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深を知る雨  作者: 淡雪みさ
第一章

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24/200

2200.12.23 ③



 《21:15 日本帝国軍軍事施設》



思ってたより早く到着することができた。着替える時間も十分あった。


外出許可をきちんと取ったわけではないので出入りしているところを見られるわけにもいかず、正式な入り口ではない方から入ってこっそりCランク寮に向かっていると、Aランク寮に明かりが付いていることに気付く。


まぁまだこんな時刻だし、起きてても不思議じゃないか。


窓からこっそり覗くと、居間には薫と遊、楓だけが座って話をしている。里緒はいない。……ちょこっとだけ顔出してもいいかもな。


小雪との約束の時刻まであと15分。車乗って行けば3分前にここを出ても多分間に合う。


そう思って呼び鈴を鳴らした私は、予想以上の速さでドアを開けられて正直ビビった。


居間から走って来たらしい楓は、「やっぱり、こんな時刻に来るならあんただと思った。いいところに来たわね」と何故か満面の笑みを浮かべて私の手を引っ張り、早足で居間まで向かわせる。


居間に着くと、ソファに並んで座る遊と薫が同時にこちらを向いた。


その目が悲しそうに見えるのは気のせいだろうか。


「ホットプレート。新しいの買ったの」


テーブルの上にあるのは、楓が注文したらしいホットプレート。


「お好み焼きだけじゃなくて焼き肉とかタコ焼きもできるのよ。凄いでしょう?」


得意げな顔で鼻を鳴らす楓だが、どうしてもその後ろの、げっそりした顔で座っている2人に目がいってしまう。


……何でこいつら、この世の終わりみたいな顔してんの?


「それで、今度お好み焼きパーティーをしようと思うんだけど。あんたもどう?」

「え、オレ!?」

「そうよ。人数多い方が楽しいでしょ」


正直里緒には会いたくないし、Aランク寮にすら来るべきではない状況なのだが……楓のこの可愛い笑顔を見てしまうと逆らえない。


「わ、かった。行くよ」


気付けばそう答えてしまっていた自分を殴りたい。


くっそ、楓だ、楓が悪い!スウィートスマイルで誘ってきやがって……!性的な目で見るぞ!



と。


「底辺、ちょっと来い」


薫が立ち上がり私の肩に手を回して少々強引に引き寄せ、ひそひそ声で訴えてくる。


「どうにかしてくれ」

「どうにかって、何をだよ?」

「楓は絶望的なまでに料理が下手なんだ」

「料理っつってもお好み焼きだろ?プレートもあるんだし……」

「卵もまともに割れねぇ程度の腕前だぞ」

「……」

「しかも本人は不器用である自覚がない」

「……」

「あいつに料理をさせちゃなんねぇ。来るなら何としてでもあいつが料理しようとすんのを止めろ。俺たちだけでつくるぞ。分かったな」

「何話してんのよ?」

「なっ、何でもねー!」


楓に近付いてこられたので弾けるように顔を上げた。


「て、ていうか楓、薫と話すようになったんだな。やっぱ、薫と里緒が話するようになったから?」

「……まだ完全に許したってわけじゃないけど。ハグもしてないしね」

「だーかーら、それは無理だっつってんだろうが!話すのが限界だ、あいつとは。下手に触ったらまた暴走すんぞ」

「お好み焼きパーティーでハグするってのはどう?あたしや遊がいる前なら里緒も安心でしょ」

「ふ、ざ、け、ん、な!」


……やっぱり里緒も参加するのか。大丈夫かなー?私。


場合によっちゃこのメンツに隠してることの一部がバレちゃうかもしんない。里緒がどこまで分かってるのか分からないから、何とも言えないけど。


「あ、そうだ。ねぇ、雪乃も誘っていいかしら?」

「ええけど、俺らはあの嬢さんとは面識無いからなぁ」

「別にいいじゃない、これから知り合えば。雪乃、Sランク寮じゃ楽しくないみたいだし、ちょっとは楽しい思いさせてあげたいの。姉として」


うんうんそうだよな、姉として妹には嫌な思いばかりさせたくはないよな、うんうん。………うん?


