3-2 無双
"He who is not courageous enough to take risks will accomplish nothing in life."
"My powers are ordinary. Only my application brings me success."
交流戦開始!!
改訂前「3-3 刺客」と「3-4 油断」の内容です。
ついに、学園交流戦の日がやってきた。
本番までにそれぞれの学園の生徒が練習を積んできたことだろう。
ちなみに、I組のメンバーもそれぞれ苦しみながらこの日を迎えていた。
彼らが出張るのは魔法物理混合種目である障害物競争だ。
担当は以下の通り。
障害物競争
障害物①矢の雨
担当: ジゼル
障害物②魔法の雨
担当: ジーク
障害物③状態異常
担当: ルツィ
障害物④トラップ地獄
担当: グレン
障害物⑤物理攻撃
担当: リラ
彼らにとって、学園生をぶちのめすのは赤子の手を捻るより簡単なことだ。
けれど、全員をぶちのめしてしまったら、意味がなくなってしまう。
彼らが苦労していたのは手加減だ。
特にリラである。
彼女はいちばん最後なので、正直、全員をぶちのめしてもいいが、殺してはいけない。その加減がとても難しかった。
そして、この障害物競争、単純な競争にしてしまうと、最初の障害物であるジゼルのところでほとんどの人が倒れてしまいかねない上、ひとつのところに人が集中して効率悪いこと極まりない。
さまざまな試行錯誤を続けた結果…障害物競争というよりも、なんか違う形になってしまった。
彼らは"障害物"というよりも、"番人"または"ガーディアン"というべきだろう。
5人はそれぞれのスポットを守り、そのスポットにおいてある魔道具にチームの代表者が配布されたブレスレット型魔道具をかざすと、ブレスレットの5つの円のうちひとつが光るようになっていて、攻略した番人もわかるようになるのだ。
今回の障害物競争では、攻略した番人の数が5人である中で最も早くゴールしたチームが優勝である。
順位をつけるならば、
5つ攻略したチームの中での着順→4つ攻略したチームでの着順→3つ攻略したチームでの着順→…という風になる。ちなみに、攻略が0の場合は失格となる。
スタート位置はくじ引きによりランダムに設定され、どこの番人から挑んでも良いことになっている。また、番人のコンセプトや詳細は明かされていない。
番人である彼らとの戦闘において、死者や重症者が出ることは望まれない。
故に、手加減が大事なわけであるが、手加減しすぎても、彼らが痛い目を見ないし、失格にもできない。
そこで、参加者は全員、3つの風船を体にくくりつけて、それらが破られたり破壊された時点でリタイア、つまり失格となる。個人で失格となるだけでチーム全員が道連れになる事はない。
3つの風船、つまり残機は1人につき3つあるわけだ。
そして、番人は手足を除いた臓器や目などの急所を攻撃してはならない。
また、番人の中で秘密裏に決めている事だが、1度の攻撃で複数の風船を割ってはならない。
そして、番人たちもまた、自らに縛りを課して、何人かはクリアできるようにと弱体化をしているのである。
手加減に手加減を重ねた状況であることを…生徒たちは、否、仕掛け人以外は誰も知らない。
♦︎♢♦︎
「やっと、交流戦当日かぁー。」
疲れ切った声を出しているのはランバート。彼の目の下にはクマができていて、指にはたくさんの傷がある。
「…わ、私はそこまでではありませんが、その、魔力はすっからかんです…。」
アリスはヨロヨロしながら、朝食の準備をしている。
「………。アリス、ご飯ありがとう。」
ジゼルは優雅に朝食を楽しんでいる。
ここは、I組の寮。
例年であれば、すでにこの寮に生徒はおらず、捨てられた廃屋である。
しかし、彼らの成果か、綺麗に掃除され、壊れかけていた部分も少しずつ修理をして、立派な寮となった。
"ウォッカ"の面々、そして、ジェラルドまでも住まないのにも関わらず、私物をおいている部屋がそれぞれある。
ちなみに、ウォッカのリーダーであるグレンは、増築を密かに検討している。
