第43話 外伝4 人魚の過去
Side ~人魚~
私の名前はニンヨ。
これでも昔は人間の女の子だったの。
私の家は悪名高い頂上国でも有数の大金持ちで、それなりに力や権力があったわ。
おかげで危険人物だらけのあの国でも、家族揃って平和に暮らせていた。
そんな穏やかだけど退屈な日々の中で、私はあの人・・・シラタ様に出会ったの。
あの人はまるで作り話に出てくる王子様のような、とても美しいお方だった。
一目見ただけで、私の心は全てあの人に奪われてしまったわ。
けれど、私のお父様はあの人の事をあまり良く思ってなかったの。
あの人の両親は上級貴族で、私欲のために他人を平気で踏み潰す方達だから・・・。
最も頂上国の権力者達は皆、そういう人達ばっかりだったんだけど。
いたずらに誰かを傷つける事を嫌う、私の両親の方が珍しいくらい。
だけど・・・。
「君の父上は誤解しているだけだ。
俺は頂上国に済む全ての人達の幸せを願っている。
もちろん一番幸せにしたいのはニンヨ、君だけどね。」
あの人はあの人の両親とは違う。
この国の英雄にだって負けない、素晴らしい心の持ち主なんだって。
あの頃の私はそう信じていた。
なのに・・・。
それなのに!!!!
「きゃああああ!!
シ、シラタ様・・・なんで!?」
「ニンヨ、君は本当に頭の悪い女の子だね。
あんな演技に騙されるなんて・・・まあ、良いや。
俺がこの国でのし上がるための踏み台になってくれ!!」
私はあの人に騙され、魔族・・・人間の知能を持つ人魚の魔物へと作り変えられてしまった。
・・・元々、私には初級魔法を使う程度の才能はあったの。
だから、魔族を作るための素材として注目を集めていたんだって。
魔族に変貌した私は隷属の首輪を嵌められ、あの人の奴隷として扱われるようになった。
「やだ・・・。
やめて、それだけは許して!!」
「うるせえ。人間気取りの化け物が。
俺はな、あいつ等の財産を根こそぎ奪いたいんだよ。
さあ、お前の魔法で貴様の家族を皆殺しにするんだ!!」
「いや、いやぁああああああああ!!!!」
ブシュ。
隷属の首輪の力に屈したら最後、主には何があっても逆らえない。
私は大好きだった家族を、私自身の手で皆殺しにしてしまった。
私が・・・私があの人に騙されたせいで!!
その後も私はずっと、あの人の命令で戦わされ続けたの。
敵からの猛攻を受け、幾度となく生死の境を彷徨ったわ。
逆に数え切れない程の敵・・・いえ、人間に手を掛けた。
逃げ惑う人達を惨たらしく殺せと命令されたりもした。何度も、何度も・・・。
ナンデ・・・ドウシテ・・・。
ドウシテコンナメニアワセルノ?
いつの間にか私の心は壊れてしまった。
でも、そんな日々も魔王様の誕生と暴走により終わりを告げたの。
魔王様の凄まじい魔力の波動を受け、私の首に嵌っている隷属の首輪は粉々に砕け散ったわ。
あの隷属の首輪・・・強すぎる魔力には耐えられないようね。
後で聞いた話だと、電撃でも簡単に壊れるようだけど。
魔王様や他の魔族達は、頂上国や魔大陸そのものに強い怒りをぶつけた。
だけど、私が想いを寄せているのはたったの1人だった。
そう・・・たった1人だけ。
心が壊れてなお、追い求めたあの人だけ!!
「よ、よせ。近寄るな・・・。
やめろ、やめろーーーーーーーー!!!!」
晴れて自由になった私は、あの人と一緒に幸せな日々を過ごす事になった。
とは言え、私達に待ち受けるのは苦難の日々だったわ。
まずあの人ったら、情けないくらい弱いせいで、軽い折檻でも死にそうになるの。
当時は死ねなくなる呪いなんて使えなかったし、上手く想いをぶつけられなくて・・・。
とっても悲しかったのよ。
それにある時なんて、勇者に見つかってしまって・・・本当に怖かった。
中級魔法程度で敵う相手じゃないのはすぐにわかった。
殺されるかと思った。
けど、私が勇者に成敗される事は無かった。
「『罪の無い人』を襲わないのなら、危害を加えたりはしない。
・・・だけどいつか、君が憎しみから解き放たれる事を願ってるよ。」
悲しそうな目でそう告げた後、勇者は私達の前から去って行った。
何故かはわからないけど、少しだけ心がチクりとしたわ。
でもね。世界最強の勇者でさえ、私達の絆を断ち切れなかったのよ。
凄いでしょ?
さらにしばらく経ったとある日、天から翼を持つ悪魔が私達の元へとやって来た。
とても格好良いけど、とても恐ろしい目つきをした怖い、怖い悪魔の力を持つ魔族。
マズいと思った。
魔族達は頂上国の人間を心の底から憎んでいる。
案の定、悪魔は憤怒の表情であの人を殺そうとした!!
勇者様ほど強くはないにせよ、それでもあの悪魔は私なんかが勝てる相手じゃない。
けど・・・それでも!!
「やめて、お願い!!
私からあの人を奪わないで!!!!
