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【番外編】オレは妹に恋をした(硯都side)3

 

 〝ピンポーン〟


硯都(けんと)ー! (あっそ)びに来たよ~ん」


 ある日の夜、オレの家に野牛島(やごしま)樹李(じゅり)が遊びに来た。


「樹李お姉ちゃん、こんばんわ」

「おぉ鈴ちん! 相変わらず可愛いのぉー!」


 妹の鈴里(すずり)がオレより先に玄関に向かうと、樹李は持っていた買い物袋を置いて鈴里の頭を撫でた。この二人は本当の姉妹のように仲がいい。


「いつも悪いな」

「いいっていいって! おけまる水産!」

「おけまるって……古っ」


 オレはお袋と妹と三人暮らし、いわゆる母子家庭だ。家計を助けるため、お袋は昼も夜も働き詰めている。オレも遅くまで仕事しているので夕飯はいつも鈴里が作るが、高校二年の妹も来年は受験生……できるだけ負担を掛けたくない。

 そんなことを以前ポロッと樹李に話したら「じゃあアタシが作ってやるよ!」と言ってそれ以来、時々だが家に来て夕飯を作ってくれるようになった。買い物袋の中身も今夜の食材だ。

 実は樹李……以前居酒屋で働いていたのだが、接客だけじゃなく調理も担当していたらしい。なので料理の腕もなかなかのものだ……まぁメニューは酒のつまみになりそうな物ばかりだが。


「あっ、そうだ硯都! さっきそこでダチに会ったからさー連れて来ちゃったんだけど……入れていいか?」

「えっ? まぁいいけど」


 この家は一軒家、親父が生前に頑張ってローンを完済した家だ。まぁ今は老朽化が激しいが、それでも住宅費にほとんどお金が掛からないのはとても有り難い。

 ただ……人を招き入れるような家じゃないんだけど、一体誰なんだ? すると玄関ドアからひょっこりと覗き込んだ顔を見て、鈴里が驚いたような声を上げた。


「あれ!? 菱山(ひしやま)さん……何で?」


 そうか! そういえば前に菱山妹と会ったとき、鈴里が通う高校で図書室の司書をやってると言ってたな!? でもって鈴里のことも知っていると……だが菱山姉妹は双子、ここにいるのは妹の(くう)か? それとも……


「よぉ! おっぱ……むぐっ!?」


 オレは慌ててコイツの口を封じた! あっぶねぇ危ねぇ、コイツは双子の姉・(てん)の方だ。つーか妹の前でそのあだ名使うな! 妹は高校生だが胸は大きい方……そんなあだ名を知られたら二度と口をきいてもらえなくなるじゃねーか!


「えっお兄ちゃん、知り合いなの?」

「あっあぁ……コイツはオマエの知ってる人の双子の姉なんだけど……つーか(オマエ)は来るな! 帰れ!」

「何でよー!?」

「妹は来年受験だ! ケアレス一浪は縁起が悪すぎる」

「ぐはぁ!」

「いいか鈴里、どんなに勉強頑張っても試験でケアレスミスしたらこうなるぞ」

「えっ?」

「あははっ、ウケるー!」

「ちょっとぉー! 妹さんとは初対面なのにいきなり反面教師扱い!?」


 玄関先で新喜劇をやっていると、外からもう一人……


「ねぇ、寒いから私も中に入れて……反面教師の後輩」

「ぶはぁ!」


 完全KOされた姉を押しのけ、菱山空が入って来た。



 ※※※※※※※



「何だよ、オマエら二人で来たのかよ」


 結局、菱山姉妹も家に入れてしまった。今まで身近に双子がいる経験のなかった鈴里は、物珍しそうに目をぱちくりさせていた。


「ね、仲いいっしょこの双子! 一緒に買い物してたんだってさー」


 台所を借りて調理を始めた樹李が言った。確かに……この歳になって一緒につるんでいる双子は珍しいかも?