閑話休題。
ランバートとアリスが疲れているのはそれぞれ別の理由であるが、要因は間違いなく交流戦である。
交流戦で使用するための魔道具製作は付与の練習としてこの2人が請け負っていた。
ランバートは慣れない裁縫などの作業に、アリスは魔力量がそこまで多くないゆえに付与に使う魔力に対して、相当参ってしまっていた。
実際のところ、当日使う量はすでにつくり終わっていたのだが、
「予備なんていくつあってもいいだろ。来年とか、練習とかでいくらでも使える。」
という、グレンの指示によってノルマは倍増どころか数倍増しになり、地道に地道に今日まで魔道具作成に精を尽くしていたのだ。
ジェラルドは、幸か不幸か、付与について何も知らなかったためにこの地獄を少し回避することに成功していた。慣れない、という意味では2人以上に苦労していたのだが…。王子だからって特別扱いなんて期待するだけ無駄である。
特別扱いされない哀れな王子に対して、特別扱いであるジゼルは、ウォッカメンバーと話し合いを重ね、番人としての強さの調整や、ちょうど良いギミックになりそうなものを探し、さらに、魔物の駆除や当日使う区画に魔物が紛れ込まないようにと結界を張ったりと、まぁ、忙しく過ごしていた。とはいえ、疲れは一切なく、ウォッカの面々同様に堂々と悠々と当日を迎えた。
♦︎♢♦︎
「これから交流会を開会する」
ジェラルドの堂々とした宣言によって、交流会は幕を開けた。
「なんで偉そうなの?」
アイツ弱いのに、という言葉は流石に胸の内にしまったのか、それとも暗黙の了解だと思ったのか、疑問符を頭に浮かべてウォッカの面々に尋ねた。
「ジゼルさん、アレがおーじさまってやつですよ。」
リラはこそっとジゼルにそう伝えた。
彼らは、開会式を木陰に隠れるように、覗いていた。
正規で参加する気はサラサラなかった。笑
♦︎♢♦︎
「第一競技。非魔法競技、サバイバルゲーム。」
このゲームは、バトルロワイヤル要素をもつ鬼ごっこである。
定められた区画内で戦闘したり逃げたりする。
頭につけている、鉢巻をとられたら失格である。
禁止事項はいくつかある。
・真剣などの武器を使うこと。(木刀などの訓練用は可)
・鉢巻を外した人間に攻撃をすること。
・過度に痛めつけること。
・鉢巻を再び装着すること。
・故意に森林破壊をすること。
そんなところであろう。
ちなみに、この競技、裏ルールがあり、生徒同士だけでなく、ギミックとして鉢巻を狙ってくる敵がいる。
「……プレッシャー、半端ないんだけど。」
「…ちゃんと動けるかな…。」
ランバートとアリスである。
この状況、複雑に入りくんだ地形、正直、暗殺者スタイルのジゼル無双である。
しかし、それは流石に生徒が不憫なので、徹夜…とは言わないまでも、作業に追われていて体がボロボロのアリスとランバートが参加している。体力がないのも、寝不足なのも、全てはハンデである。
そして、アリスとランバートは生徒に見つかってはならない、ときつく師匠たちに言われている。万一見つかったら、何をされるかわかったもんじゃない。
……プレッシャーに感じるのも当然だろう。
一応、彼らも魔法の使用は禁じられているので、弓矢くらいしか攻撃法がない。ジゼルなら、相手に気づかれずに短刀で鉢巻を切るのだろうが、それは高等技術、彼らに望むのは酷だ。
「各校、くじ引きで決まった地点に移動が完了したようなので、開始をアナウンスします。それでは競技開始です。」
そんなアナウンスが森林に響き渡る。
アリスとランバートもこっそりと行動を始めた。
(正直、動きたくないけど…)
(ずっと隠れてたいんだが…)
((それじゃきっとだめだ。))
2人はプレッシャーの中、積極的に生徒の鉢巻を狙うことに決めたのだった。
♦️♢♦︎
鬱蒼と茂る木々の中、
2人の生徒がエンカウント。
足音気にせずブッ飛ばしてサウンド。
「お前、何者だ?」
ワッと驚いたのか?
What's your name? のクエスチョン。
「俺はツヴァイフェル2年B組のフリーダ・シュライダー。」
「私はギヌビア3年フォンゾ・ヒンデンブルグ。」
気乗りのしない名乗りの煽り
緑の森から新手の登場!!
