9話 帰り道の電話
ちょっとタイトルとあらすじを変えてみました
「……何故貴方が居るの?」
そこに先までの表情がコロコロと変わる可愛らしい女の子の姿は無い。
それは俺が学校でよく見かけていた、表情を一切変えないクールな蒼月真白の姿だ。
「そんなの当たり前だろ。こんな時間まで真白の部屋が暗かったら心配もするさ。全く高校生になったからって、女の子がこんな時間まで帰って来ないなんてダメじゃないか」
その言葉を聞いて俺はゾクリとした。
だってそうだろう?
こいつは今、ただ隣に住んでいる同級生の女の子の部屋が暗かった。
たったそれだけの事でこんな時間まで外で帰宅を待ち、それが当然のように振舞っているのだ。
蒼月さんは帰る時も家に連絡を入れている。
それは逆に言えば、家の人が何も心配していない状況で、全くの他人がいつ帰るともしれない隣人の帰りを外で待っていたということだ。
しかもこいつはそれになんの疑問も抱いていない。
こんなものストーカーと何が違うんだ?
ここが物語の中ならば、主人公がヒロインを心配する一幕で済むのかもしれない。
でもここは現実だ。
恋人でもない人間の部屋の明かりをチェックして、外で帰りを待つなど正気じゃない。
得体の知れないゾクリとしたものが体を這い回るような気持ちの悪さ、そんなものから彼女を遠ざけたかった。
思わず俺は自販機の陰から飛び出しそうになる。
しかしそんな俺を止めたのもまた彼女だった。
小鳥遊からは見えない位置。
自販機に隠れた俺にだけ見える位置で、俺にだけ伝わるように手で制したのだ。
それを見て俺も思い止まる。
そうだ。ここで飛び出しても何も変わらない。
むしろ逆。
俺の存在が知られれば小鳥遊はより蒼月さんに執着し、強硬に出る可能性もある。
正直、学校での姿しか知らない……興味がまるでなかった俺は、何故ここまで蒼月さんが小鳥遊を警戒していたのか分からなかったが、今ようやく小鳥遊の異常性を垣間見た気がした。
「別に……貴方に心配される言われはない」
冷たく言い放ち、さっさと背を向けて家へ向かう。
「あっ、ちょっと待ってくれよ真白。やれやれ、本当に真白は人に懐かない猫みたいだな。まあ、真白が無事なら良しとするか」
そう言って蒼月さんを追い掛ける小鳥遊は、一瞬だけこちらをチラリと見た気がしたが、どうやらそれよりも蒼月さんの後を追い掛ける方が重要だったようだ。
「はぁ……小鳥遊遊木か。今まで関わらないようにしてたけどあんな奴だったとは……」
張り詰めていたものを盛大に吐き出し一息吐く。
「……帰るか」
しばらく動きになれなかったが、今俺が考えても仕方がないと動き出す。
なんとなくそのまま帰る気になれなかった俺は、コンビニに立ち寄り飲み物を買うと、途中にあった公園で一休みすることにした。
「……なんか、色々と濃い一日だったなぁ」
蒼月さんに友達になって欲しいと言われ、一緒に家に帰り、夕飯を食べた。そして……最後のアレかぁ。
そんな風に今日の出来事を振り返っていると、不意にスマホが鳴り出した。
「あっ」
そこに映し出された名前は、今日番号を交換したばかりの相手、たった今考えていた人物からだった。
「もしもし」
『もしもし。さっきはごめんね。もう天城くんはもうお家かな?』
「あー、いや、なんとなく歩きたくなって、コンビニ寄って飲み物買って、今公園でボーとしてた」
『あっ、そうなんだ。良いなぁ、私もそうすれば良かったよ』
「あはは、それで何かあった? いきなり電話なんて」
『あっ、ううん。そういうんじゃなくて……その、せっかく今日一日すっごく楽しかったのに、最後の最後で水差された感じになっちゃったから、思い出の上書きをと……ごめんね。迷惑だったよね』
「いや、全然。……正直俺もなんか感情持て余し気味だったから逆に嬉しいくらいだよ」
紛れもない本音を吐きながら、なんとなく空を見上げる。
『そう言って貰えるのは嬉しいけど、やっぱりさっきのが原因だよね?』
「まあね」
お互いそれしか原因がないのがわかっているのだから、今さら隠す気もないのも確かだ。
『天城くんは……さ。さっきの見てどう思った?』
これは、正直に言ってもいいのだろうか?
「……正直、気持ち悪いと思った」
そうは思ったが、ここは正直に打ち明ける事にした。
さっきの会話を聞いて思った事、その後公園で考えていた事を正直に話す。
『そっか……良かったぁ』
「いいの? 一応蒼月さんも嫌いだって言ってたとはいえ、幼馴染に対して結構な事言ったけど」
『うん。全然良いよ。むしろ天城くんがアレを庇ったりしたらどうしようかと思っちゃった。前に……紫音と琥珀以外にも仲良くしてた子は、アレを庇うような事言ったりして、離れて行っちゃったから……』
なるほど。
小学校の頃、まだ友達というモノを諦めていなかった頃、あの二人以外にも居た数少ない友達も、思春期に入り小鳥遊に好意を持った。
そうして今と同じように、その小鳥遊の好意を一心に受ける蒼月さんが煩わしくなって離れる。
きっとそんなものを何度も繰り返して来たのだ。
そりゃ、あんだけイケメンに好意を持たれてようが嫌いにもなるか。
『天城くん?』
「どうしたの?」
『その……私の事嫌いになっちゃった?』
「いやいや、なんで?」
『だって、私、性格悪いかなって。結構……言われるんだ。表立っては言わないけど、知らない所で、あんなに好意を持たれてるのにお高く止まってるとかって。キープして何様だって……』
表立ったイジメはなくても、本人の居ない所で気に入らない人間の陰口を叩く事はあるだろう。
いや、蒼月さんの言い方的に、本人に聞こえる場所でわざと言ってる可能性も十分にある。
「俺はそんな事思わない」
たとえ誰がそう思ったとしても、俺が見たあの楽しそうに笑う蒼月さんが証拠だ。
「嫌な事なんて本人にしか理解出来ない。それを他人が理解した気になるのも、分からないのもしょうがない。けど、俺はそんな事で蒼月さんの事を嫌いになんてならないよ」
『えへへ。良かった。でも、やっぱり私悪い子かも?』
「なんで?」
『今、天城くんならそう言ってくれるかも。って期待しながらそんな事言ってるんだもん。うーん。天城くんに言われてから色々と考えてるけど、基本的に私誰かに依存しやすいのかも?』
それはなんとなく、今日一日の接し方でわからんでもない。
「まあ、ほどほどに。依存先としてはあまり宜しくないと思うから」
『あはは、そんなの初めて言われたよ』
「俺も初めて言った」
他愛ない言葉をお互いに紡ぎながら話す時間が、さっきまでの陰鬱な気分を少しづつ晴らしていく。
『電話なんてしてる私が言うのもなんだけど、もう結構時間遅いから天城くんもそろそろ帰った方が良いよ』
「マジで?」
公園の時計を見るともう22時を回っている。
時間を忘れて喋るとはまさにこのことだろう。流石にそろそろ帰らねば。
『……あのさ。一人寂しい帰り道に可愛い女の子とのお喋りは必要ありませんか?』
「じゃあ、俺もお言葉に甘えようかな」
『うん!』
その言い方に苦笑しつつ提案を受け入れる俺だった。




