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【番外編】オレは妹に恋をした(硯都side)4

 

「えっ、いいよぉ~お兄ちゃん」

「だから遠慮するなって」


 数日後……オレは妹の鈴里(すずり)を連れて、菱山(ひしやま)姉妹の妹・(くう)がバイトしている本屋にやって来た。すると入り口で何か作業をしている店員が……菱山妹だ。


「あ、いらっしゃい鈴里ちゃん……()()()()硯都(けんと)

「オレに対する塩対応ありがとよ! で、何してんの?」

「店長に頼まれて、看板のツバメの巣を取ってる」


 よく見ると立体的になっている店名ロゴにツバメが巣を作っていた。周囲にはフンも付着していて汚れている。


「巣立った後だから……可哀想だけど」


 季節は冬になっていた……もうすぐクリスマス、そして年末だ。南に渡ったツバメが来年帰って来たとき、また一から作り返さなければならなくて大変だなぁ。


「なぁ空、この間話してた問題集ってどれ?」

「あ……とりあえず中に入って」



 ※※※※※※※



 オレと鈴里は作業を終えた菱山妹と店内に入った。先日、家に野牛島(やごしま)樹李(じゅり)と菱山姉妹が遊びに来たとき、この菱山妹が鈴里の受験に良い問題集があると教えてくれたので、当人を連れて買いに来たのだ。

 鈴里は高校二年生、国公立大に進学を希望する生徒はこのくらいから予備校や塾に通うらしい……が、妹は「お金が掛かる」という理由だろう……未だに予備校へ行くことを拒んでいる。

 それどころか家で勉強するための参考書や問題集すら買わないのだ。今まで教科書だけでテストを乗り切っていた……兄としてさすがに心配になってくる。


「これとこれと……あと、この辺がオススメね」


 店内を一緒に回ると、菱山妹は次々と鈴里の志望大学に最適だという参考書や問題集を探し出した。志望大学のOGだという菱山妹が、過去の入試の傾向と対策を考えたチョイスらしい。


「どう? 読んでみて……」

「えっ、こんな問題が出るの? 全く考えていなかった……」


 ページをめくった瞬間、鈴里は驚きそして目が真剣になった。どうやら自分が想像していたより難しい問題ばかりで、よほど頑張らなければ合格しないと思ったのだろう。でも……


 ――うわぁ、結構するなぁ。


 オレが気になったのはその値段。一、二冊くらいならどうってことはないが、全教科分となると結構な値段になる。鈴里の不得意科目だけ……という選択肢もあるが、どうせなら全部買ってあげたい! 兄としてそのくらいの気持ちはある。


「どう? これだけ揃えておけば対策としてはかなり有効よ」

「お、おぅ……そ、そうだな」


 ――あっ! しまった!


 オレがつい躊躇したのを、鈴里は見逃していなかった! 鈴里は申し訳なさそうな顔をすると


「菱山さん、ありがとうございます。でも……やっぱいいです」


 問題集の購入を拒否したのだ。


「おっおい鈴里、お金なら心配するな! 兄ちゃん、ちゃんと用意してるから」

「でもいい! お母さんにもお兄ちゃんにも迷惑はかけられない」

「おい、ここまで来て何言い出すんだよ!?」


 オレが何とか説得しようとすると、鈴里はとんでもないことを言い出した。


「私、本当は大学になんか行かなくていい!」


 ――なっ!?


「何言ってんだ鈴里! オマエが大学に入って将来安定した生活ができるように兄ちゃん頑張ってんじゃねーか!?」

「それがプレッシャーなのよ!」


 ――!?


 静かな店内に兄妹(きょうだい)ゲンカの声が響き渡った。


「お客様、店内ではお静かに」

「あっ、あぁすみません」


 他の店員に注意され、オレと鈴里は店の外に出た。



 ※※※※※※※



 外に出たオレたち兄妹は、店の前にあるベンチに腰掛けた。鈴里は今まで抑えていた感情が爆発したのか泣きじゃくっていた。

 しばらくすると本を片付けていた菱山妹が駆け付けた。鈴里のことが心配になっているようだ。


「鈴里! 何であんなこと言うんだよ!?」

「だって……グスッ! お母さんもお兄ちゃんも鈴里のためにムリしてるのわかってるもん」

「ムリなんかしてねぇよ! それはな、オマエには今まで何もしてやれなかったから……」


 オレは今まで、両親にワガママばかり言っていた。オレが剣道がしたいと言ったときも竹刀や防具を何の躊躇もなく買ってくれたし、それは普通のことだと思っていた。

 だが妹の鈴里は昔から、自分を主張するタイプではなかった。これと言ってやりたいことも趣味もなく……兄のオレとは真逆の存在だ。

 そんなときに親父が亡くなり、好きなことをやりたくても自由にできない状況になってしまった。このままでは妹が不憫……今まで好きなことをやって来た負い目もあるのだろう。オレは親父に変わって、妹の「好きなこと」をさせてやろうと考えたのだ。もちろんお袋も同じ考えで頑張っている。


 だが、どうやらその行為が裏目に出てしまったようだ。


「私……お母さんやお兄ちゃんにムリさせたくない! だから高校卒業したら働いて、お母さんを楽させてあげたい!」

「そっ、そんなこと……母さんは望んでないぞ」

「お兄ちゃんだって! 毎日働き詰めで……将来結婚とかできるの!? 合コンとかだって行ったことないでしょ?」

「おっ、おい余計なお世話だ! オマエがそんなこと心配するな!」


 と、そこへ菱山妹が話に割り込んできた。


「鈴里さん……聞いて! 一般的なデータだけど、高卒と大卒では生涯賃金……つまり定年までにもらえる給料で約五千万円くらい差が出るの」

「そ、そんなこと言ったって大学に行ったら学費とか掛かりますよね?」

「そうね……でもそれ以外にも人生の選択肢は増やせると思うの」

「わっ、私は……お母さんに恩返しがしたいの! お父さんにしてあげられなかった分まで……それが私の人生の目標です! 何かおかしいですか!?」


 鈴里が親孝行に人生を捧げたい……そう言うと、菱山妹は先程壊したツバメの巣の辺りを見ながらこう言った。


「ツバメはね、子どもの面倒をみるために全力を尽くすの……親の面倒をみるツバメなんていない」

「……えっ?」

「親はね、子どもが立派になってくれることが人生における大成功なのよ」

「そっ、そんなこと……」

「子どもが巣立つ生き物は何世代も『進化』が続くの! でも子どもが巣立たないどころか、親元にいつまでも置いておく生き物はその世代で終わり……つまり『退化』するのよ」

「……」


 菱山妹のトンデモ理論に鈴里は黙りこくってしまった。


「本当は……大学を卒業してから、やりたいことあるんでしょ?」

「……は、はぃ」

「別に問題集はムリして買わなくてもいいけど、大学に行かない……何て言っちゃダメよ」

「はぃ……」


 菱山妹に説得され、鈴里は納得したようだ。


「す、すまなかったな空」

「いいよ、私たちもそうやって好きなように育てられたから」

「そ、そうか……」

「じゃなきゃケアレスイチローで大学なんか行かせてもらえないよ」


 コイツ……最後に実姉をディスってきやがった!



 ※※※※※※※



 それから数日後、結局問題集を買わなかった妹だったが……その書店からオレのスマホに着信があった。


「もしもし……えっ!?」




 鈴里が……万引きで捕まった。



貴音なのです。貴音も好きな道に進むことができて幸せなのです!

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