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『ドラゴネクターのカエリ』  作者: 超ネオ
第1章『ここから始まる』
1/6

第1部 第1幕<学院編> 第1話「ある少女=“瀬亜 樺愛莉”」

◇ ◇ ◇


(ある少女の部屋/共存共栄史194年6月・深夜)


「んん・・んん・・・んん・・」


 暗闇の小さな部屋。二つの大きめの窓が目立つ部屋は、整理された家具と純白のベッドから部屋の清潔感が窺える。

 そのベッドで眠りについている部屋の主であろう少女は苦しそうにうなされている。


 目の前がフラッシュバックし巨大なシルエットが浮かび上がる。

 巨躯な腕とさらに巨躯かつ極太な脚を使い四つん這いで巨体を支え、巨大な二対の翼が生え体中が薔薇の茎のように刺々しく近づく者を切り刻む様な禍々しい雰囲気を漂わせる。

 そして、顔つきが巨大な顎が群を抜いて特徴的でワニを連想させる見た目。全体像を見ると・・大昔の文化遺産にあった『怪獣』? 『ロボ』? ・・は違うか・・あえて言うなら『ドラゴン』のような巨大生物のシルエットだった。


 その巨体なシルエットの前には、巨体に対して小さな体の生物が対峙していた。その対比は十対一ほどの違いがある。

 馬のような筋肉質であるも動きに速さを感じさせるシャープな体つきに、タカやフクロウを連想させる猛禽類のように鋭く逞しい脚、人間のような長い腕と器用そうな手指を持つ。

 そして顔つきが同じくイグアナやトカゲを連想させる爬虫類のような顔つき。さらにこちらは背中にコウモリを彷彿させるような小さめの一対の翼。

 全体的に見るとこちらは小型の『恐竜』・・いやいやこっちこそ『ドラゴン』でしょ!・・のシルエットだった。


 けれど、巨躯な生物との明らかな違う点がその体には人が乗っていた。

 ミディアムロングの髪型とライダースーツのような服装を着込む女性のシルエットがその生物に跨りともに目の前の巨大生物に拳を構えていた。


 再びフラッシュバックし新たな幻が映し出されていく。

 倒れている女性のシルエットを抱き寄せていた、恐らく彼女自身がだろう。目元を影で覆い隠している女性が弱弱しい力で右手を上げ自分の頬に手を添えてくる。


 三度目のフラッシュバックが起きる。

 今度は、自分の肩を強く握り強風でなびいている髪で素顔が伺えない新たな女性が強い口調で自分に何かを訴える。が、意味を理解することなく視界は再びフラッシュバックし意識が回復していく。

 勢いよく上体を起こして声にならない息を大きく吐く。


「はあはあはあはあ、んん! はあはあはあはあ、はあはあはあ、はあはあ、はあはあ、はあ、はあ、はあ、はあ」


 少女はベッドの上で勢いよく上体を起こし、目を見開き青白い表情を浮かべ息を整えようとする。

 ネグリジェの上から胸の谷間を両手で強く押さえ何とか落ち着かせようとするも、呼吸のリズムがなかなか安定しない。


「はあ・・はあ・・はあ・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・」


 徐々に息が整っていき次第に表情にも落ち着きが見え始める。


「また・・どうして、こんな夢ばっかり・・」


「ううん、大丈夫・・」


 呼吸が落ち着いてきたところで胸を押さえていた手を解き、右手で頭を支える。呼吸を落ち着かせるまでのペースに乱れがないところを視ると初めてのことではないことがわかる。何度も見ているだろう悪夢に少女は、呆れと悲しみが顔に滲み出る。


 コンッコンッ!!

「お嬢! どうされましたか!? 大丈夫ですか!?」


 ドアをノックする音の後に男性の声が響き、その時お嬢と呼ばれた少女は他者に心配されていたことに気付いたようだ。


「ごめんなさい! 僕は大丈夫です、悪い夢を見ちゃって驚いただけです」


「・・わかりました、何かあればお申し付けください」

「はい、ありがとうございます」


 ドアの向こう側の男性に申し訳ない表情で返事をして、月夜の窓の向こう側を眺める。

 少女『瀬亜 樺愛莉【セア カエリ】』は今日もまた悪夢に悩まされるのであった。



◇ ◇ ◇


(瀬亜【セア】家自宅内/朝)


