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第二話 調査

多分土曜日更新です。

六話で終わります。

 翌日、波止場の仮説テントにて。


(入国管理局の切り札か……)


 司暮は何度も映像を見直していた。


 入国管理局の言わずと知れたエーススクアッド、第三課三係。居倉凱(いくらかい)。

 若干18歳にして入局。208cm/163kgの大巨漢。

 皆川エンジニアリングオフィス襲撃事件にて大きな功績を収める。


「ありえない身体能力……」


(あの身体能力はもしやと思ったけど……)


 記録には怪しい部分は何もなかった。


「なんだ、そんなに居倉の事が気になるか?」


 不意に声が聞こえ、振り返ると包帯だらけの青田が立っていた。


「三日は入院って聞いたんですけど……」


「俺は根性が違うんだよ」


 青田はゆっくりとパイプ椅子に腰掛けると持ってきたコーヒーを一口啜る。


「ゲホッ……ゴホッ……」

「カフェインやめときましょうよ……」

「……デカフェだ……」


 波の音と風の音が響き渡る。

 業務が無ければこんなにも穏やかな場所なのか。司暮は大きく伸びをする。


「結局、居倉さんの引き抜いた黒い線は本土側の特技局に持っていかれちゃいました」

「だろうな……奴らはメディカルリンクとズブズブだからな……」


 青田はゴクっとコーヒーを飲み干す。


「それで、あれが何かは想像ついてるのか?」


 司暮は頷く。


「私の分野でした。おそらく自己増殖機能を持った人工神経じゃないですかね?」


 青田はポリポリと頭をかく。


「まぁよくわからんが、第四課にて引き受けるとした以上調査はしないといけない。俺はこの通りだからここであと四日間は難民対応だ。

 お前の方で情報収集できるか?」


 その言葉を聞いた瞬間、司暮の顔がパッと輝いた。


「この天才、時折司暮にお任せください!!」


 司暮が飛び出して行った後、青田は一人呟いた。


「人工神経……嫌な響きだ……」



◆



 情報収集……といっても全く当てが無いわけではなかった。

 あの時動いていた死体の身体が一部切り飛ばされて路地に飛び込んでいた。


(サンプルを採取できれば……)


 制限エリアの標識を超え、ラブホテル横の路地裏に踏み込む。


(この辺りは第三課中心にくまなく捜索したっていってたけど……)


 ゴン


 大きな音がし、路地裏のゴミ箱が倒れる。

 司暮はV.A.Sブレードを握りしめると、慎重に近づく。

 

 再びゴミ箱が揺れる。


 司暮はブォンと音を鳴らし、ブレードを起動するとゴミ箱を蹴飛ばした。

 ゴミ箱の向こう側には、一頭の豚が転がっていた。


 意識はないようで、近づいてみると、皮膚の下を黒い血管の様な物が巡っているようだ。


(こいつがノヴァリンクの人工神経とは限らないけど……)


 人工神経が人間の死体を操った様に、豚の死体を操つる可能性はある。


 V.A.Sブレードのカートリッジから玉を一個抜くと、小型犬用の籠の様な物が現れる。

 司暮は豚をそこに詰めるとその場を後にする。


(まずはこいつを徹底的に調べ上げる)




 四日後。


 外来街と本土の間。

 高速道路や鉄道の中継地となる小島の上には高層 住居が所狭しと聳え立っている。

 その中の陽も当たらない下層のある部屋は混沌としていた。


 15畳のリビングは椅子と机以外、奇怪な器具の数々に埋め尽くされている。

 そしてアイランドキッチンのシンクには、ガラスケースに入れられた豚が鎮座している。

 キッチンに横付けされたカウンターテーブルの上にはメスや遠心分離機が散らばっており、攪拌の済んだフラスコが何本も横たわっている。


 そして肝心の居住者、時折司暮はカウンターテーブルの上で突っ伏して寝ていた。


 腕の下には古いサイエンス雑誌が敷かれている。


 優しい朝の日差しが隣のビルの窓ガラスに反射してかろうじて入ってくる。

 

 プルルルルル


 不意に携帯電話がなる。


 プルルルルル……


 プルル……


 ツーツーツーツー


 スピー


 静謐な室内に寝息が響く。

 司暮は実に気持ちよさそうに眠っている。


『ブーブーブーブー、緊急外線、緊急外線、ブーブーブーブー』


 突如凄まじい音が携帯からなる。


「うわぁぁぁぁ!!」


 がじゃん、がしゃんと音を立てて司暮は椅子から滑り落ちた。

 辛うじて落ちてきた試験管をキャッチし、慎重に机の上に戻すと電話を取る。


「はい、時折でーーーー」

『お前、今何時だと思ってる?』


 電話の向こうからは青田の声が聞こえてくる。


「何時って……すみません、寝坊しました!!!」


 部屋の隅の時計を確認し、サッと顔が青ざめる。

 急いで服を掴み着替え始める。


『……はぁ……。どうせ昨日何か見つけて一晩中何かしてたんだろ?』


「そうです……すみませんでした……」


 電話越しに大きな溜息が聞こえる。


『それがお前しかできない事はわかってるし、それをやって貰うために採用したんだ。でも報告は入れてくれ』


 青田の失望した声に少し悲しい気分になる。


「……申し訳ございません……」

 

