7話 もう少しだけ一緒に
「ごめんだけどめっちゃ笑ったな」
久しぶりにこんなに笑った気がする。
しかしその代償は大きい。
蒼月さんの攻撃に構わず笑い続けた結果、今やひざとクッションを抱えて、恨みがましい視線を時々投げながら蒼月さんはいじけている。
うん、正直笑いすぎたかも。
まあ、反省してるかと言えばそんなことは全くなく、むしろ可愛い姿が見られたことに、ちょっとした満足感まであるのだから我ながらどうしようもない。
自分自身知らなかったが、もしかしたら蒼月さんの言う通り、少しSっ気があるのやもしれない。
とはいえずっとこのままというわけにもいかないだろう。
「おーい。お友達さん」
「……なんですか?」
おおう。めっちゃすれた目してる。
「もしよかったら、これから一人で夕飯食べる友達さんと一緒に夕飯食べてくれません?」
予想外の言葉だったのか、一瞬キョトンとした後、むーと唸りさらに険しい目で睨む。
そして
「……お家に電話して許可が取れたらでいいなら」
「もちろんそれでいいよ」
むしろそこはちゃんと許可を取ってほしい。
「じゃあ今から電話してくるね」
さっきまでの雰囲気はどこに行ったのか、いっそルンルンとでも擬音が聞こえてきそうな感じで足早に蒼月さんが部屋を後にする。
「あっ、そうだ」
しかし出ていってすぐ、扉の影から顔だけひょっこり出した蒼月さんは少し躊躇がちに俺の方を見て。
「あのね……さっきキライって言ったのは冗談だから……その、本気にしないでね?」
「うん。分かってるよ」
「あっ、でも」
「ん?」
「天城くんがイジワルなのは本当だと思う」
「あっ、はい。すいません」
恥ずかしそうに言った後、ジト目でそんなことを言われてしまえば素直に謝るしかない。
蒼月さんはそれだけ言うと満足したのか「じゃあ行ってくるね」と言って今度こそ電話をしに行った。
さて、俺は今のうちに部屋着に着替えておこう。
漏れ聞こえる話し声は、
「違っ……!?」
とか
「……そうじゃなくて」
とか
「……大丈夫」
と、だいぶ難航しているようなのでそれくらいの時間はあるだろう。
「あっ、着替えたんだ?」
「うん。シワにもなるし、制服よりこっちの方が落ち着くしね」
部屋着のスウェットに着替えて戻ってくると、蒼月さんもちょうど電話を終えて戻ってきた。
「いいなぁ。私も着替えたい」
「そこは家主の特権ということで、それよりどうだった?」
「あっ、うん。大丈夫だって」
「そっか。じゃあ夕飯はこれにしようと思ってたん───」
「わぁ、ピザだ!」
手に持ったチラシを見つけた蒼月さんはいち早くいい反応をする。
女の子と食べるものにしてはヘヴィーかと思っていたが、やはり蒼月さん的にはありだったようだ。
「なんにする?」
「んー? 天城くんと同じので!」
「えっ!? 結構ガッツリめなの選ぶつもりだったけど平気?」
「多分平気だよ。じゃあ、せーので食べたいの選んでみる?」
「いいよ」
ちょっと面白そうだと思い提案を受け入れる。
「じゃあ、「せーの!」」
声を揃えて同時に食べたいものを指さす。
「「おぉっ!?」」
二人だから二つでもいいかな、と思って二つ指さしたら、まさか蒼月さんも全く同じものを二つ指さすとは。
どれだけ趣味が合うのだろうとお互いに顔を見合わせ笑い合う。
「じゃあ、この二つで決まりでいいね。サイドはどうする?」
「あっ、私は今日あんまりお金を持ってないからそれだけでいいや」
「ん? なら俺が奢るからいいよ」
そもそも夕飯を誘ったのはこっちだから最初から払う予定だったし。
「それはいくら友達だからってダメだよ。そこはキッチリしないと」
