変化
私がそういうと、彩ちゃんは何のためらいもなく"おかえり。衣瑠ちゃん"と微笑んで言った。
その瞬間、頬に温かいものが滴り落ちた。
ふと気づけば涙を次々と溢れだしたまま彩ちゃんを抱きしめていた。
『…んで?』
ぽつりと何か聞こえた。
「え?…なぁに??」
先ほどの彩ちゃんとは何か違う気がする。
『なんで…?なんでそういうことするの…?』
私は答えられなかった。何を言っているのか分からない。
『そんなに私を苦しめたい?』
「どういう…事?」
時が止まった感覚に陥る。
そして心臓が鼓動を高めていく。
『彩は"もう会わない"って決めてたの。アナタが"ワタシ"の一部になっちゃいそうだったから。』
なに…それ。
林間学校の時の"アヤちゃん"が脳裏をよぎる。
「それで…?…それだけで私に会わなかったの?」
『そうよ。貴女のせいで彩がまた辛い思いするなんて耐えられないもの。』
"彩が"…か。やっぱりだ…彩ちゃんは今精神的に不安定で、無意識に架空の"もう1人の自分"を演じてるんだ。
「ねぇ、彩ちゃん。」
漆黒の瞳がこちらを向く。
「私は彩ちゃんが好きだよ?…笑顔が可愛い甘えん坊の"彩ちゃん"も、いま私の目の前にいる"アヤちゃん"も。」
…なにも反応はない。
「だって…どっちの"あやちゃん"も私が好きな"天堂彩"なんだもん。だからさ……逃げちゃだめだよ。」
そう。嫌な事を"アヤちゃん"に押し付けて逃げちゃだめ。
『私は別に逃げてなんかないわ。ただ"彩"の事を想って…「…ないよ。そんなの彩ちゃんの為なんかじゃないよ。過去に何があったかは分からないけど、過去のトラウマが邪魔して、自分が傷つくのが怖くて逃げてるんじゃない?」
その瞬間アヤちゃんの顔色が変わった。
『分かったクチ聞くなぁっ!!私の気持ちも知らないで!!アンタなんかにわかる訳ない!!そんなヤツに心許してたまる…かよぉ。……私の気持ちなんか…誰も知らない。』
漆黒の瞳から雫が滴り落ちた。