私の家に妹の友だちが転がり込んできた(いづみside)後編
「私を今日からこの家の娘に……お姉さんの妹にしてください!」
――えぇええええええええっ……♥
妹の空ちゃんとケンカした双子の姉・天ちゃんが家出して我が家に転がり込んできた。私は天ちゃんに帰るよう説得したのだが、天ちゃんは一度決めたら自分の考えをなかなか変えない性格。しかも私に抱きついてからのさっきのセリフだ。
「い、いや……それはできないよ」
本音はウエルカムだぞー♥ 貴音ちゃんと天ちゃん……こんな美少女二人を妹にできたらもう死ねるわぁ♥ 何なら空ちゃんも連れてこーい♥
……っていやいや、暴走している場合じゃない。
「何でですか!? 私、お姉さんのこと好きですよ! もし私が住むことでお風呂に入る時間が短くなるようでしたらお姉さんと一緒に入ります! 布団がないようでしたらお姉さんのベッドで一緒に寝させてください」
何てご都合主義なお願いなんだー! 脳内で鼻血が止まらんわー! 飛んで火に入るどころか髪をとかして靴の泥を落として身につけた金属類を外して壷の中のクリームを塗って酢の匂いがする香水をふりかけて壷の中の塩を揉み込んで入って来るようなものだー! もっもう山猫のお姉さんは今すぐ天ちゃんを食べたーい♥
と、そこへ……
「ぎゅぅううううっ」
――痛ってぇええええっ!
妹の貴音が私の腕を思いっきりつねってきた。
「おねえちゃん、調子に乗ってはダメなのです!」
「えっ、べべべ別に調子になんか乗ってないよ」
すみませーん乗ってましたー! あっそうだ、天ちゃんを説得しないと!
それにしても……嫉妬して怒った妹もカワイイ♥
「それはダメ! もし天ちゃんがウチの子になったら天ちゃんのご両親や空ちゃんが悲しむでしょ」
私は天ちゃんを説得した。すると、
「そんなことないです! お母さんは絶対に成績が良い空のことだけ気に入ってるのよ! 双子なんて……本当はひとりだけ生まれてくれば十分なのに、二人生まれちゃったから迷惑なのよ! だから私なんか……本当はいなくてよかったのよ!」
天ちゃんは目に涙を浮かべて反論した。でも……それは違う!!
双子は……どちらも愛されて生まれてくるべきなんだよ!
「天ちゃん! それは違っ……」
私が言いかけたとき突然、妹の部屋のドアが〝バァン!〟と開いて、
「天! それは絶対に違うぞ!」
母・茅乃がものすごい形相で乱入してきた。
「えっ、何でいるの?」
「あぁたまたま通りかかったら偶然アンタたちの話が聞こえちゃったんだよ」
おい、だったらその手に持ってる紙コップは何だよ! すると茅乃はずかずかと部屋に入り、天ちゃんの両肩に手を置くと、
「いいかい、双子はどっちも愛されて生まれてくるんだよ! ひとりのつもりが二人になって迷惑なんて絶対に思わない! 確かに経済的な不安とかあるかもしれないけど、むしろ幸せが二倍になってお母さんはラッキーだと思ってるよ!!」
「し……幸せが二倍?」
茅乃の勢いに天ちゃんは完全に押されてしまった。
「天のお母さんはね、たとえ空の成績が良くて天がバカだったとしても……」
「うっ!」
おいデリカシーゼロ発言やめろ! 天ちゃんがマジで凹んだぞ!
