第44話 魔導コンロ完成! 異世界で初めての料理
翌朝。
俺たちは朝食を済ませると、さっそく作業に取りかかった。
今日の目標は二つ。
一つ目は、魔導コンロの改良。
二つ目は、台所の設備を整えることだ。
「蝉丸、昨日の魔導回路はどうだ?」
「一晩考えてみましたが、熱が伝わりすぎる部分を分離すれば、安定性を高められると思います」
蝉丸は机の上に図面を広げた。
昨日の試作品は、魔法陣と魔導回路によって炎を発生させ、弱火・中火・強火の三段階に切り替えるところまで成功していた。
ただし、強火で使い続けると、魔導回路の一部が熱を持ってしまう。
そのままでは、長時間の調理に使うのは不安が残る。
「熱を生み出す部分と、魔力を制御する部分を離すんです」
「なるほど。熱が回路全体に伝わりにくくするわけか」
「はい。それから、魔石からの魔力供給を止める遮断回路も、もう少し確実に動くようにしたいですね」
「頼む。火を使う道具だから、安全性は妥協したくない」
「分かっています」
蝉丸は真剣な顔で頷いた。
錬金術のスキルを使い、金属板に新しい魔導回路を刻み込んでいく。
細かな線が正確に描かれ、魔法陣と回路が少しずつ形になっていった。
「相変わらず、こういう作業は器用だな」
「錬金術のスキルが役立っていますからね。手作業だけなら、もっと時間がかかると思います」
「そのスキルがあって助かるよ」
俺は素直に感心した。
俺のインターネット検索スキルも便利だが、知識を得ることと、実際に物を作ることは別だ。
蝉丸の錬金術がなければ、魔導コンロの実現にはもっと苦労していたはずだ。
◇ ◇ ◇
その頃、俺と慎之助は台所の仕上げを進めていた。
「作業台はこれでよし、と」
俺は天板を確認する。
食材を切るための広さは十分にある。
その隣には流し台を設置する予定だ。
壁際には棚を取り付け、鍋や皿を収納できるようにした。
「いやあ、だんだん台所らしくなってきたな」
慎之助が満足そうに頷く。
「そうですね。最初は何もありませんでしたから」
唯衣が食器を棚へ並べながら答えた。
「この棚、もう少し可愛くできないかな?」
「可愛く?」
「うん。せっかくなら、見た目も大事でしょ?」
「まあ、確かに」
俺は棚を見た。
今は実用性を優先した、かなり素朴な作りだ。
「飾りを付けるくらいなら、後からでもできる。まずは使える状態にしよう」
「はーい」
唯衣は素直に返事をした。
ただ、棚の隅に小さな花瓶を置いているあたり、装飾を諦めたわけではないらしい。
「ところで、流し台の排水はどうするんだ?」
慎之助が尋ねた。
「ガレスさんと相談した通り、外の排水管から浄化槽へ送る予定だ。流しには食べかすを受け止める網を付ける」
「油も流さないようにするんだよね?」
唯衣が確認する。
「ああ。大きな食べかすや油をできるだけ取り除いて、浄化槽への負担を減らす」
「なるほどな。便利な設備を作っても、管理が大変じゃ意味がないもんな」
「そういうことだ」
水道や排水は、完成したら終わりではない。
毎日使うものだからこそ、掃除や点検がしやすい仕組みにしておく必要がある。
俺たちは流し台の位置を確認し、給水管と排水管を通す場所を図面に書き込んだ。
実際の配管工事は、給水タンクや浄化槽の準備が整ってからになる。
今は、後からやり直すことがないように、必要な場所を確保しておく段階だ。
◇ ◇ ◇
「皆さん、少しよろしいですか?」
昼前。
蝉丸が俺たちを呼んだ。
作業台の上には、改良した魔導コンロが置かれていた。
「できたのか?」
「ひとまず、改良版です。これから動作を確認します」
俺たちは作業を止め、コンロの周りに集まった。
コンロ本体は金属製。
下には耐熱性のある石が敷かれている。
側面には魔石を取り付ける部分があり、操作つまみと起動・停止用の操作部も設けられていた。
「見た目は、昨日とあまり変わらないな」
慎之助が言う。
「外側は大きく変えていませんからね。主に魔導回路の配置を見直しました」
蝉丸が説明する。
「では、点火します」
蝉丸が魔石を固定し、起動用の操作部を押した。
――カチッ。
魔石が淡く光る。
魔導回路に沿って、細い光が走った。
そして。
ボッ!