確かに言いたいことは分かる。
しかし蒼月さんの言い方的に、お金が足りないから食べたいけど食べないという言い方だから、俺だけ頼むのも気が引ける。
「じゃあ、今回俺が奢るから次は蒼月さんが奢るってことでどうかな?」
「次……」
あっ。
蒼月さんの呟きでまたもや自分の失敗に気がついた。
これではまるでまた一緒にご飯を食べようと誘っているようなもの。
さっきも同じ失敗をしたのに、時間も置かずに同じ失敗を繰り返すとは……。
普段失言なんてあまりしないはずなのに、蒼月さんが相手だとどうにも調子が狂う。
「じゃあ、今回はお言葉に甘えさせてもらおうかな? "次"は私が払うね」
これもさっきと同じ、俺が何か行動を起こす前に蒼月さんがそう口にする。
「天城くんも次頼むときは遠慮しちゃ嫌だよ? 約束」
「う、うん」
そう言って差し出された小指に、思わず自分も同じように小指を差し出す。
しかし行動できたのはそこまでで止まってしまう。
「えへへ。指切り」
そんな俺の小指に蒼月さんは自分の小指を絡めてふにゃりと笑う。
そんな姿と絡めた小指の柔らかさにドキマギし続ける俺だった。
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「すっかり遅くなっちゃったね」
「だね」
時刻は20:30。
高校生になったばかりの女の子が帰るには遅い時間だろう。
「こんなに遅くまでお邪魔してごめんね」
「いや、俺も楽しかったし」
これは心の底からの言葉だ。
あの後、ピザを食べながら俺達は色々な話をした。
アニメの話、今まで観たB級映画、連載マンガの考察、ゲームの話などなど。
笑っていじけて、恥ずかしい思いをして、ドキドキさせられて、いつの間にかお互いに気を遣わない会話は時間を忘れるほど面白かった。
ここ最近では本当に一番充実した時間だったかもしれないこの時間は、俺的には遅いというよりもむしろ……。
「さてと、はい、コレ」
「えっ? 上着?」
「少し肌寒いから羽織っていきなよ」
日が出ていれば多少汗ばむほどの時期だが、この時間になるとさすがにまだ肌寒い。今日は風も少し冷たいから必要だろう。
「えへへ、ありがと」
男物のパーカーは、蒼月さんにはやはり袖が余るくらい大きい。
うーん。あれが萌え袖かぁ。確かにグッとくるものがある。
なんて馬鹿なことを考えながらぼーっと見ていると、何を思ったのか蒼月さんは袖を顔に近づけ……匂いを嗅ぎ始めた。
「……お嬢様、何をしていらっしゃるのですか?」
「……天城くんの匂いがする」
「よし。返せ」
「えっ、嫌」
嫌……だと!?
返還要求したら普通に断ってきやがった。
「匂い嗅ぐなら返せ」
「キャー、脱がされちゃうー」
「だから言葉のチョイス!?」
的確に誰かに聞かれたら誤解されそうなワードを選ぶのはセンスなの!?
しかも言ってること自体全く間違いじゃないのがたちが悪い。
誰かに聞かれても弁明の一つも出てこない。
そんなわけで少し押し問答をした後、結局俺が折れることにした。
なぜか一歩も引く気がないという……なぜにここまで頑ななのか……。
「じゃあ、もう行こうか」
「あれ……送ってくれるの?」
「……いや、さすがにこんな時間に女の子一人で、はい、サヨウナラとは帰さないんですけど」
えっ、俺そんな風に思われてた?
「そっか……うん、そっかぁ。じゃあ、もう少し天城くんといられるんだね。やった♪」
どうやら蒼月さんも俺と同じように考えていみたいで嬉しい。
でもこの子、なんでいちいち人をドキドキさせてくるのかな?
マジで勘違いしないようにしようと一人静かに心に誓う俺だった。