「お嬢様方、おはようございます!!」

「おはようございます!!」

「お嬢たち、おはようございます!!」


 廊下を行き来する黒いつなぎの様な服装を身に纏った何人もの執事の男性達が、廊下の真ん中を歩く少女たちへ挨拶をする。


「おはようございます!」

「おはようございま~す」

「おはようございます」


 はきはきした口調で耳から肩にかけてのおさげが特徴の『瀬亜 湊【セア ミナト】』。

 おっとり口調でロングヘアーを大きめのリボンでハーフアップしているのが特徴の『瀬亜 汐【セア ウシオ】』。

 落ち着いた口調で長い髪を三つ編みに束ね左肩から前に垂らすという髪型が特徴的な『瀬亜 漣【セア レン】』。

 三人は執事達に挨拶を返しながら食堂へ向かう。遅れて二人の少女も続いてくる。


「おはようございます! お嬢方!!」

「おはようございます!!」

「お嬢様方、おはようございます!」

「皆さん、おはようございます!」

「おはようございます・・」


 元気な返事を返すポニーテールが特徴的な『瀬亜 愛莉【セア アイリ】』。

 あきらかに元気のない返事を返すミディアムロングが特徴の『瀬亜 樺愛莉【セア カエリ】』。


「・・樺愛莉お嬢大丈夫ですかい?」」

「はい、昨夜もすみませんご迷惑をお掛けして」

「いやいや! とんでもねぇ!」

「失礼ですがお嬢、お顔色が優れませんが本当に大丈夫ですか?」

「樺愛莉、また悪い夢を見たの?」

「ん? 樺愛莉?」


 執事さんたちが心配して声をかけてくるのに姉の愛莉や離れていた同い年の漣も樺愛莉に心配の眼差しを向ける。


「うん・・でも大丈夫そのあとは寝れたから」

「本当に?」

「夜中の1時ぐらいでしたぜ」

「えっと、でも寝れたから大丈夫・・大丈夫だよ」


 樺愛莉は何とか大丈夫とアピールし心配する姉と執事たちを説得させるも、それでも無理しているのはお見通しな彼らは心配な様子を変えない。


「大丈夫って本人が言うなら大丈夫じゃないですか、愛莉姉さん、清【シン】さん、芯娯【シンゴ】さん」

「漣」

「「漣お嬢」」


 心配する三人に声をかけながら通り過ぎ樺愛莉へ近づく漣の表情は心配している・・いや若干怒っていた。

 ・・そんなふうに見えない? わからないかしら?


「樺愛莉も何かあれば私たちに言ってよ」

「う、うん」

「・・そうね、無理はしないでね樺愛莉」

「俺たちもいつでも力になりますので」

「私たちに遠慮などしないでください」

「はい姉さん。ありがとうございます清さん、芯娯さん」


 樺愛莉が皆に感謝していると。


「おーい! 立ち話してないで飯にしよう!」

「樺愛莉ちゃん、汐お姉ちゃん手作りお茶漬け食べましょう~」


「またお茶漬け?」

「今日は塩昆布とあったかいほうじ茶ですよ~」

「いや、そうことじゃなくて・・」


 食堂から顔を覗かせて招き入れる湊と汐。先に行っていた二人もまた樺愛莉を気にかけて声をかけてくれたが、汐に呆れながら突っ込みを入れる湊と普段通りの光景にしか見えなかった。


「そうねご飯食べましょう」

「では俺たちも」

「失礼します」


 愛莉の一言を機に、愛理は食堂へ、清と芯娯はそれぞれ持ち場へ向かう。


「私たちも行こう漣」


 声をかけて食堂向かおうと漣の隣を通りすがろうとすると、勢いよく腕が伸びて樺愛莉を捕らえる。


「きゃっ!? え! え、漣!?」


 漣と向き合う感じで彼女の両腕により強く抱かれ上目遣いで顔を見ようとすると、そこには怒っている。というより心配な表情を浮かべている漣の顔が見えた。


「約束してよ助けてほしいときは絶対に頼って、ずっと私はか・・樺愛莉の味方だから」

「・・うん、いつもありがとう漣」


 表情の変化が乏しいがいつも本気で心配してくれる同い年の妹に感謝を伝えている時には、樺愛莉の心には安心感が満たされていた。・・・というより嬉しそう。


「おーーい、いつになったら飯にするんだお二人さん」


 食堂から呆れた表情で覗く湊にツッコまれ、離れたところから微笑ましく見ている執事さんたちに気付いた二人は急いで食堂へ向かう。

 ・・・ああ、恥ずい。



◇ ◇ ◇


(瀬亜家正門前/朝)


「心配していたのに“堂々と”、“朝ぱっらから”、“熱々のシーン”を拝めるとはねぇ」

「まあまあ樺愛莉ちゃんと漣ちゃんが仲良しなのは“前々から”知ってるじゃないですか~」

「姉さんたち、あまり意地悪なこと言わないでください」

「あはは・・」

「ん?樺愛莉とは仲がいいと思うが?」


 所々で語彙を強調させ二人の抱擁の件をおちょくる湊と汐に対し、苦笑いしながら注意する愛莉とどう反応しようか困り顔を浮かべる樺愛莉に対しておちょくりに全然気づいていない漣。彼女たちは自宅の正門前で誰かを待っていた。