・・・私にはもう、あの人しか残ってないの。」
私は泣きながら悪魔に向かって叫んだ。
魔物の姿に変えられ、家族を始めとする多くの人間を殺してしまった私・・・。
今の私にはもう、あの人への想いしか残っていなかった。
あの人がいなくなったら私はもう、生きていけない!!
私の叫びを聞いた悪魔は少し驚いた顔をした後、私と折檻で気絶中のあの人を見た。
そして、あの人へ危害を加えるのを止めてくれた。
・・・悪魔でさえ、私達の絆を尊重してくれるのね!!
悪魔から事情を問われた私は、これまでの出来事を包み隠さず話したわ。
話を聞いた悪魔は私に対し、こんな提案を持ち掛けてきたの。
「死が二人を分かつまで、そのゴミクズと共に過ごしたいか?
そう願うのであれば、魔王と出会い、呪術を教わると良い。
お前の想いが本物であれば呪術は発動し、そのゴミクズもそう簡単に壊れなくなるだろう。」
魔王様に教えを乞うなんて、震えるほど怖いけど、悪魔の提案は私にとって物凄く魅力的だった。
覚悟を決めた私は、魔王様への謁見に望んだの。
「事情はわかった・・・。
ならば人魚よ、お前にそのゴミクズを簡単に壊れなくするための呪術を教えよう。
ゴミクズへの想いが本物ならば、必ず成功するはずだ。
・・・成功しなかった時はそのゴミクズがどうなるか、わかっているな?」
「!! え、ええ。
わかっている、わよ・・・。」
悪魔の仲介により、私は魔王様から素晴らしい呪術を教えてもらったわ。
けど、呪術は対象への想いが弱ければ絶対に成功しない。
そして成功しなければ、きっとあの人は魔王様に殺される!!
でも例え、魔王様と言えど、あの人は絶対に奪わせない。
私とあの人の絆は魔王様にだって壊せやしない!!
あの人への想いを信じ、私は長い時間を掛けて呪術を発動させる。
「メガ・カース・ライフ!!」
すると、どす黒いオーラが私からあの人へと向かい、降り注いだ!!
「ひゃ!!
え、ええ・・・?」
「ほう・・・もしやとは思ったが、本当に成功させるとは!!
これでそこのゴミクズはそう簡単に死ねない体となった。
試しに初級魔法でもぶつけるが良い。」
「わかったわ!!
アクア・ボールズ!!」
「ぴぎゃああああああああ!!!!」
複数の水球を作り出し、あの人へ向かって全力で放り投げる。
ある程度鍛えた人間でさえ、一撃で即死する魔法を受け、それでも苦痛に喘ぐだけで意識さえ失わない。
これが・・・呪術。
「・・・人魚よ、お前の想いはしかと見届けた。
そのゴミクズは人魚、お前だけの獲物だ。
我でさえ届かぬその想い、生涯を掛け、ぶつけ続けるが良い!!」
「ま、魔王様。
ありがとうございます!!」
あの魔王様でさえ、私達の絆を認めてくれるなんて!!
私は世界最強の二人でさえ、敵わない想いを持っていたんだ。
ああ、ああ・・・なんて素晴らしい事かしら?
「人魚よ、良かったではないか。
呪術を見事成功させた褒美だ。お前の望む場所へと連れて行ってやろう。
そのゴミクズとはどこで過ごしたいのだ?」
一連の流れを側で見届けていた悪魔がそう語り掛ける。
その時の悪魔は、天使よりも優しい心を持っているように感じた。
「そうね、だったら・・・。」
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私は悪魔に運ばれ、闇大陸の暗い暗い森の中でひっそりと暮らす事になった。
人目の付かない場所であの人と穏やかに過ごしたかったから・・・。
でもまあ、闇大陸を支配中の魔族が私の元へやって来たりもしたわ。
けれど、私とあの人の暮らしを見たら笑って受け入れてくれた。
勇者も魔王様も、そして多くの魔族も優しい人達ばかりね。嬉しい。
そして私とあの人は、とても幸せな日々を過ごした。
・・・幸せなあまり、時々凄く歌いたい衝動に駆られるの。
これも人魚に変えられてしまったからかしら?
そのせいか、たまに私の歌声に惹かれて知らない人達が近づいて来た。
けど、私の脅しに屈し、素直に逃げてくれるなら、危害を加えるつもりは無かったわ。
もう逃げ惑う人達を虐殺するのもうんざりだし、ね。
さすがに私が人魚だからって、捕まえようとしたり、殺そうとする人には容赦しなかったけど。
ちょっぴり罪悪感はあったものの、私だって死にたくないもの。
死んでしまったら、あの人との幸せな時間が永遠に失われるし、仕方無いわよね?
あと何より、私をあの人を苦しめる怪物だと思い、成敗しようとする輩が許せなかった。
・・・あんた達に何がわかるの!!
何にも知らないあんた達に私とあの人の何がわかるのよ!!
そんな腐った正義感を持つ連中は、泣いて謝っても絶対に許さない!!
捕まえようとする程度なら降伏すれば見逃すけど、私とあの人の絆を否定する輩は一人残らず殺す!!
何も知らない他人に、私とあの人の何がわかるのよ・・・。
私は最後まであの人と共にいる。
勇者や魔王様にだって断ち切れなかった想いを秘めて!!
例えこの先、何があろうとも・・・。




