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閉じ込められた部屋  作者: 鷺岡 拳太郎
第9章

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「真尋……」


「真尋……」

 美和は、ベッドの上の真尋に声をかける。

 だけど真尋はその声には反応せずに、また、

「……なさい」

 と呟いた。夢遊病者のように眼は閉じられていて、そして顔には生気がなかった。何かがおかしい。

「……なさい」

「どうしたの。真尋。何が言いたいの」

 真尋が何かを伝えようとしている。

 美和は自分の耳を真尋の口元に寄せて、耳を澄ました。

「……ごめんなさい」

 真尋は、何かに向かって謝っていた。

「……ごめんなさい」

「どうしたの、真尋。どうして謝るの」

「……ごめんなさい」

 真尋は熱病患者の譫語のように、ごめんなさい、という言葉をただひたすら繰り返している。真尋の閉じられた目には涙が溢れ、そして顔の横へと筋を描いて流れ落ちていった。美和は右手で真尋の頬に触れ、涙を拭う。

「あなたは十分に苦しんだ。もう、謝らなくてもいいのよ」

 それでも真尋は、閉じられた目から涙を溢れさせながら、小さな声で「ごめんなさい」と呟き続けていた。まるで6歳の少女であるかのように。

 美和はそんな真尋の様子が哀れで、見ていられなかった。ベッドの上の真尋の右手を両手で強く握る。そして、

「たとえこの世界があなたを許さなくても……、私は……、私だけは、あなたを許すから……」

 と語りかけた。

 真尋の口から、「ごめんなさい」という言葉が止まった。

 だけど依然としてその目は閉じられたままだった。

「真尋……?」

「……しいよ」

「え?」

「……苦しいよ。……ここから出してよ」

「どうしたの、真尋? 何があったの?」

 目を閉じたままの真尋は、苦しそうに顔を少し歪める。

「……お母さん。……助けて」

 六歳の真尋が結局言うことができなかった『助けて』という言葉。その言葉を、目の前の二十歳になった真尋が呟いていた。

 美和の頬にも、涙が流れていた。

 その流れる涙の感触で、自分が泣いていることに初めて気づいた。

 自分がなぜ泣いているのか分からなかった。自分が悲しいのか、苦しいのか、恐ろしいのか、分からなかった。ただ、自分の中で様々な感情が渦を巻いていた。その渦に飲み込まれながらも必死になって踏みとどまり、そして真尋に、

「戦うの……」

 と言葉を投げかけていた。

「あの夜のあなたのように……、あなたの存在を、理不尽に踏みにじってくるものに対して戦うの……。あなたの存在を、理不尽に押し潰そうとしてくるものに対して戦うのよ……」

「……」

「六歳のあなたができたのだから、今のあなたができない訳がない……」

「……」

「戦いなさい」

 美和の強い言葉が、静かな病室の中に響いた。



挿絵(By みてみん)


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