2 領地
男爵領では秋から良く雨が降る。もっと前に降ってくれたら良かったのにという思いともしかして例年並みの収穫になるかも知れないとも思う。
2 領地
今は雨だ。夏の干ばつが嘘のようにこの秋は良く雨が降る。もう少し早く雨が降って欲しかったという思いとこれでもしかして例年並みの収穫があるのではないかという思いもあった。どちらも正解でどちらも不正解だった。例年の半分の収穫があった。全国的な干ばつで割りと高く売れた。それでも減収だ。取り敢えず没落は免れたという思いと没落が少し延びただけだという思いが交差する。この領にも他に収入源があれば良かったのだが。マリエールが昔良くトランプやカルタやリバーシを作っていたのを思い出した。ああゆうものを作って売れば収入になると思ったが王都ならともかく男爵領では買い手がいない。
倉庫に小麦が運び込まれた。領主は執事に、
「やはり例年よりも少ないな。」
執事は領主に、
「仕方ないですよ。干ばつでしたから。」
と答えた。領主屋敷に務める者も減ったから問題ないだろう。
「この領にも特産品があればいいのだが。」
ない物ねだりは判っているが、
「良くマリエールお嬢様が色々な物作ってみえましたね。」
思う事は誰もが一緒か。
「トランプやカルタだろう。文字が読めないとできないやつ。」
トランプは数字が読めればできるか。
執事は仕事に戻って行った。
息子が戻ってきた。男爵領では領主一族であっても農作業に駆り出される。マリエールよりも3つ上の15歳、没落しなければだが将来男爵になるかも知れない。不確実な未来よりも農民あるいは商人になる将来も見据えるように伝えてある。息子が帰宅の挨拶をした。
「せいが出るな。今日は何の作業だ。」
と聞いてみると、
「大麦を植えてみました。今年は不作でしたので食べる事もできるしマリエールが大麦を発芽させて麦芽を作って酵母でアルコール発酵させたビールという飲み物は冷やして飲むと美味いそうなのだそうですが、この世界にはない飲み物だそうでこの領の特産品になるかも知れないと言って酵母を貰ったのですが、ようやく特産品の必要性に思い至りビールが作れないか試す気になったのです。」
やっぱりマリエールか。この世界にない飲み物か。あれは何者だ。私の娘ではないのか。
「あゝ、それはいい。この世界にない飲み物で美味かったらこの領の特産品になる。試してみろ。」
器量良し、頭脳明晰、魔法の才あり、性格温厚、欠ける事無き貴族令嬢、第一王女の側近、化け物じみた天才、まるで違う世界から来たようではないか。
「あゝ、そうだ。マリエールから手紙が来とったぞ。仕送りを添えてな。何でも建築図面を第一王女に描いて渡したら喜ばれたそうだ。あの娘そんな事もしとったのか。」
息子は懐かしそうに、
「良く木版に建物の絵を描いていましたよ。」
知らなかった。
「見たこともない建物を、結構上手く描くので何処で見た建物なのか聞いたら。こんな建物があったらいいなと思って描くのだと言ってました。」
建築デザイナーという仕事は知らなくても建物は、間取りと外観を想像して描くものだという事は判る。
男爵領にも特産品があれば良かったと思う時マリエールが作っていたトランプやカルタの事を思う。息子がマリエールから聞いたビールを試したいと言った。




