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3-1 改革

"Change before you have to."


"A bolt out of the blue"


改訂前の「3-1 元凶」と「3-2 通達」に相当します。

 ある日、天下のツヴァイフェル学園から一通の手紙が王国全学園に送られた。


 その手紙の一枚目にはこう書かれていた。


-------------------------------------------------------------------------------------------------------

通達


学園対抗交流試合の種目について、学園法17条に則り、全学園に通達する。


ツヴァイフェル学園生徒会長 兼 学園対抗交流試合運営委員長 ジェラルド=フォン=ガドル


-----------------------------------------------------------------------------------------------------


 これだけならば、大したことはない。

 例年、国内の学園同士が交流を深めるために競う交流試合の前に通達されるこの文章は、毎年コピペのように流用されてきたものだ。


 問題は、共に送られてきた書類の方にあった。


 こちらの書類も、例年、コピペというか、全く同じものを封入して送る、それだけのことだった。


 けれど、今年はそれら全てが差し替えられていた。


 交流試合開始以来、一度たりともなかった種目変更に多くの学園では騒ぎが起きていた。


それは、ツヴァイフェル学園も例外ではなかった。


 「ジェラルド殿下!!この通達はどういうことですか!」


 生徒会室に、生徒会のメンバーと教師と、さまざまな人がなだれ込んできた。


 そこで、第2王子であり、この騒動の根本的な原因である彼はゆるりと座っていた。


 「どういうこともなにも、通達どおりだが?」


 素知らぬふりをして、執務を進めるだけだった。


 「伝統ある種目で競う、という規則があったはずでは?」


 「そんなものはないぞ?ただ、学園法の原典には運営を行う学園の生徒会長が決め、全学園に同時に通達する、とあるだけだ。それに則って、お前たちにも言わなかっただろう?」


 あくまで、王国の法律に従ったまで、と言い放ち、持ち出していた原典の該当箇所を指し示した。


 「…確かに、そうありますが。」


 「なら、問題ないだろう?」


 ジェラルドは翌日には練習用のサンプルが届くように手配を済ませていた。

 …この交流試合、裏で動いていたのはウォッカと I 組の生徒であった。

 




数週間前……


「学園対抗交流試合を知っているか。」


 そう切り出したのは第2王子ジェラルドである。


 食堂事件からひと月ほどが過ぎた。

 あれからもジゼルの願いによって数回食堂に足を運んでいた。


 初回以降、ジゼルたちへの嫌がらせは露骨さを増した。

 が、結局のところ、全くダメージは入っていなかった。


 しかし、アリスとランバートの心労はたまりに溜まっていた。

 そう、いつ爆発するかわからない爆弾(ジゼル)を抱えているような気持ちになるのである。


 したがって、最近はアリスがパンの作り方を一から調べ始めた。


 「…"がくえんたいこうこうりゅうじあい"?」


 ジェラルドの問いに首を傾げたのはジゼルだけで、そのほかの人は理解しているようだった。


 「ジゼルが分からないのは分かっていた。…簡単に説明すると、他校と魔法や武術で競う大会だ。一般にも公開される上、多くの王侯貴族も見物に訪れるから、その活躍は進路にも響くだろう。そして、そこで結果を出すために学園は指導に力を入れるのだ。」


 ジゼルは首を傾げるばかりだ。

 このままでは首が180度回転してしまう…。


 「ジゼル、学園のなかでどこが一番強いかを決める戦いだ。」


 ランバートのその言葉がジゼルの首を死守した。

 初期からジゼルに常識を教授しているだけのことはある。


 「それを今更どうしたんだ?」


 グレンの問いも最もだろう。


 「…この交流試合はかなり前から存在する。それは、この国が強さの指針を決めた頃からだ。学園に通うのが必須となったのは昨今だが、交流試合もそこで行う競技も当時から一貫して変わらない。」


