10話 無表情な彼女の裏側
すいません。遅れました
「おはよう天城」
「ああ、おはよう高木」
「そろそろ夏休みも近いから向こうさんは朝からポジション争いが激しいみたいだぜ」
「……はぁ、みたいだな」
今は小鳥遊を挟んで、いつもの二人がどれだけ過激な水着を買うか口論している。
若干一名はセクシー路線に無理があるから、元幼馴染だった人間としてはやめた方が賢明だと思う。
言わないけど……。
そしてその中心では、いつものように困った顔を作りながら、思いっきり胸や腰、尻をガン見して鼻の下を伸ばしてる男が一人。
台詞と表情と行動が全く伴っていない姿は、ある意味欲望と理性がせめぎ合っているのか? まあ、恐ろしく低次元だけど。
「そういえば」
「ん?」
「いや、そろそろ期末もあるし、来月あたりから星取りシステムが俺らも始まるんだよな?」
「ああ、そのはずだ」
星取りシステムと名付けられたこの学校独自のシステムは、日々の評価や成績によりポイントが付与される。
そのポイントを一定数集めることで、星と呼ばれるバッジを獲得できるのが名前の由来だ。
要するに、成績や生活態度、課題への取り組みをポイント化して、努力を分かりやすく評価する制度らしい。
星は最大で五つ。
手に入れたポイントを消費することで交換でき、最大になれば有名な大学や企業に優先して推薦がもらえたり、学食の無料化などの恩恵も得られたりする。
また、星を獲得できなくても、一定のポイントを消費して、様々なサービスも受けることができる。
例えば学食や購買の割引、教材や制服なんかの割引もある。
特殊なものだと、テストで赤点になった人間がポイントを消費して、補習の代わりに課題で補ったり、遅刻を取り消しにしたりもできる便利なものだ。
まあ、そうは言っても推薦を目指したり、学食の永久無料化を目指す奴以外にとっては、赤点を取った時の保険や、日々の小遣いの節約のものだ。
ぶっちゃけポイントがなくなっても退学にはならず、なければ普通の学校生活を送るだけ、あれば学校生活が快適になる程度のものである。
なのでラノベに出てくる学校のように退学になったりしない。
ポイントを奪いあって蹴落とし合うこともなければ、特段必死になるほどのものでもない。
ちなみに遅刻、赤点、備品破損、問題行動があれば、ポイントは容赦なくマイナス査定になることもある。
つまり遅刻をしてマイナス、それを取り消してポイントを使うとさらにマイナスといった具合だ。
そしてポイントのマイナスが一定値に達すると、奉仕活動や教師、生徒会の手伝いなどの罰もある。
「天城は誰かと組むのか?」
「今のところ予定はないな」
「まあ、善し悪しだからな」
この学校は特定の人間とチームを組むことができる。
チームを組むとポイントを譲渡したり、チーム課題に取り組み、個人では受けられない課題を受けられたりする。
その代わりチームメンバーが遅刻したり、赤点を取ったりすると、連帯責任になったりと、デメリットも存在する。
高木と話していると、向こうはなかなかにヒートアップしていつの間にやらお互いに罵りあっている。
まあ、罵りあいとはいえ険悪な感じはあまりない。
「そんなことで喧嘩なんてするなよ。なあ真白、そう思わないか?」
「知らない」
小鳥遊もいつものように蒼月さんに話しかけるが、やはり蒼月さんは素っ気ない態度で言い捨てる。
「姫も相変わらずだな」
「みたいだな」
その瞬間、ピロンというメールの着信を告げる飾り気のない電子音が俺のスマホから鳴り響く。
ましろ
『あーまーぎーくん。おはよー♪』
リヒト
『おはよう。蒼月さん』
ましろ
『今日も遊びに行くね♪』
リヒト
『まさかの確定事項』
ましろ
『えっ!? 天城くんはこんなに可愛くて美少女な女友達が家に行くって言ってるのに断るの!?』
『断っちゃうの?』
『( '-' )ジーーーーーーッッ』
リヒト
『いや、断りはしないけど』
ましろ
『ヤッター( ˙꒳˙ \三/ ˙꒳˙)/ータッヤ』
相変わらずテンション高いなぁ。
今も一人虚しく話しかけては袖にされている人間のいるほうをチラリと見る。
そこには変わらず無表情で淡々と小鳥遊を切り捨てる美少女が一人。
……このテンションをあの無表情でやっているのすごいな。
いや、分かりにくいが口元が少しひくついていて……楽しそう?
「真白。楽しそうね」
「……そうでもない」
「いやいや、分かりやすいよ。ウリウリ」
どうやら親友には分かる程度には分かりやすいらしい。
蒼月さんと友達になって二週間。
蒼月さんの距離感がバグってるのもあって、俺達の間に変な遠慮はなくなった。
ゲームをやればお互いに罵り合って、終われば笑いながらアニメや映画の話をする。
それくらいにはお互いに打ち解けた。
そしてこの友達関係はとりあえず秘密ということになっている。
小鳥遊を警戒しているというのが一番だが、親友二人には折を見て自分から話したいと言っていたからだ。
俺としても無駄に注目を集めるつもりはないので、蒼月さんの提案を受け入れた。
それに、あの日の小鳥遊を思い出すと、本当に俺と蒼月さんが友達関係にあると知られれば、何をするのか分からないという怖さがある。
誰かが四六時中守れるわけではない状況で、真横に住んでいる人間を警戒するにはこれくらい必要だろう。
ましろ
『今日はこれ食べたい!』
送られてきたのは最近出前を始めたというラーメン屋のメニューだ。
蒼月さんはこうして、度々家で食べたいものを送ってくるようになった。
そうして分かったのは、蒼月さんは割とよく食べる。そして女子が好みそうなものよりも、ガッツリ系の男子が好きそうなラインナップだということ。
リヒト
『いいよ。俺もラーメン&餃子食べたい』
ましろ
『チャーハンと焼肉も頼んでシェアしない?』
リヒト
『天津飯も捨てがたい』
ましろ
『……回鍋肉も美味しそうなんだよね』
こうして、俺達は学校が終わるまで、今日の夕飯のメニューについてずっと話し合っていた。
ピンポーン
「開いてるよ」
『はーい』
来客を告げるチャイムが鳴り、インターホンで蒼月さんを確認すると、ロックを開ける。
初回以降、蒼月さんは一度家に帰って、部屋の電気をつけ、着替えてから俺の家まで来るようになった。
これも小鳥遊への対策だが、正直、隣の家に住んでいる同級生相手にここまでしないといけない時点で異常そのものである。
しばらくすると蒼月さんがやって来たのでドアを開ける。
「やっほ〜。六月とはいえちょっと暑いね」
「いらっしゃい。部屋は涼しいよ」
「えへへ。たっだいまぁ♪」
「いや、ここ俺の家なんですが?」
「もう、私にとっては第四の我が家みたいな感じだもん」
ちょこちょこと遊びに来ていた蒼月さん。初回を入れて今日で七回目だが、どうやら既に我が家認定されていたようだ。
……早い。
しかしそれを嫌だとは思わないあたり、俺もこの関係性がだいぶ気に入っているのだろう。