 ・・・はあああーーー(ドデカい溜息)。


「お待たせして申し訳ありませんお嬢様方!」

「こちらの準備が整いました」


 執事さんたちの声に気付き全員が自宅の正門に向き直る。

 そこには三頭の生き物を先導する執事さんたちと二人組の男女が五人に近寄ってきている姿があった。


「ありがとうございます。暖【ダン】さん、上役【ウワヤク】さん、栄紀【ヒデキ】さん」

「『フォグス』」

「『テュポス』ちゃん」

「『テラ』」

「母さん、父さん」

「皆さん、おはようございます」

「おはようみんな、愛莉。待たせてすまなかったな」

「いえ」


 愛莉に母さん・父さんと呼ばれたのは母親である『瀬亜 椿姫【セア ツバキ】』と父親の『瀬亜 闇夜【セア ヤミヨ】』である。


 さらに『フォグス』『テュポス』『テラ』と呼ばれた三頭の生き物は、体長は平均三メートルで馬のような筋肉質であるも動きに速さを感じさせるシャープな体つき。

 タカやフクロウを連想させる猛禽類のように鋭く逞しい脚。

 人間のような長い腕と器用そうな手指を持ち。

 顔つきがイグアナやトカゲを連想させる爬虫類のような顔つき。

 背中にコウモリを彷彿させるような小さめの一対の翼を持つ『ドラゴンフォグス』『ドラゴンテュポス』『ドラゴンテラクレス』である。


 彼らは『ドラゴン』。

 ・・・あと今後は同じ名前の子はドラゴン何々じゃなくて名前だけで呼ばせてもらうからね・・なんでって、めんどいから。


「それじゃあ学院へ行こうか」


 と言った途端、椿姫は離れると闇夜の体は発行し粒子状になり再結集していき、ある形になっていく。『ドラゴン』、『ドラゴンダーク』へと変身した。


「本日もよろしくお願いします、ダーク」


 そう言うと愛莉は背を低くして屈むダークの背中へと跨ぎ乗馬ならぬ乗竜する。その間にも湊はフォグスに、汐はテュポスに、漣はテラことテラクレスにそれぞれ乗竜していた。

 残った樺愛莉の元へと漣を乗せたテラクレスが近づき、漣が手を伸ばす。


「樺愛莉、掴まって」


 樺愛莉は漣の手に掴まって屈むテラクレスへと飛び乗り漣の前に跨り乗竜の準備を整える。出発しようとしたその時。


「樺愛莉さん」


 樺愛莉は声をかけられ振り返ると椿姫が駆け足で駆け寄ってくる。


「はい」

「樺愛莉さん、本日の夕方に麗那生【レナイ】と『サーガ』、朧気【オボロゲ】さんが帰ってくきますので楽しみにしててください。」

「・・え!? ホントですか!?」

「本当ですよ」

「やったー!」


 驚きと喜びで興奮気味の樺愛莉の問いに、笑顔で答える椿姫の返答によって彼女の興奮はさらに高まった。


「あ、元気になった」

「元気一万倍、元気爆発ねぇ~」

「これなら本当に大丈夫そうね」

「よかったな樺愛莉」


 四人に祝され今朝の様子が嘘のように元気を取り戻した後。五人は椿姫たちに見送られ学院へと向かう。


「喜んでくれてよかった、元気も戻ってきたようだし・・皆さんいつも娘たちをありがとうございます」

「とんでもございません。私たち全員お嬢様方の幸せを願っていますから」

「私たちを家族として向か入れてくれた奥様方・旦那様方やお嬢様方には感謝しかありません」

「それに実際に樺愛莉お嬢様を元気付けたのは漣お嬢様と奥様ですよ、私たちは何も」


 椿姫にお礼を言われた暖さん、上役さん、栄紀さんは照れるも自分たちの思いを各々答える。・・皆、彼女のことをすごく大事にしてくれている。


「それにしても最近の樺愛莉お嬢様の様子がやはり心配です」

「一週間ほど前から悪い夢を見るようになりましたね」

「・・奥様、やはり奴らが動き始める予兆と見て間違いないでしょうか」


 上役さんの一言で暖さんたちに緊張感が走り表情がこわばっていく。対して椿姫はあくまで冷静な様子で。


「そうですね、また危険なことが起こることでしょう・・」

「そうなったとしても私はあの子たちを守りたい・・皆さん、頼りない私ですが今後も力を貸して頂けますか?」

「「「もちろんです!!」」」

「それと奥様を頼りないと思ったことは一度もございません」

「お嬢様方をお守りするのは我々の務めであり、願いです」

「俺たちこそ、今後ともどうか宜しくお願い致します!」

「・・ええ御願い致します。ありがとう」


 椿姫の問いに三人は躊躇なく強く返答する。表情も真剣そのものだった。・・彼らの椿姫への忠誠心と覚悟は本物だ。


「けれど無茶はしないでくださいね、皆さんは私たちの家族なのですから」

「「「はい!」」」

「・・もう娘たちに悲しい思いをさせたくない」


 全員樺愛莉が悪い夢を見るようになったことを『奴ら』の出現の予兆だと考えていて、『奴ら』への警戒を改めて意識していく。

 ・・樺愛莉の、いや樺愛莉たちの戦いはもうすぐ始まろうとしていた。


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