をメッチャ気に入りカワイイを連発していた。
「あっ、そういえばこの間の学園祭で一緒にいましたよね!? ほら、忍野萌海のコンサートで!」
「えっ、あっ……は、はいなので……す」
意外にもグイグイくる志麻ちゃんに妹は戸惑っていた。うーん、やっぱり和の従妹だけのことはあるなぁ。
「じゃあお母さん! いづみさんが仕事中、私が預るっていうのは? いづみさんも……いいでしょ!?」
「えっ? まぁ志麻ちゃんがよければ……」
妹は突然の展開と、ほぼ初対面なのに遠慮のない女子高生に引き気味だったが、
「そういえば、お名前は」
「た……貴音なのです」
「貴音ちゃん!? ゲームは好き?」
その言葉を聞くなり妹は警戒心を緩めた。
「好きなのです♥」
「そう!? よかった! じゃあ私の部屋でゲームして遊びましょ!」
「わーい」
このジムはオーナーそして志麻ちゃんの自宅も兼ねている。志麻ちゃんは妹の手を取り、二階へ上ろうとしたそのとき……
「こ~ら!」
〝ぺしっ〟
志麻ちゃんが頭を叩かれた。叩いたのは……
「あれ? 何でオマエがいるんだよ……和!」
志麻ちゃんの従姉で私の友人(元カノ)……平井 和だ。
貴音なのです。おねえちゃんのバイト先は「あの人」に教えてもらったのです!