『ノヴァリンクから提供があった装置とラブホテルの件の残骸の解析が終わったそうだ。サンプルも一部貸し出してくれるみたいだから2時間後に入国管理局に来いよ』


「はい……」

『そんなにしょげるな、期待してるぞ』


 電話が切れる。

 司暮はV.A.Sブレードと豚から抽出した神経のサンプル小瓶を掴むと、急いで家を飛び出した。


 机の上にはいくつかV.A.Sブレードのカートリッジが残されていた。



◆



 事務所に着くと、本土から来たと思われるスーツの人間が二人いた。


 彼らが礼儀正しく座る対面に青田はどかっと腰をかけて座っている。

 そして、青田の隣には随分と骨格の良い中背の男が座っていた。


「漸くきたか」


 青田は肘掛けに手をつきなんとか立ち上がると本土側の人間と握手をする。


「本件の担当、青田です。後ろは私の部下」

「技術局員として入局しました、時折です」


 司暮は頭を下げる。


「これはどうも、法務省特務局の高綱とーーー」

「入谷です」


 そして握手をする。


「そして此方が第三課のーー」


「十時国慧(とときくにえ)、第三課三係の係長です」


 本土側の人間の顔に驚きが走る。


「いやはや、噂の三係ですか……」


 十時はまるで興味がないと言う様子で口を噤んでいる。


「そして時折……もしや時折洋一郎博士と何か関係が?」


「その話はおいてーーー」

「……はい、父です」


 司暮は話を変えようとした青田に先んじて答える。


 法務省の二人は顎をさすり頷く。


「なるほど、技術局員として優秀なわけですな」

「洋一郎博士は多くのものを世界に残して頂いた。連合の大恩人ですからな……」


 連合ではなくMiZG.HDとメディカルリンク社だろうが、と十時が小声でぼやく。


 青田はパンッと手を叩き、微妙な空気を仕切り直す。


「さぁ、本題です。ノヴァリンクの調査結果は?」


 法務省の男たちは薄いファイルを差し出す。


「結論から申し上げると、ハードウェアに置いて深刻な違反や人格を崩してしまうほどの高出力装置はみられませんでした。死体を操るなど……もってのほかですな。

 カタログ通りのスペックしか出せない仕組みになってます」


 十時と青田は溜息をつく。


「そもそも提供品とラブホテルにあったものの仕様が違うのでは?」


 十時の指摘に、局員は抑揚のない声で答える。


「出力ユニットは全く同じでしたよ、三係の居倉さんが引き抜いたと言われる人工神経はまだ調査中ですが、少なくともこの装置では死体を操ることなんてファンタジーはさておき、トリップすることすらできないでしょう。生体電気以下の微弱電流を流す程度しかできない」


 ただ、と役人は続ける。


「ここのカバーを取り除くと、E-117という刻印が出てくるのです。レーザー顕微鏡で見ないとわからないレベルですが……」


 E-117、あの暴走した男女の身体に浮かび上がっていた文字と同じである。


「E-117、聞いた事ないですね……。その刻印が出てきたのはラブホテルのものですか?それともノヴァリンクから試供があったものですか?」


「ラブホテルのもののみからです」


 青田はポケットから缶コーヒーを取り出し、一口飲む。


「あんた達の面目を潰したいわけじゃあないが、後援の者達(メディカルリンク)はなんて言っとるんです?」


 法務省の役人達は顔を顰める。


「特(・)技(・)科(・)の見解では。対象の人工線に生物の神経と似た構造が見られたと。

 E-117とは、プラント番号か製造番号ではないかと。

 即ち生物細胞ベースの人工神経を開発しているバイオプラントの……」


 十時は目を瞑って顔を上げる。

 眉間に皺が寄っている。


「なるほど……もしかして、DNAの抽出とかされました?ラブホテルの方のデバイスから」


「いや、それはまだだ。本件の場合、それは重要かな?」


 司暮の質問に、一瞬だけ役人の表情が固くなった様な気がした。


「えぇ、E-117の意味を確定させる上で、なんの生物をベースに人工神経が作られているのかを暴き出すのは重要では?」

「それは……」


「時折、まぁ待て」


 青田はコーヒーをもう一口飲むと、役人を睨め付ける。


「先程の時折が申し上げた件はぜひ追加で調査していただきたい。

 本土側の検証は一段落ついたという事で、此方にもサンプルをもらえますか?」


「……承知した。引き続きの捜査をお願いします」



 サンプルを受け取り、役人達を送り返した後、三人は再び先程の部屋にいた。

 

 十時は何やら部屋中を見て回る。


「よし、盗聴器の類はない」


 司暮は家で作成した神経線の小瓶を机の上に置く。


「実は、生物由来なのについては知ってました。問題が、これ人間由来なんです」


 驚愕の事実に二人は絶句する。


「そんな技術、ノヴァリンクが作れるのか?」

「袴田浩一郎、皆川エンジニアリングの元研究員見たいです」


 司暮は袴田浩一郎について纏められた経歴書と名刺を出す。


「皆川エンジニアリング……メディカルリンク御用達のエンジニアリング会社か……」


「メディカルリンクの親会社、MiZG.HDが51%の株式を保有してます。なるほど……」


 十時は優秀だな、と呟く。

 青田は誇らしげな顔でコーヒーをもう一口飲む。


「E-117は人間由来の神経線に関連するワードで確定。問題はその内容だな……プラント番号の可能性もあるし、製造番号の可能性もある……」


「ノヴァリンクのオフィスを捜索しますか?」


 十時の提案を青田はやんわりはねのける。


「いいや、証拠を消されちゃ困る。入管特別法に則

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