「鈴里さんだっけ? 初めまして……だね?」

「えっ、あの……」

「私は……よく知ってるよ」

「えっ空、何で?」

「図書室で一番借りてくれてるから……ね」

「あっはい! いつもお世話になってます」

「へぇー」

「えっ、それアタシも初耳だぞ」

「私もです! まさか菱山さんが樹李お姉ちゃんとお友だちだなんて」

「世の中狭いなぁー、この家みたいに」

「不満があるなら天! オマエだけ帰れ!」

「何でよぉー!」

「アハハ!」


 意外過ぎる組み合わせと偶然だったが、鈴里はこの双子とも打ち解けていた。特に……


図書室(ウチ)にない本で、何か読みたい本……ある?」

「あっ、でしたら……」


 学校で司書をやっている菱山妹とは余程話をしたかったのか、メチャクチャ意気投合している。


「大学はどこを希望してるの?」

悠明(ゆうめい)大です」

「じゃあ後輩になるわね……もしかするとこの人いるかも知れないけど、その時はよろしくね」

「私を指差すな! 留年なんかしねーよ! 絶対卒業してやる!」


 昔から無口のイメージが強い菱山妹も、鈴里の前では口数が多い。だが……


「そういえば鈴里さんって、自習スペースで勉強している姿をあまり見かけないけど……使い勝手悪い?」

「あっいえ、それは……」


 菱山妹がそう聞くと、鈴里は突然黙り込んでしまった……何でだ?


「たまにお友だちと一緒にいるときも、問題集とか持ち込まずに教科書だけで勉強しているみたいだけど……それで大丈夫?」


 ――そういうことか!?


「あ、はい! 何とか頑張ってます!」


 鈴里は作り笑顔を見せて答えていたが……オレは本当の理由を知っている。鈴里は家に迷惑を掛けないよう、問題集や参考書をあえて買おうとしないのだ。


「そう……あっ私、週末は近くの我蘭堂(がらんどう)書店でバイトしてるんだけど」

「えっ、そうなんですか?」

「悠大だったら最適な問題集あるわよ、今度お店にも来てね」

「えっ……あぁ……はぃ」


 鈴里は歯切れの悪い返事をした。参考書くらいオレが買ってやるというのに……だが鈴里にそう言っても「大丈夫」と言われ頑なに拒否される。実際に買うことはできても、妹から家計が苦しいと思われている時点で兄貴失格だな。


「ご飯できたよー!」

「わぁ、美味しそう」

「ちょっと待て! 何で菱山(オマエ)たちも……」

「いただきまーす」

「話を聞け!」


 樹李が作った夕飯を、なぜか菱山姉妹も一緒に食べ始めた。


「私は嬉しいよ! こんな楽しいお姉ちゃんたちと一緒にご飯食べられて」

「そ、そうか?」


 楽しいというより騒々しい団らんが始まると、鈴里がとんでもないことを聞いてきた。


「お兄ちゃん、誰かこの中でお付き合いしたい人いないの?」


 ――!?


 一瞬だけ空気が固まったが、すぐに……


「アタシはパスー! 鈴ちんかぁいいけど硯都はアウトオブ眼中だわ」

「オレもだよ! つーかアウトオブ眼中って何時代の言葉だよ?」

「私も! だってこの人、巨……」

「妹の前でそれ言うなケアレス!」

「菱山さ……空さんはどうなんですか?」


「えっ……私は…………ど、どうでしょう?」


 ――えっ!?


「そういやさ、貴音ちゃんこっちに帰ってくるみたい」

「えっ、そうなんだ」

「私にもニャインあった……でも何で?」

「お姉さんお店開くみたいだよ! アタシ厨房手伝ってくれないか聞かれたわ」

「そういやお姉さん、この間久しぶりに会ったら髪伸ばしてすっかり色っぽくなってたわよ~!」

「お姉さんと言ったら……硯都ぉ~!?」

「……ねぇよ!」

「えっ、何ですかその話」

「実はね……」

「妹にその話はするな!」


 馬鹿な話で盛り上がってしまったが……それにしても、菱山妹のあの「間」……元々無口なヤツとはいえ、あれは一体何だったんだ?

貴音なのです。貴音のいない所で盛り上がってズルいのです! まぁこれは十年後のお話なので中学生の貴音は関係ないのです!

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