コンロの中央に、青白い炎が灯った。
「おおっ!」
唯衣が歓声を上げる。
「点いた!」
「まずは弱火です」
蝉丸が操作つまみを回す。
炎が小さくなる。
「次に中火」
炎が少し強くなった。
「そして、強火です」
炎が勢いよく立ち上がる。
「おおおっ! 昨日より安定してるじゃないか!」
慎之助が目を輝かせた。
「今のところは、魔導回路の異常な発熱も見られません」
蝉丸は回路の様子を確認しながら答えた。
「もちろん、これだけで長時間の使用に耐えられると判断するのは早いですが、改善はできているようです」
「よし。次は鍋を置いて試そう」
俺は小さな鍋を持ってきた。
中には水が入っている。
蝉丸は鍋を五徳の上に置き、弱火に調整した。
しばらく待つ。
「……どうだ?」
「まだ温度は大きく変わっていませんね」
蝉丸が水の様子を確認する。
「では、中火にしてみます」
つまみを回す。
炎が強くなった。
さらにしばらくすると、鍋の底が温まり始めた。
「おお、ちゃんと熱が伝わってる!」
唯衣が嬉しそうに声を上げる。
「強火も試してみましょう。ただし、短時間だけです」
蝉丸が強火に切り替えた。
炎が勢いを増す。
鍋の水から、少しずつ湯気が立ち始めた。
「すごい……」
俺は思わず呟いた。
魔石を使い、魔導回路で炎を制御する。
それだけの仕組みなのに、目の前で実際に鍋の水が温まっている。
ようやく、料理に使える道具になりつつあった。
「よし。いったん火を止めよう」
俺が言うと、蝉丸は停止用の操作部を押した。
――カチッ。
炎が消えた。
「……消えたな」
「はい。魔力の供給も止まっています」
蝉丸は魔石と魔導回路を確認した。
「今の試験では、異常な発熱や魔力の流れの乱れは見られませんでした。ただ、繰り返し使用した場合の耐久性は、引き続き確認する必要があります」
「それでも、大きな進歩だ」
俺は笑った。
「これなら、実際に料理を作るところまで進められそうだな」
◇ ◇ ◇
「料理!」
唯衣がすぐに反応した。
「ねえ、海斗さん。試しに何か作ってみようよ!」
「そうだな……」
俺は少し考えた。
初めて使う調理器具だ。
いきなり難しい料理を作るより、火力の調整が分かりやすいものがいい。
「まずは、簡単なスープにしよう」
「スープ?」
「ああ。弱火で温めたり、中火で煮たりできるか確認しやすいからな」
「いいですね」
蝉丸も頷いた。
「調理中の火力調整も試せます」
俺たちは食材を用意した。
村で手に入れた野菜。
保存していた肉。
塩や香草。
まずは野菜を切り、肉を食べやすい大きさにする。
唯衣が野菜を洗い、慎之助が肉を切る。
俺は鍋に水を入れ、調理の準備を進めた。
「こういうの、久しぶりだな」
慎之助が肉を鍋に入れながら言った。
「何がです?」
「火加減を気にしながら料理することだよ。いつもは薪の火を見ながら調整してたからな」
「今回は、つまみを回すだけですからね」
「便利になったもんだ」
蝉丸が魔導コンロの横に立ち、動作を確認している。
「では、点火します」
炎が灯った。
まずは中火。
鍋が温まり、肉と野菜の香りが立ち始める。
煮立ってきたところで、俺は弱火に切り替えた。
「おお、簡単に変えられるな」
「火が強すぎるときも、すぐに調整できますね」
唯衣が感心したように鍋を覗き込む。
「焦がす心配も減りそう!」
「いや、火力を調整できても、目を離したら駄目だからな」
「分かってるって!」
唯衣は笑った。
しばらく煮込むと、スープが完成した。
俺たちは器に取り分け、さっそく味見をする。
「……うん」
俺は一口飲んだ。
野菜の甘みと肉の旨味が出ている。
特別な料理ではない。
けれど、自分たちで作った魔導コンロを使って、初めて完成させた料理だ。
「美味しい!」
唯衣が笑顔になった。
「火加減を調整できるのって、やっぱり便利だね!」
「そうだな」
慎之助もスープを飲み、満足そうに頷いた。
「これなら、煮込み料理も作りやすくなりそうだ」
「魔導回路が安定すれば、日常的に使えるようになるかもしれませんね」
蝉丸も嬉しそうだった。
もちろん、まだ試験は必要だ。
魔石の消耗具合。
長時間使用したときの安全性。
魔導回路の耐久性。
確認すべき点は残っている。
それでも、初めての料理が無事に完成したことは大きな成果だった。
◇ ◇ ◇
夕方。
俺たちは、その日の作業をいったん終えることにした。
台所には、作業台と棚が形になり、魔導コンロもひとまず使える状態になっている。
流し台や配管は、給水設備と浄化槽の工事に合わせて仕上げる予定だ。
「明日は、グスタフさんに魔導コンロの金属部分を見てもらおう」
俺が言うと、蝉丸が頷いた。
「耐熱性や、長時間使った場合の変形について相談したいですね」
「俺は棚の仕上げを進めておくぜ」
慎之助が言う。
「私は食器を整理する!」
唯衣も元気よく手を挙げた。
「よし。それぞれ頼む」
俺は魔導コンロを見た。
魔法陣と魔導回路で火を灯し、火力を調整する。
現代日本では当たり前だったことが、この世界では新しい道具を作ることで実現しようとしている。
便利な生活は、一日で完成するものではない。
けれど、一つずつ形にしていけば、少しずつ暮らしは変わっていく。
「……次は風呂だな」
思わず呟いた。
浴槽を作り、湯を温める設備を用意し、給排水につなぐ。
考えることはまだまだ多い。
それでも、台所の準備が進んだことで、次の目標がはっきりと見えてきた。
異世界での快適な暮らし。
その実現に向けて、俺たちはまた一歩前進した。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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