第37話 研究所編③ 古ぼけたノート
エルムの夢に登場する数え切れないほどの赤子の死体。
広い地下室の隅っこにある目立たない扉の先で、ついにご対面!!
・・・と、思ったのだが。
「あ、あれ・・・?
なんだ。これ??」
扉の先の部屋に赤子の死体など1つも無かった。
しかしその代わりだろうか。
とても大きな墓がそびえ立っていた。
「あ、赤子の死体なんて無いじゃない!!
脅かさないでよもう・・・。」
「けど、赤子の死体があるはずの部屋に墓が立っているなんて、意味深。」
「それにこの部屋・・・。
それほど強くないが、なんとも言えない異臭が漂っている。
元々は赤子の死体があった可能性も低くないだろう。」
・・・そうなんだよなぁ。
大量の赤子の死体があるはずの部屋に立っている墓。
めっちゃくちゃ意味深で非常に不気味だが、なぜだか物悲しい気分にもなる。
「どうなってんだよ一体・・・ん?
この墓、なんか書いてあるぞ。」
「あ、本当だ。え~と、何々・・・。
『哀れな幼き魂達よ、どうか安らかに眠れ。』だって?
・・・これ、ひょっとして赤子達の墓なのか??」
「って事は、俺が夢の中で見た赤子達は誰かに土葬されたって訳か?」
シンプルに考えるなら、その可能性が一番高いと思う。
旅の僧侶が供養でもしたのかな?
でもそれならなんで、赤子達だけ供養して、外にいる骸骨達は放っているんだろう??
「おそらくは、な。
エルムが夢で見た赤子達の死体は、この墓の下にいるのだろう。
だが、墓荒らしまでして調べるのも気が引けるな・・・。」
「そんなの当たり前。
赤子達が可哀想。」
まあ俺達、別に善人ではないけど、好奇心だけで墓を荒らすようなど畜生でもないしなぁ。
真実はどうあれ、この部屋で起きた事を探るのはやめるべきか・・・。
「・・・・・・・・・・・・。」
だが何を思ったのか、エルムがマジックバックの中をごそごそとし始めた。
ま、まさかこいつ、墓を荒らしてまで、夢が現実で起きた事なのか調べたいのか?
「何をしているの、エルム。やめなさい!!
・・・夢で見た事が現実だったのか、気になるのはわかるわ。
けど、赤子達の墓を荒らすなんて絶対にダメよ!!」
「うわっ。おい、アカリ。
いきなり大声で怒鳴るなよ。
それにいくら何でも、墓荒らしなんてするわけないだろ!!
ちょっと掃除したくなっただけだよ・・・ずっと放置されてただろ、この墓。」
少し恥ずかしそうな表情で、信じられない事を言い出すエルム。
墓荒らししないってのはともかく、他人の墓を掃除するだってぇ!?
「ど、どうしたんだ。エルム!!
炎の魔法を操る癖に、熱でも出したのか!?
具合が悪いのなら、探索は俺達に任せてもう休め。」
「ぶん殴るぞ、ライト!!
・・・確かに俺に他人の墓を掃除する趣味はねぇがな。
この墓だけはほっとけないんだ・・・なんでかはわかんないけど。」
「う~ん・・・ほっとけない、か。」
そう言われると、俺もほっとけない気分になってくるなぁ・・・。
・・・って、何でそうなるんだ?
もしかして俺、赤子の霊に憑かれちまったのか?
「そういう事だったのね。
じゃあ、私も墓掃除に付き合うわ。」
アカリまで、何を急に!?
でもアカリなら、他人の墓掃除くらいしても不思議じゃない・・・のかな?
「いや、別に良いって。
やりたいからやるだけだしさ。」
「私だって、この墓を綺麗にしたいもの。
一緒に掃除しましょ。」
「じゃあ私も。」
「・・・俺も。」
ユラにレイドまで。
皆して赤子の霊に憑かれたのかよ。
「おいおい、お前ら・・・。」
「しょうがないな。俺も手伝ってやるか。
さっさと済ませて、探索の続きといこうぜ。」
「ライトまで・・・。
ってかお前、こういう事すんの大っ嫌いなはずだろ。
・・・なんだよ、急に?」
「さあ・・・。
赤子の霊にでも憑かれたんじゃね?」
まっ、もし憑かれていたとしても、墓掃除をせがまれる程度は受け入れてやるか。
突然、墓掃除に目覚めた俺達は全員でこの部屋をぴっかぴかにし、そのまま後にした。
理由はわからないが、この墓に眠る赤子達だけは大切にしたかった。
・・・いくら赤子とは言え、どうして誰とも知れない連中にこんな感情、抱いちゃったんだろうな?
********
その後、しばし探索を続けるも目新しい何かは見つからない。
もう眠くなってきたし、探索はこれくらいにしようぜと言おうとしたその時!!
「ん? 何だ、この汚れたノートは・・・。」
レイドが古ぼけてボロボロになったノートを見つけ出した。
どうやら誰かの手日記のようだ。
「ひょっとしたら、私達の過去の手掛かりがあるかも。」
やや興奮した様子でユラが喋る。
そういやユラが一番、自分のルーツを気にしてたんだっけな。
「せっかくだから読んでみようぜ!!
