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26話 後で集合ね♡

「ふーむ。思ったよりも早く終わったな」


 翌日、蒼月さん達には話していたが、用事があって学校には昼くらいに行く予定だった。


 が、思ったよりも早く終わった為、このまま行けば四時間目の授業には間に合ってしまいそうだ。


「しかし……めんどくせぇ」


 朝から学校に行かないというのは実に清々しい気分だ。


 皆が狭い部屋に押し込められて黒板に向かっている間に、自分は外で悠々と過ごす時間はなかなかに気分がいい。


 そして何気にこの青空よ。


 このままサボりたい気分ではあるけど、皆にちゃんと行くと言ったからには行かなければ。


 うーん。俺って真面目。


 などと馬鹿な事を考えながら学校に向かっていると程なくして着いた。


 もう少し散歩したい気分だが、制服で歩くわけにもいかず素直に学校へ。


 時刻は三時間目の終わり間際、時間としては丁度良い。


 校舎に入ると授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。


 それを聴きながらこっそり教室に入ると、蒼月さんと陽向さんは二人で話していて、紫音は一人パソコンに向かっている。


 そしてその近くではラブコメ集団が今日も今日とてラブコメ演劇を続けている。よくもまあ同じような内容で毎日飽きないものだ。


 それを横目に席に座ろうとしたところで、蒼月さんと目があった。


 何やら陽向さんが頑張ってみたいなポーズを取って、蒼月さんは何か決意を込めたように頷き再びこちらを見る。


 うーん……騒動の予感。まあ、そのうちこうなるだろうと思ってたのが今日だっただけか。


「天城く───」


「理人!」


「「「えっ!?」」」


 意を決したように立ち上がろうとした蒼月さんよりも先に、紫音が俺の名前を呼び近付いて来る。


 そして当然、それを聞いた教室の全員が耳を疑い俺達に注目した。


「やっと来た。ちょっと聞きたい事があったのよ」


 全員の視線や空気などなんのその。その全てを無視して俺の腕を掴み、あろうことか俺を席に座らせ自分も同じ椅子に腰を下ろす。


「「「なんっ!?」」」


 二人でピッタリ寄り添ったまま座る俺達。


 狭い椅子に二人で座った為、落ちないように紫音は俺の腕をガッツリとホールドするものだから、腕全体が女の子特有の柔らかさに包まれ、横からすごくいい匂いまでしてくるから困る。


 ゾワリ。


 瞬間、背筋を薄ら寒いものが過ぎり視線を巡らせると、ものすごい顔で固まる蒼月さんと目が合った。


 これは……死んだかも?


「ちょっと聞いてるの、理人?」


「ああ、ごめんなんだっけ?」


 うわぁ……メンタルつよつよ。この人周りの空気全く気にしてないなぁ。


 とはいえもう既に起こってしまった事、気にしてもしょうがないので話を続ける事にした。


「送ってもらったこの部分。この光で画面切り替わるのどうやるの? これに関してはなかったから分からないんだけど」


「えっ、これ以外はもう覚えたの?」


「ええ、面白くて一日で見ちゃったわ」


「……一日、結構あったはずだけど、あの時間から見てちゃんと寝れたのか?」


「うっ……ね、寝たわよ?」


「本当に?」


「さ、三時間位は……」


 バツが悪そうにボソボソと言う紫音にため息を吐く。


「ちゃんと寝ないと仕事は振らないからな」


「わかったわよ。次から気を付けます。それで、これはどうやるの?」


「ああ、これはこうやって、始点と中間点、終点を決めて前後をゼロに、切り替わりを中間に持ってきて光量を最大にすると……ね?」


「……狡いわね。道理で幾ら探しても見つからなかった訳だわ」


「いや、創意工夫と言って欲しいのだが?」


 色んな機能を組み合わせて違う演出に見せる工夫を、狡いと言われるのは納得しかねる。


「でもいいわ。これでようやくスッキリしたもの」


「わかんなきゃ聞きゃ良かったのに」


「いくら気になったからってあの時間から連絡は出来ないわよ。今日も用事あるとか言っていたしね」


 どうやら気を使ってくれたらしい。


 分からない事がわかってスッキリした紫音は、なるほどと言いながらパソコンを操作している。


 しかしいつまでこの体勢なのだろうか?


 いや、嬉しいよ? 柔らかいし、いい匂いするし、良いんだよ?