「あ、姉!?」

「え?」

「姉って何!?sisterの姉!?」

「ああ、あんたには言ってなかったっけ。あたしと雪乃は義理の姉妹みたいなもんよ」

「ど、どういうこと?」

「雪乃の家って特殊でね、生まれた子供を必ず他の家に預けるの。雪乃はあたしの父親が預かって育ててた。って言ってもあたしのいる家とは別の家でだけどね。あたしの父親、いくつか家持ってるから」


そういえば、小雪が同じようなことを言っていた。


いやでも楓と義理の姉妹だなんて………知り合いだったのはそういうこと?


ああっ複雑な人間関係に付いていけない!


「じゃ、じゃあさ!小雪も誘っていい?」

「え?雪乃のお兄さん?」

「あの兄妹、あんま喋ってないみたいだしさ。家族なのにそういうの……寂しいじゃん?」

「あたしはいいけど……里緒はどうかしらね。知らない男ってなると」

「ええんちゃうの、別に。訓練でも知らん男は周りにようさんおるわけやし、慣れさせるっちゅう意味でもええ機会やろ。リハビリやリハビリ」

「だよな!早速伝えてくる!」


小雪んとこはこれから行く予定だったしちょうどいい。


しかし、楓の声が走り出そうとする私を止めた。


「あ、待って。あたし達、あんたの連絡先まだ聞いてない」

「………え」


連絡先は必要最低限の相手にしか教えていない。


今教えているのはティエンと泰久、一也くらい。小雪にも教えてない。


教えているのは必要最低限の相手―――戦争において、いつか頼るかもしれないと思っている相手だけ。


「……あー、ごめん、今端末修理に出してるんだ」


こんなことを一線と呼ぶのは変かもしれないが、私にとって相手からこちらにいつでも連絡してこれる状態にさせないことは、ある種のラインだった。


だから、嘘を吐いた。


「そう?じゃあまた今度ね」


この時私の嘘に気付いたのは―――多分、遊だけだった。





少し遅れてしまったが、小雪は「おそーい」なんて緩く笑って私を部屋に入れてくれた。小雪の部屋のテーブルには既に晩御飯が並べられていて、待っていてくれたことを知る。


「ごめん小雪、遅れちゃって。……あ、あとさ!今度一緒にAランク寮行かない?」

「え?何で?」

「お好み焼きパーティーするんだって」

「……行かない。Aランクの奴らのこと知らないし」

「えー、でもでも、雪乃も来るよ?」


“雪乃”という単語を出した途端、小雪の表情が曇った。それは、雪乃に小雪の話題を出した時、雪乃がした表情と似ていた。


「なら、尚更行かない」


吐き捨てるように言った小雪は、私から視線を逸らして椅子に座る。


「絶対楽しいよ?行こうよ」

「俺は行かない」

「むーー」

「そんな顔してもダメ」

「雪乃だって喜ぶと思うんだけどなー」

「この世界はね。どう足掻いたってうまくやっていけない家族の方が多いんだよ」


そう言われると、さすがにそれ以上何も言えなくなった。


「……そっか」


遠慮がちに返事して、食事に手を付ける。余所の家のことなのに言及しすぎた。これ以上はやめとこう。


暫しの沈黙の後、小雪が口を開く。


「哀は、行きたいの?」

「へ?」

「俺と。お好み焼き食べたい?」

「……うん。でも、無理にとは…」

「分かった」

「え!?」

「行くよ。いつ?」

「いつかはまだ、聞いてないけど……え、いいの?」

「良くはないけど。哀は行きたいんでしょ」


きゅーん、と胸が締め付けられる感じがしてテンションが上がる。


「小雪優しい!好き!」


私の言葉にふはっと柔らかく笑った小雪は、その夜私を抱かなかった。





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