会 ②
日本が強いということはタイランも分かっている。
しかしその強さが超能力に依存したものであることもまた事実。
戦争で必要なのは兵器であり超能力ではない、というのがタイランの――というか多くの中国人の考えだった。
「お前が強いと分かったところで、某の判断でどうにかできるものじゃない。同盟関係になるかどうかは国が決めることだ」
「ぶっ」
違和感を覚える一人称を聞いて吹き出した鈴は、数回咳払いして真面目な顔に戻り、タイランに問う。
「でも、今こっちの政府はあってないようなもんじゃん。どうにでもできるんじゃないの?」
「無理だ」
「お堅いなぁ。融通利かない男はモテないよー?もういいや、中将さん出してよ。今はそいつが1番のお偉いさんでしょ?」
「ティエンだってそういうことには興味ない。……あいつは国がどうなろうがどうでもいいんだ」
そこまで言ってどうして不審者とここまで会話をしているのか、と今更疑問を感じ口を閉じた、が。
「ね、お前、そのティエンって奴のこと嫌いでしょ」
次に投げられた言葉にタイランは瞠目した。
表情に出していたつもりは無かったからだ。
―――タイランがティエンと出会ったのは、軍に入って間もない頃である。
タイランは生まれつき優秀な男だった。
何でもできた。中国にそうそういないAランクレベルの能力を何の苦労もなく手に入れていたし、物覚えも良く身体能力も高かった。
お前以上の子はいないと褒められて育った。タイラン自身もそう思っていた。
―――しかし、タイランはこの軍で、生まれて初めて勝てない男に出会ったのである。
世界最年少にしてSランク能力者となった少年。
中国人唯一のSランク。
今や世界トップクラスの軍事力を誇る大中華帝国軍の上将兼中将の役割を果たす、異例の10歳。
過去所属していた大中華帝国屈指のエリート軍事能力者学校では学力・運動能力・超能力において常にトップを維持し、戦闘機の扱いでも右に出る者はおらず、軍の要望で引き抜かれた男。
―――そんな“化け物”が自分より年下であることに、タイランは少なからず動揺した。
上将が死んだ時、タイランは密かに期待していた、もしかしたら自分が次の上将に任命されるのではないかと。
しかし実際は違ったのだ。
普段真面目に振る舞っている自分は選ばれず、将官会議にすら出ないいい加減な少年が政府によって選ばれた。
「……奴が大中華帝国の軍人をどさくさ紛れに何人殺したか分かるか?」
「そんな言い方をするってことは多いんだろうね。10人、とか?」
「0が足りない」
「えぇ……何でそんな」
「“退屈だから”だ。大抵蜂起した民族は一瞬でティエンにやられる。ティエンにとってはそれがつまらない。戦い足りなくて味方を攻撃し始める」
「ふーん?」
「あるいは、戦い方が派手すぎて味方が巻き込まれるかだ。あいつは味方を気遣ったりはしない。平気で巻き込む」
「ほうほう」
「そんな勝手な奴を好きになれると思うか?」
「それだけ?」
「は?」
「勝手だから、本当にそれだけ?嫌いな理由」
鈴はタイランを覗き込み、微笑む。
「辛いよね、圧倒的才能を持つ人間が目に見える範囲にいるっていうのは」
―――何もかも見透かされている気がした。
(……何してるんだ、俺は)
気付けば、タイランは不審者に対し案内をしていた。
一体自分が何をしたいのか分からない。
ただ―――自分と似ていると思ったのだ、鈴の眼が。
鈴のしようとしていることの先に、自分が変われるきっかけとなる何かがあるような気がした。
「ねぇ見てぇ。ネイル変えたの~」
「んー、俺はそれより口紅の方が気になるな。エロティックでイイ色だね。キスしたらどうなるんだろう」
「もー、リューシェンったらぁ」
「ちょっと、さっきからリューシェンを独り占めしすぎ!皆のリューシェンなんだからねっ?ねーリューシェンっ」
「うんうん、俺はみぃんなの物だよ?沢山オモチャにして遊んでね?」
「ねぇリューシェン、今晩はどうするの……?」
「ふふ、ここにいるみんなをベッドにお誘いしちゃおっかな。いーっぱい可愛がってくれると嬉しいな?」
「キャーッ!」
通路を塞ぐようにして立つ大勢の女性。
黄色い声とはこういうもののことを言うのか、と感心する鈴の横で、タイランが溜め息を吐いて道を変える。
「あれは気にするな」
鈴はもう少し見ていたかったが、タイランに置いていかれると困るので小走りで付いていく。
「3P以上しかしたことのないような男だ」
「3ぴ……?」
「あいつと、女大勢。そういうプレイが好きなんだよ。大勢の女に奉仕されるのが好きなんだ」
「へー、リューシェンって少校だよね?確か」
「あぁ。……名ばかりだけどな。あいつは戦闘にもろくに参加しない。リューシェンだけじゃない、ティエンやリーもそうだ。能力だけある連中を集めた結果、将官会議にも半分が参加すりゃいい方なのが現状だな」
「そりゃ大変」
他人事だな、まぁそりゃそうか、と1人納得して先を行く。
と。エスカレーターで上がってきたのは、13歳にしては少々大人すぎるファッションをした、色黒のツインテール少女。
荷物運びのロボットに大量の袋を持たせている。恐らく服でも一気買いしたのだろう。
「あれれっ?タイランじゃ~ん。そっちの人だぁれ?」
タイランはリーの甘ったるい声が苦手だった。恐らく作った声であるだろうから余計に。
年相応のお洒落をして普通に喋れば可愛いのに、と内心いつも思っている。
「政府からの視察員だ」
不審者であることを説明すれば何故そんな人間を案内しているんだと自分まで不信感を抱かれる気がして、タイランは咄嗟に嘘を吐く。
「……ふ~ん。この若いのが?」
リーは所謂女子に嫌われる女子。女を見るとすぐに相手の姿を上から下までじろじろ見て、自分との優劣を比較する。
自分と比べれば地味だ、勝った、等と内心思いながら、次にタイランと鈴を交互に見る。
特にタイランに恋心を抱いているというわけでもないのだが、タイランと他の女が2人で歩いているのは負けたような気がして嫌、なんていう滅茶苦茶な思いを抱いたリーは、愛想よく笑ってみせた。
「あなたお名前はっ?」
「鈴です」
「鈴さ~ん!可愛いお名前~!ねぇねぇ、タイランの代わりにリーが案内してあげよっか~?」
「あぁ、はい。よければ是非」
あっさりと了承する鈴にタイランはぎょっとした。
リーは鈴が不審者であることを知らない。本当に視察員だと思い込んで見せてはいけないものまで見せてしまうのではないか。
「いや、必要ない。お前は部屋に戻れ」
「ふぇ?何で~?リー、鈴さんとお話したいなっ」
「いいから戻れ」
頑ななタイランにムカッとしたリーは、
「んも~っタイランの意地悪ぅ!」
と言って、その甘ったるい声には似合わない程強い力でタイランを突き飛ばした。
Aランク増強能力。
腕力やスピードなど、本来の身体能力の限界を大幅に超えることのできる能力だ。
何も鍛えていない13歳の少女にしては強すぎる力で突き飛ばされれば、骨が折れてもおかしくはない。
「っ、ぐ、……」
「じゃあ行ってくるね~っ!タイランは部屋に戻ってていいよっ」
「ッおい!待て!」
タイランの制止も聞かず、鈴の腕を引っ張って物凄いスピードで消え去ったリーは、曲がりなりにも中国には珍しいAランク能力者の1人であり、中国軍の中校でもあるのだった。




