完成した絵
公民館は昨日と変わらずに、そこに建っていた。
坂田の展示を一日延長することは出来た。松下も許可してくれた。
展示室への廊下は、すでに慣れたものになっていた。
ただ、坂田のいない展示室に入るのが少し怖かった。
ドアを開く。
昨日と一昨日と、何も変わらないと思っていた部屋の中は変わっていた。
一度来た人でないと気付かない。来た人だって、しっかりと見ていないと気付かないかもしれない。
だが、和季にはわかった。
「……あの、絵」
白瀬も気付いたらしい。
昨日と同じように置かれたキャンバスには、新しく描かれているものがあった。
あの、描きかけだった絵だ。
「やりたいことって、これだったんだ」
小さく、息と一緒に吐き出すように白瀬が言った。
光が射しこんでいる地面に小さな花がある。自転車の横、光に手を伸ばすように、ぐっと空に向かって花は伸びている。それにどんな意味があるかなんてわからない。すでに坂田に聞くことすら叶わない。
彼が残したものを、こうして見ることしかできない。
昨日までは確かに聞こうと思えば出来たことが、今はもう出来ない。
人がいなくなるということはこういうことだ。
もう、あの笑った顔は二度と見られない。
引きつった笑顔も、本当の笑顔も。
「完成、したんだね」
絵を見下ろしながら白瀬が呟く。
「そうですね」
「綺麗、だね」
「はい」
「少しは役に立ったかな、私」
最後の言葉はきっと独り言だった。和季には返事が出来なかった。
その声が泣いているように聞こえて、白瀬の顔が見られなかった。