・・・けどこのノート、かなりボロボロだなぁ。
かすれて読めなくなってる所もあるぜ。」
エルムの言う通り、長年放置されていたせいか、ノートの保存状態はすこぶる悪い。
・・・こんなノートから、俺達の手掛かりになる何かなんて見つかるかなぁ?
「確かに読みにくいわねぇ・・・!!??
ね、ねぇ皆。ちょっとここ、見て!!」
かなり驚いた様子で、アカリがノートのとある記述に向かって指を差す。
えーと、何々・・・?
『今回の××でも、多くの犠牲が出てしまった。
未だに生き残っている勇者の×××××××子供は、ライト、ハジメ、××イ、エルム、アカリ、ユラ、レイド、ダイチの8人のみ。
魔王達と戦うには心細い人数だ・・・。』
!!
ここに書かれているのって、ひょっとしなくても俺達の名前?
け、けど俺達が昔、ここで暮らしていたと仮定すれば、おかしな話でもない・・・のか?
なんとかイとダイチって奴は知らないが、この世界のどこかにいるのだろう。
ハジメのように、亡くなっていなければ。
・・・い、いや。
それよりも・・・。
「嘘・・・俺達、クズじじぃの言う通り、本当に勇者の子供だったのか?
し、信じられない。はっ!!
まさか俺達を騙すためにクズじじぃが偽装工作を!?」
性根の腐ったクズじじぃならありうる話だ。
あいつ、俺達に何が何でも魔王を倒して欲しがってたからな。
・・・どうせ、身勝手な理由だろうけど。
「いや、それはないと思うぜ?
俺達を騙すためだけに、こんな所まで来るような奴じゃないだろ。」
「そうねぇ。
あの人、自分は全然働かずに他人を利用したいってタイプだろうし。
こんな私達が来るかもわからない場所に罠を張るような真似、しないと思うわ。」
しかしエルムとアカリの反論を聞き、クズじじぃの偽装工作は無いだろうと思い直す。
だよな・・・。
「確かにあいつ、口先だけでやる気0だったし、絶対にそんな面倒な事はやらないよな。
・・・そういう意味でだけは、信用に値するか。」
「お前達・・・。
そんな風に思ってた奴の話に縋るほど、追い詰められていたのか。
・・・あまりにも悲しすぎる。」
これであのノートが、クズじじぃの偽装工作って線は無くなった。
つまり俺達、マジで勇者の子供だったの?
そりゃあこの世界、勇者も魔王も一応いるけど、唯一無二の存在なんだ。
おまけに世界を滅ぼしかねないレベルの強さだったと言われている。
そこまでヤバい勇者の子供で、さらに同じくらいヤバい魔王からも睨まれている俺達・・・。
嫌だ、認めたくない!!
俺達はちょっと力が強いだけの普通の人間なんだ。
なのに実は、この世の異常者達と深い因縁があるだなんて、そんな得体の知れない事実は受け入れられない!!
「ライト。あんまり思い詰めたらダメ。
続きを読みましょう。」
はっ。
ユラが励ましてくれたおかげで、なんとか落ち着きを取り戻す。
だがそう語るユラも、かなり動揺しているように感じる。
それはそうだよな・・・。
自分のルーツが勇者や魔王と深い関係にあるって知って、動揺しない訳が無いか。
でも、あまり滅入ってても仕方ない。
今は続きを見るとしよう。
『勇者の×××××××子供達・・・ブレイブチルドレンズ。
世話係の教育に問題があるのか、感情がほとんど育っていないようだ。
なので、どれだけ魔王を倒す使命の重要さを語っても、まるで関心を示そうとしない。
中には凄く嫌そうな顔をする子もいる。嘆かわしい事だ・・・。』
ブレイブチルドレンズ、か。
あの夢の中の奇妙な悪魔が話していた単語だ。
元々はここの関係者が付けた名前だったのか。
「・・・私達が魔王を倒す使命を嫌がるのを世話係のせいにしてるわ。
内容以前に、あのエゴまみれの気持ち悪い声色が嫌だったんだけどね。」
アカリの言う通りだよ。
どうやら俺達を管理(?)していた連中も、クズじじぃと同レベルのあれな連中らしい。
ってか、クズじじぃも実はこの研究所の事、知ってたんじゃ・・・。
それはともかく、続きを見よう。
そして俺達は、黙々と古ぼけたノートをめくり続ける。
・・・・・・。
・・・!!
『ブレイブチルドレンズには、素晴らしい力が秘められている。
しかし××××××××、いつ死ぬかもわからない。
どれだけ運が良くとも、大人になる前に命を落とすのは確実だ。
あの子達には常に死の影が付き纏っている。
これはもはや、呪い××××××だろう。
魔王を倒すのが先か、呪いにより命を落とすのが先か、それは神のみぞ知るのかもしれない。』
・・・なんだよ、それ?




