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たべて

車が茨の通り道を進んでから少し経った後、開けた場所に着いた。程よく日が差し込んで暖かい雰囲気の場所の中央に木材のみで作られた小さな一軒家が建っていた。

その家のすぐ近くで車は止まった。


「着いたよ。ここが俺達の家だ。」

「俺、達?」

「うん。ここなら他の吸血花は来ないから安心して。」

「…まさかお前と自分の家か?」

「そうだよ。」


そう言いながらシーダは家の扉を開いた後に車から荷物を取り出して家の中に運び込む。

リヒトーは慎重に家に近づき家には入らず中の様子を伺う。

家の内装もきちんと作られており、設置されているテーブルや椅子などの家具もしっかりとした物だとリヒトーは思った。

家の中にはシーダ以外誰もいない。


「危ない物は何も無いから入ってきなよ。」


シーダに手招きされたリヒトーは警戒しながらゆっくりと家の中に入っていく。


「座って。」


シーダは椅子を引いてリヒトーに座るよう促す。

リヒトーは椅子を見て座面を触ったり軽く押したりして何も仕掛けれていない事を確認した後座った。


「じゃあ果物と肉を持ってくるからちょっと待っててね。」


そう言ってシーダはどこかへと行ってしまった。

おそらく台所に向かったシーダの背中を見届けたリヒトーはあたりを見回した。

頑丈そうな家の中は程よく暖かく過ごしやすい空間を作り上げている。木の匂いは気持ちを落ち着かせリヒトーの中にある緊張を少しずつ減らしていく。


「お待たせ。」


しばらくした後、シーダは木のトレーを持って来た。そしてそれをリヒトーの前に置く。

テーブルの上に置かれた木のトレーの上には木で作られたコップに入った綺麗な水。リヒトーには見覚えのない赤い色の果物。そして肉が置かれていた。


「遠慮せず食べて。まだまだたくさんあるからおかわりしてもいいよ。」

「…その前にいいか?」

「何?」

「肉なんだが、これはどう見ても生肉なんだが。」


木のトレーに乗っている肉は焼かれても茹でられてもいない生の赤身の塊肉だ。


「そうだよ。それがどうかした?」


シーダはそれの何がいけないのかさっぱり分かっていない様子。

リヒトーは額に手を当てて言葉を選んでシーダに伝える。


「…シーダ。いいかよく聞け。お前達吸血花は平気かもしれないが、人間は生肉を食べると腹を壊す。」

「え?」

「最悪死ぬ。」

「え!?」


本当に知らなかったようでシーダはリヒトーの話を聞いて狼狽えている。

 

「ど、どうしよう。」

「ここに火は?」

「無い。」

「だろうな。」


吸血花にとって火は自分達の命を脅かすものだ。生肉の加熱の必要性を知らなかったシーダが火種を用意しているはずがない。


「肉はお前が食え。自分は果物を…これはなんなんだ?」


リヒトーは果物を手に取り力を入れると外側も中も柔らかいため果物は簡単に割れた。果物は中も真っ赤であり果肉の部分がゼリーのように見えた。

リヒトーの記憶の中にはこのような果物は存在しなかった。


「…シーダ。これはなんていう果物なんだ?」

「美味しいやつだよ。」

「そうではなく名前だ。これはなんていう名前の果物なんだ?」

「無いよ。」

「は?」

「俺が作った中で美味しかったからたまに育ててはいるけど、名前をつけてなかったな。」

「これもお前が作ったのか?」

「うん。」

「…どうやって?」

「どうって種を作って育てただけだよ。」


そう言ってシーダは何も持っていない手を握って開くと何かがテーブルの上に落ちた。シーダの手から出てきたのは小石のような、あるいは種のような物だった。


「…この果物の種か?」

「そうだよ。」


それを聞いてリヒトーは不安になった。これ、食べて大丈夫なのか? と。

果物を見て、シーダの方に視線を向けるとシーダはほんの少し期待した様子でリヒトーを見ていた。肉を食べさせる事ができなかったのでせめて美味しい果物を食べてほしい。そんな思いをリヒトーはシーダから感じ取った。


「…いただきます。」


シーダの視線を受けて食べるかどうか悩んだ後、リヒトーは意を決してほんの少し果物を齧った。

ゼリーのような見た目をした果肉だが食感はそれよりも柔らかく噛んだ瞬間口の中で果汁が溢れる。甘みが強いがほんのり酸味を感じ後味が良い。

小さな一口を飲み込みすぐに二口目にいく。今度は皮ごと大きく齧る。乾いた喉を潤し空腹感を埋めていく。

最初は怪しんでいた果物をリヒトーはあっという間に食べきり水を飲み干した。


「美味しかった?」

「あぁ。だが足りない。」

「すぐにおかわり持ってくるね!」


塊肉を乗せたままの木のトレーを持ってシーダは嬉しそうな様子で早足で行った。

シーダの後ろ姿を見送った後リヒトーはシーダが来るまで周りを見ようと立ち上がった時、予想よりも遥かに早くシーダは戻って来た。今度は大量の赤い果物を積み上げ乗せた木のトレーを持って来て。


「はいおかわり! たくさん食べてね。」


シーダは笑顔でそう言って木のトレーをテーブルの上に乗せる。その拍子で果物が数個テーブルの上に落ちる。


「こんなにいらん。」


リヒトーは座り直しテーブルの上に転がる果物を手に取り今度は割らず丸齧りした。

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