「絶対に二人とも見捨てないよ! だって……どっちもお母さんの子じゃん」
茅乃の言葉を聞いた天ちゃんは
「えっ……グスッ……でも……グスッ……だって……グスッ」
その場で泣き出してしまった……でもまだ納得していないようだった。
「空だって天のこと嫌ってないし心配しているハズだよ」
茅乃がそう言うと……
〝ピンポーン!〟
「あっ、空ちゃんが来たのです」
「えっ、ちょっと……グスッ、何で空が……あっ、まさか!?」
妹はずっとスマホをいじっていたが……どうやら空ちゃんと連絡を取り合っていたようだ。
その後、心配してやって来た空ちゃんの「ある行動」で天ちゃんはいとも簡単に説得に応じ、二人は仲直りして家に帰ることになったのだが……
「あっ、天空!」
茅乃が二人を呼び止めた。ってかその呼び方どうにかならないか?
「今、天空のお母さんに連絡したから……今夜は家で夕ご飯食べていきな!」
茅乃は天ちゃん空ちゃんにそう声をかけた。あれ? まさか挽肉を買い過ぎたからこの子たちに食べさせようって魂胆じゃねーだろうな!?
そういやあの挽肉の量、ハンバーグにしたら人数的に……あっ!
「ねぇ母さん!」
私は「あること」を思い出し、茅乃に声をかけた。
「今夜ハンバーグだったよね? 私が作っていい?」
「あぁ、アンタが作りたいんだったら任せるよ」
※※※※※※※
私はキッチンでハンバーグを作り始め、茅乃は他の料理を作り始めた。
妹は天ちゃん空ちゃんとリビングでゲームをして遊んでいる。天ちゃんもすっかり機嫌がよくなり、空ちゃんといつも通り仲よくしていた。
――姉妹って……やっぱりいいよなぁ。
すると妹がキッチンにやってきて、私と茅乃にこう聞いてきた。
「ママさん、おねえちゃん……貴音は疑問があるのです」
「えっ、何?」
「天ちゃんが『双子は迷惑』と言ったとき、ママさんとおねえちゃんはものすごく真剣な顔をして怒ったのです。なぜなのです? おねえちゃんは元々ひとりっ子なのです! 双子のことはわからないハズなのです」
妹の疑問を聞いた私と茅乃は顔を見合わせ……そして私は妹にこう言った。
「実はお姉ちゃんね……お姉ちゃんだけど妹なんだよ」
その言葉を聞いた妹は目をまん丸くして
「えっ、なっ……何なのです? 意味がわからないのです」
混乱した様子で天ちゃん空ちゃんのいるリビングに戻っていった。私と茅乃はクスッと笑うと夕飯の支度を続けた。
※※※※※※※
「いただきまーす」
今夜は天ちゃん空ちゃんも交えた六人で夕飯だ。ついこの間まで私と母、ずっと二人だけで食事……あぁそういえば高校時代はよく和も加わって三人だったな。
――家族って……姉妹っていいよなぁ。
「このハンバーグってお姉さんが作ったんですよね? おいしいです」
「です」
天ちゃん空ちゃんは私が作ったハンバーグに大喜びしていた。先日、私は妹にハンバーグをサプライズで作ってやろうとしたとき、妹が近くに居たので準備を進められなかった。だがそれを察した空ちゃんの気配りで助けられたのだ。
なのでいつか空ちゃんにもハンバーグを食べさせてあげようと思っていたので、ちょうどいい機会になった。
空ちゃんは空気が読める子だ。だがこの子は天ちゃんがいないと自分では何もできない……いや、しない。ある意味この二人はバランスがいいのだ。
「よし、決めた! 天が大人になったらお姉さんをお嫁さんにする!」
「空も」
〝ブッ!〟
私は思わず飲んでいたスープを噴いた。
いや私がアンタたちをまとめて嫁にしたいわぁああああっ♥
「おいおい、いづみに料理教えたの私だよ! だったら私をお嫁さんにしなさい」
茅乃ー! 話をややこしくするなぁぁああああっ!
「ぎゅぅううううっ」
妹ー! 私の太ももをつねるなぁああああっ!
でも……嫉妬する妹はやっぱりカワイイ! 三人まとめて嫁にしたい……♥
貴音なのです。おねえちゃんの妄想の意味がわからなかったら、宮沢賢治の「注文の多い料理店」を読むとよいのです!




