動物園のふたり
"次は動物園前、動物園前です。"
バスのアナウンスが流れる。
降車のボタンを押した。
しばらくバスに揺られると、
"動物園前でぇす。"
ボソッと運転手さんの声がスピーカーから流れる。
「さっ、行こっ♪」
『うんっ♪』
久しぶりだなぁー…
バスを降りると春休みともあり、子供連れの親子が目立つ。
学生らしきカップルも多い。
やっぱ私たちみたいな女の子だけの子たちは見当たらないよね…
そんな事を考えているのは私だけのようで
彩ちゃんは、はしゃいだ様子で私の手を引っ張って走っていく。
不覚にもそんな彩ちゃんを"可愛い"と思ってしまう。
「おとな2枚ください。」
『えっ?お金取るの??』
「えぇ?!モチロンだよ!!知らなかったの?!」
『だから…こういうの初めてだし…動物のいる公園みたいなものでしょ?』
天然なのか何なのか…この子は常識人に見えてとんでもない事やったり言ったり…(笑)
頬を赤く染め恥ずかしがる姿がなんとも可愛らしかった。
私が"瑠衣"だったら彩ちゃんの事を好きになっていたんだろうか…
そんな事まで考えてしまう。
「はい♪チケット。」
『あ、ありがとう。いくらだったの??』
「いいよこれくらい♪初めてなんでしょ?それに"デート"なんだし♪」
いつのまにか私もウキウキしていた。
まるで"失われた少女時代"を再びスタートさせたようだった。
そして2人の"少女"のデートは始まった。
色々な動物を見る彩ちゃんは、本当に生き生きとしていて輝いていた。
そんな彩ちゃんにつられて、私まで子供のようにはしゃいだ。
『ねぇ!このゴールデンライオンタマリンって、日本の動物園ではここにしか展示されてないんだって!!すごーい♪』
「ほんとだぁ!!ちっちゃくて可愛い♪彩ちゃんみたいに髪の毛綺麗ー♪笑」
『そぉかなぁー??』
「彩ちゃんの、ほうが明るくてまっすぐだけどねー♪笑」
些細な会話も楽しい。
今まで莉結としか一緒に居なかったし、莉結以外の人間と居ても楽しくなかったけど。
彩ちゃんとは素直に楽しいと思えた。
『コレ何?』
「カピバラじゃない??」
これが女の子に大人気のゆるキャラ的存在のカピバラか…
今まであまり気にしたことがなかったけど…うーん。
『学校で、周りの女の子がこの生き物について楽しそうに喋っていたけれど、大した事ないわね。』
「え?ホント?私もそう思っちゃう…かな。」
『えっ?!やっぱり?つい本音言っちゃったけど…やっぱり私たちお似合いカップルだね♪』
そう言って私に抱きついてくる彩ちゃん。
ちょっ…声大きいよ!!しかもそんなっ…
何人かに振り向かれ、驚いた顔でしばらく見つめられた。
やはり私たちは"変"なのだろうか。
いや、この世界が勝手に"普通"を決めつけているだけで、フツウは私たちが決めるのだ。
まだ自分の気持ちに整理がついていないけれど、もし私たちが"両想い"であったのならそれが"フツウ"なのだ。
私は周りから見て"普通"であるより、自分の気持ちに嘘をつかず"フツウ"に好きになった人と素直な恋愛をしたいと思う。




