スーパーで
お風呂から上がり、髪を乾かしながら携帯を見る。
毎日の日課だ。
いつもなら彩ちゃんから連絡が入っていて返信の文字を打ちつつ長い髪を乾かしている。
だけど、今日はやっぱり彩ちゃんから連絡は来ていない。
こんなにも"他人"の事を気にかけるのは初めてだ。
ただ単純に、それまで自分にあからさまな好意を向けてくれていた人物が急に態度を180°変えたものだから気になるだけなのかもしれない。
それとも私は彩ちゃんの事を恋愛として好きになれているという事だろうか。
そんな事をぼーっと考えながら冷蔵庫を開く。
綺麗に整頓されたバターと…あれっ?
野菜室を開く。
…見事に"空き部屋"と化していた。
買い物行かなきゃじゃん。
私は風呂上がりで上は長袖のTシャツ1枚、下は学校のジャージというラフな格好のまま買い物へと自転車で出掛けた。
母さんは働き詰めの為、勿論買い物も私の役目なのだ。
今までずっとその生活を続けてきたお陰で、そこいらの主婦の人達くらいの目利きスキルは持っている。
10分もかからずに近所の大型スーパーに到着した。
この時間だと少し離れた、店舗こそ小さいが安いスーパーは閉店している。
24時間営業のこちらのスーパーは、やはり少しだけ割高だが、こんな時にはすごく助かる。
慣れた手つきで食材をカゴに入れていく。
そんな時、1人の男性と目が合った。
あ!小学生の頃の担任の先生だ!
「鈴木先生ですよね!!」
私がそう言うと、先生は慣れた感じで聞き返してきた。
『おっ!蒲っ子かな?だけどこんな可愛いお嬢さんいたっけかなぁー??あははは!』
"蒲っ子"というのは私が通っていた小学校の児童の総称である。
やはり沢山の生徒を見てきただけあって、あまり目立たなかった私…あ!あぁ!!
「すいません!人違いでしたッ!!」
『人…違い?え?』
私はそのままレジへと直行した。
そりゃ覚えてるわけないよ!危なかったぁー…
だがしかし少し寂しい気持ちもある。
本来ならば"久しぶり"と挨拶をして、少し思い出話などを話して…
昔と何も変わらないねとか変わったねとか。
私に、過去を共有できる知り合いは居ない。
家族と莉結以外は。あ、莉結のおばあちゃんもかな。
このレジのおばさんだって、今までは"いつも大変だね。頑張ってね!"って声を掛けてくれた。
しかし今は喋る事すら無い。
複雑な気持ちでスーパーを後にする。
それにしても春の夜風がとても気持ちいい。
何故かとても懐かしい気持ちに包まれる。
"あの頃"と同じ空気。そんな感じがする。
…あの頃がいつの頃か分からないけど。
季節の変わり目は好きだ。
忘れかけていた過去の感覚が、訪れる季節と共に戻ってくるから。
さっ、帰って晩御飯作るぞー!!