「俺はお前らが決着をつくのを見届けさせてもらう。」
OK.これで役者は揃った
到底、想像つかないタイマン
妨害、想定してない怠慢
「先攻は譲ってやるぜ。」
年上の矜持、後攻のチョイス
「ありがてぇなっ!!」
年下の矜持、ここでぶちのめす!!
的当て
胴当て
怪我は気をつけて
防具はしっかり
OH うわ しんどい
留め具無防備
鉢巻いますぐはずせそう
留め具外せばリタイアしそう
留め具狙わないジェントルマン?
実はそれってスポーツマン?
いやいやそれってきっと怠慢。
ぼさっとしてるやつも傲慢。
「無駄無駄。そんな攻撃じゃ無駄だってのッ!!」
攻守交代。
敵なのにしっかり応対。
スキルも実力ももれなく公開。
その上、叫び声でしっかり招待。
(こっちの方から声がしたんだが…)
死角に陣取る 刺客のメンタル
(…攻撃してくれって言ってるようなもんだよなっ!!)
木の上の男その存在。
知らんままただあとは後悔。
ヒュッ!!
ヒュッ!!
留め具にHit!
ブレずにピッ!と
「はぁ??」
「お前…」
思わず2人して呆然
けど
のんびりしてたから当然
そんなんじゃまだまだ我は通せん
だったら今すぐに白旗上げろ!!
気づけばそこには刺客はいない
死角も探したって? 知らんがな
失格は失格
失格を自覚
刺客は抗議を受け付けん!!
視覚に刺客がいないくせに
抗議の資格なんてねぇんだろ!!
威嚇も無駄無駄
暇人ころっと
ヒュッって音で はい、失格。
You ってことで はい、一発。
(俺だって、焼きを入れられたくはねぇんだよ。)
死活問題
刺客問題
懲罰で 超バツで 今日合うで
(あと何人失格にすりゃいいんだ…)
おうよ下請け 今日も下向け
……
♦︎♢♦︎
あの頃の自分は 今の自分を想像できるかな
憧れる友人と 気の置けない友人と
素敵な師匠に囲まれて 和気藹々と暮らすこと
木登りをして 静かに近づいて
魔法なんかを使わずに 生徒さんを倒すこと
静かにしなくちゃね 見つかっちゃダメよ
名乗りを上げる声を頼りにして…けど
あの人ならきっと ここから森じゅう見渡して
みんなをすぐに見つけちゃうのに…なんて
本当は分かっているの
私は力があるわけじゃないって
ほんの短い幸せの日々
それだけで力が上がるわけじゃない
ほんとうに師匠たちが教えてくれたのは
力のつかいかたなんだってこと
強くなったなんて勘違いしない
私はきっと弱いまま
いつになってもきっと 自信なんか持てないけど
それでいい 臆病でいい 卑屈でいい
どんな手段を使ってでも
生き延びること
生き続けること
泥水を啜っても
みっともなくっても
生きること
だから罪悪感なんてない
漁夫の利だとしても
無防備な背中から
守りのない留め金を狙うよ
生きていくためだから。
ごめんなさい?
ヒュッ!!
……
♦︎♢♦︎
『試合終了ーー。』
アナウンスが試験エリア内に鳴り響いた。
*サブタイトル解説*
"He who is not courageous enough to take risks will accomplish nothing in life."
-Muhammad Ali-
「リスクをとる勇気がない奴は、人生で何も成し遂げられない。」
モハメッド・アリ
"My powers are ordinary. Only my application brings me success."
「私の力は普通のものだ。私の応用力こそが成功をもたらした。」
Isaac Newton
アイザック・ニュートン
★もし面白いと思ってくださったら、「いいね」や「評価」お願いします!
★「泡沫2022師走短篇集」では12月24日から31日まで毎日1篇ずつ短篇を更新します。「魔女の弟子と劣等学級」のスピンオフ的短篇も投稿する予定なので是非お楽しみに。詳細は活動報告をご覧ください。
2023/07/04改訂しました
題名の「無双」はジゼルのことですね。障害物が多い中隠れ合いならジゼルの無双です。