 でも、周りから「いつの間に!?」とか「付き合ってるの?」とか「な、名前で呼びあってるだと!?」とか色々と聞こえてくる。


 そしてなんと言っても蒼月さんが不機嫌なオーラを放ってる。


 目のハイライトが消え、隣で話す陽向さんの声も届いていないっぽい。しかもこっちを見ながらスマホをものすごい勢いで操作して、さっきから着信が凄い。


 そして更にもう一人。


 俺に射殺さんばかりの視線を向ける小鳥遊。


 どうやら皆が言っていた通り、蒼月さんが本命なのは間違いないとして、陽向さんや紫音が俺に近づくのも面白くないらしい。


 その視線には、嫉妬というより、自分の場所を荒らされたとでも言いたげな苛立ちが滲んでいた。


「……理人君。いつから星宮さんとそんなに仲良くなったの?」


 などと考えていると、近くの席から東雲鈴(しののめりん)が話しかけて来た。


「いやまあ、ちょっとあって。つうか、話しかけて良かったのか?」


 東雲鈴は、艶のある黒髪と落ち着いた雰囲気から、大和撫子と呼ばれることが多い女子だ。


 実を言うと、俺と鈴は中学時代からの知り合いだった。


 ただ、とある事情で今日この時まで、お互い教室では話しかけないようにしていた。


「ハッ!? そうだった。あまりに衝撃的な光景で忘れてた。まあでも、もういいかなって思ってたから丁度良いかも?」


「そりゃまた随分と一方的な。全然良いが」


「……ふーん。東雲さんは理人と仲が良かったのね」


 スっと目を細めそんな事を言うから、俺と鈴はちょっとビクリとする。


「あー、昨日俺の事話したけど、あっちも同じようなもん抱えてて、ちょっとここでは話さないようにしてた」


「同じような……なるほど、そうなのね」


「あっ、理人君は自分の事話してるんだ。もうそれくらいの……」


 二人して何か納得したように頷く。


「今まであまり話した事なかったわね。もし良かったら仲良くしてくれるかしら東雲さん?」


「こちらこそです。私の事は鈴で良いですよ」


「そう? それじゃあ私も紫音で良いわ。敬語も必要ないわよ鈴」


「えっとじゃあ……よろしく紫音さん」


 二人で握手を交わすその姿に教室にざわめきが走る。


 まあ、ある意味当然だ。


 何を隠そうこの東雲鈴も結構人気がある。


 蒼月さん達三人には及ばないが、小鳥遊に引っ付いている二人よりも人気が高く、小鳥遊も狙っていると噂まである。


 そして鈴は、その小鳥遊を警戒して、今まで蒼月さん達のグループとは距離を置いていた。


 それが今日、全員の前で紫音と握手を交わした。


 クラスメイトとしてではなく、友達として。


 いや、だからなんなんだろう?


「と、もうすぐ始まるわね。理人、またあとで教えてね」


「うん。良いよ」


 手を振って自分の席に戻っていく紫音。しかし席に着く前に蒼月さんと陽向さんの二人に捕まった。


 そして何やら固まって話した後、お互いじゃれる程度の取っ組み合いになっている。


「あっちは仲良しだね。相変わらず」


「そうだな。ってか、普通にこんな感じで話すようになるとはな」


「せっかく提案してくれたのにごめんね」


「別に良いよ。それより本当に良いのか?」


「うん。どうやったっていつかは……ね? こっちも気が引けるし、知られた時も逆に面倒な事になりそうかなって。それにそろそろだから丁度いいかなって」


「ああ、なるほど」


「それより星宮さ───紫音さんと仲良くなったって事は他の二人とも?」


「一応仲良くさせて貰ってる」


「そうなんだ。そっかそっか私としては納得かな」


 何故か嬉しそうな鈴。


 何故に?


「どっちかと言うと俺には分不相応では?」


「いや、理人君ってこの中でもダントツで高スペックだからね? なんでいつも自己評価だけは低いかな?」


 いやだって、そう思ったことないし。


「私的にはどっかの誰かより全然納得だよ」


 そう言いながらちらりと視線を向けため息を吐く。


「すんごい睨んでるね」


「だな」


 蒼月さん達とも、他のクラスメイト達とも違う意味の視線。


 刺すような殺気のこもったそれを無視しながら、蒼月さんの方に視線を向けると、スマホを見ろと視線で促される。


 するとそこには


 ましろ

『後で集合ね♡ ちゃんとお話しようね♡』


 普段はないハートがとても怖い。


 始まった授業を受けながら、どうすれば生き残れるだろうかと必死に思考を巡らせ続ける俺だった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


次回は来週金曜21時ごろ更新予定です。


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真白の距離感、琥珀の反応、紫音との関係など、印象に残った場面があれば一言でも教えてもらえると嬉しいです。


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