 すでにジゼルは追いついていけていない。

 しかし、ジゼルは右から左へと話を流し始めた。


 「そのせいで忘れ去られている規則がひとつ存在する。」


 ジェラルドは真剣な目で言った。


 「この交流試合の主催はツヴァイフェル学園生徒会であり、その生徒会長が競技を定めることができる。」


 ジゼル以外の者たちは目を見開いた。


 「歴史ある種目で行われる、と聞いていたのですが。」


 アリスがそう言った。


 「形式的だが、その種目で行うことを生徒会長が決定し期日までに通達をする。したがって、その歴史ある種目を選んだのは歴代の生徒会長だ。」


 ジェラルドはそう嘯いた。


 「はいっ!天才☆ルツィたんは分かっちゃいましたよ。」


 "ウォッカ"の面々は予想がついているようで、ルツィの行動には呆れたような目をしていたが、ランバートやアリスは興味津々な様子だ。


 「おーじさんこと生徒会長のジェラルドは種目を変えることで実践的な戦闘技術を身につけてもらい、魔物との戦い方に関する考え方を改させるつもりですねっ!それで、天才☆であるルツィたんと仲間たちに相談に来ちゃったわけですね!!」


 ルツィが天才☆かどうかは兎も角、"ウォッカ"の面々は同じような意見のようだ。

 グレンは『ルツィたんと仲間たち』というフレーズにイラっとしているようだったが。


 「そうか、競技の結果がそのまま進路に影響するなら、競技に合わせた指導が各校で行われる。それを変えれば指導の方向性を変えることができる、そういうことだな。」


 アリスはランバートの説明にコクコクと頷いた。


 「そういうことだ。」


 ちなみに、1年なのにジェラルドが生徒会長をしているのは単純に王族だからである。


 「そもそもですが、これまでの競技でも工夫しようと思えば工夫ができますよね。競技を変えても変わらないのでは?」


 その質問をしたのはリラであり、それに反論したのはジークである。


 「いや、ルールの変更方法によっては可能っすよ。縛り方によって戦略をうまく誘導すれば、指導も変わるっす。まぁ、仮にそれが思いつかなくても今年うちが優勝すれば、その戦略を真似てくると思うっすよ。」


 リラはジークの答えに成程と頷いた。


 「随分と早い時期に切り出したと思えば、そういう理由だったか。」


 グレンが言った。


 「お前が、学園の威信を考えたときにジゼル、ランバート、アリスを選手として使う可能性は考えてはいたが、まさか競技内容の変更を相談するとは。まぁ、常々お前が兵たちの意識改革に頭を悩ませていたのは知っていたが。」


 「そもそも規則を忘れ去られている。知らないのは当然だろう。俺は王族としての教育のなかで交流戦を定めた書の原本の複製版を読んだから知っていただけだ。」


 ジェラルドはそこに対して特に何も思っていないようで話を戻した。


 「まずは、昨年までの種目を見てほしい。」


 ジェラルドはどこから持ってきたのか、本を取り出して皆の前に見せた。

 ちなみに、どこからの答えはアイテムボックスである。

 王族由来の膨大な魔力にモノを言わせてアイテムボックスの習得に成功していたのだ。

 完全に力技であるため、未熟&お粗末極まりないが。


 「…」


 「さて、それらの競技の欠陥を話し合おうか。で、問題はジゼルだ。」


 「??」


 「ジゼルのアイディアは欠かせない。だが、議論に思考が辿り着いていない。したがって…ランバートなんとかしろ。」


 ランバートは大きくため息をついて、からジゼルに一から説明をする。


 「いいか、この国にはここ以外にもたくさんの学校が存在する、それはわかるか?」


 ジゼルは静かに頷いた。


 「交流会ってのは、その学校の生徒同士で戦って一番強い学校を決めるわけだ。」


 「一番強い奴ではないのか?」


 「一番強い奴がたくさんいる学校を決めるんだな。学校全体のレベル感を学校対抗で競う。つまり、学校Aに仮に最も強い奴がいたとしても、それ以外が弱すぎたらその学校が最も強いわけじゃないだろう。」


 ジゼルは首を傾げながらも頷いた。


 「要約するに、戦うということだろう。」


 「つまりはそうだ。で、この交流会には名誉とか色々かかっていて、学校に関わる連中のほとんどが優勝を目指していて、そのために日々鍛錬を積んでいるわけだ。」


 「魔物と戦うためではなく?」


 「そうだ。」


 「それは意味が分からない。今、人々は魔物の脅威に怯えている。ならば、魔物との戦闘を目的として鍛錬を積んでしかるべきではないか。」


 「ジゼルの言葉は正論だ。だが…」


 ランバートはなんて言っていいのか分からず、言葉を途切れさせた。


 「人間ってのはままならないんだ。そも魔物の脅威よりも大事なことが、彼らにはあるんだ。」


 ジェラルドはランバートの言葉を引き継いでそう言った。


 「まぁ、それで、その交流会の種目を、魔物と戦う形式とか魔物と戦うために必要な力を身につけなければ勝てないようにすれば、その矛盾がマシになるんじゃないか。そういう話だ。」


 ランバートが締めくくり、全て納得はしてないものの、ジゼルも話の筋は理解したらしく頷いた。



 「やっぱり、実際に実力がある人が、対応を見ながら技術を引き出すしかないんじゃないか?」


 グレンの言葉に、ジゼルは頷いた。


 「…それは確か。強い人との戦闘が一番成長できる。成長させようと、色々考えて攻撃してくれる。」


 「ジゼルちゃんにとってのそれは誰っすか?噂に聞く、師匠っすか?」


 ジークの問いに不機嫌になりながらもジゼルは頷いた。

 にやにやとした顔が、なんか癪に触ったのだ。


 「だとしたらぁ、ルツィちゃん、思いついちゃいましたよぉ☆」


 「なんだ?」


 「それはぁ〜〜私たちが敵になったりぃ〜?あとは、そういう特殊な魔道具開発しちゃったりすればいいんですよぉ☆」


 「ルツィ…オレたちはタダ働きしろって、そういうことっすか?」


 「…確かに、魔道具も開発段階までは楽しめるが、増産についてはなぁ。」


 ジークの不満に続き、グレンも首を捻る。だがしかし!


 「そこを天才☆ルツィたんが考えてないわけないですよぉ。ねぇ、ルツィたんへの評価が低いですぅ、ねぇジゼル?」


 「…うん、ルツィたんはちゃんと考えてくれている。」


 「なんでジゼルは無条件にルツィの味方になるかなぁ?」


 グレンの呟きに返答するものはいないまま、ルツィは話を進める。


 「…最近、魔法付与のネタがなくて、練習できてないヒヨッこ共がいるじゃないですかぁ?量産でも、全部任せれば、練習になると、ルツィたんは踏んでるのですよぉ。」


 じろーっと、ひよっこ組ーアリス、ランバート、ジェラルドの3名ーに視線がむく。


 「それは名案だな。素材の調達から任せれば、腕も鍛えられる。」


 グレンの言葉にひよっこ組3名はビクッとした。


 「…数をこなすのは大事。装備は答えをすぐに教えてしまった。これ以上の改良を彼らに求めても無駄なら、目的のある作業の方がいい。さすがはルツィたん。」


 「えっへん!!」


 ドヤァ、というか、ドヤッ!というか。

 すんごく、胸を張っていった。


 「よくわかりませんが、魔道具の件はどうにかなりそうなのですね。では、実際に我々が介入する、というのはどういうことでしょうか?私がぶちのめせばいいのですか?」


 リラは物騒なことを言い出すから、特にひよっこ組はビビった。


 「…一度、痛い目を見せておくのはいいこと。死なない、という保証があるなら問題ない。」


 ジゼルは平然と賛成に回っていたが…。


 「いやいや、一生の傷を!トラウマを量産するから!!」


 「ルツィたんが痛くないなら、どうでもいいでっすよぉ〜〜☆」


 「…一応、生徒側のダメージも考えてほしいのだが。」


 ジェラルドがそういうが、


 「こんなことで傷がつく程度なら、すぐに死ぬだけ。」


 ジゼルはそんなふうに切り捨てるから、ぐうの音も出ない。


 「…真面目な話、調整ができるなら、アリスやランバートにやらせてもいいですけどぉ、まだ技量はそこまでない、というのが私の見解。」


 ルツィは冷静に2人を観察してそういった。


 そうして決まった種目の準備を総出で行った。

 ひよっこ組にとっては地獄のような魔物との戦闘と魔法付与の反復の日々だった。


 魔物と対戦するときの条件をルツィのワクワクくじ引きで引き、ただ倒すだけではもう許されない段階にいた。


 そんな日々を数週間過ごして、この通達に漕ぎ着けた、そんな達成感からか、ジェラルドからは充実した空気が漂っていた。



最終的に確定し、通達されたのは以下の3種目。


①魔法競技:的当て

②非魔法競技:サバイバルゲーム

③混合競技:障害物マラソン


通達された書類には図解を交えて詳しいルールが掲載されていた。

Change before you have to.

-Jack Welch


変革せよ、変革を迫られる前に。

ジャック・ウェルチ

米国経営者

1935~2020



A bolt out of the blue

「青天の霹靂」



2023/07/04改訂しました

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スピンオフ短篇


「帰省」
ある日ジェラルドは何気なく尋ねた…
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