116上
「よーやったな、井口君」
高屋が走って近づいてきた。
偽壁づくりは、血のプールの中で微動だにしない。
一撃で首の静脈を掻き切れたようだ…。
井口は、荒く息をしながらも、よくやったものだ、と自分に呆れた。
なにしろ、俺は探査チームなんだから…。
敵が接近してくれたから、何とかなったのだ。
「あ、高屋さん、こいつ、強化服着ていなかったよ…」
偽壁づくりの血しぶきで汚れた顔を、手で拭って、祓い落としながら、井口は報告した。
「俺を背中から銃で撃ったんだ」
高屋は、用心深く、偽壁づくりを足で転がす。
ベルトにホルスターがあり、中にコンパクトだが大口径の銃が入っていた。
「38口径やで。
井口君、骨とか折れてない?」
防弾チョッキごしだとしても、これだけの銃なら最強のボクサーに鋼鉄のグローブをつけて殴られたほどの威力は十分にある。
井口は体を探り、ゆっくりと立ち上がった。
「影も纏っていたのかな?
平気みたいだ」
井口は、軽く腰を回したりしながら、偽壁づくりの衣服を探った。
井口の22口径は、ポケットに入っていた。
銃を自分のホルスターに戻し、井口は気に入っていたフランネルのシャツを脱ぎ捨てた。
同じやつ、売ってるかな?
レディのような派手な服は着る気にもならないが、かといって井口は、地味なだけのシャツも好きではなかった。
地味めだが、少し捻りのあるデザインが好みなのだ。
こーいうの、なかなかないんだよなぁ…。
だが、さすがに動脈血を頭から被っては、捨てるしか仕方がない。
ズボンも、今捨てる訳にもいかなかったが、血みどろだった。
「うわぁ、井口さん大丈夫ですか!」
床から、小田切誠と美鳥が湧いて出てきた。
「ああ。
ト…、カラスで引き裂いてやったよ。
それから小田切…」
井口は、偽壁づくりが強化服を着ていなかった、という事を誠に話した。
「こっちの強化服は本物よ」
美鳥は、ズシン、と蒼井聡の強化服を床に落とした。
「あ、美鳥さん、精密機械なんだから乱暴に扱っちゃだめですよ」
誠が言うと、美鳥が噛みついた。
「1日で影能力を使い切るようなブチ切れた機械よ。
壊した方が世の中のためよ!」
「やー、でも証拠品やから、わざわざ壊しちゃああかんよ」
のんびりと高屋がいなす。
「それより、上、どうなってるん?」
誠は上を見上げた。
「苦戦しています。
でも、マッドドクターは下に落としてしまったので、多分ダンサーチームなら、負ける訳はないですよ」
誠は笑った。
「あんた、あの時、マッドドクターを落としたの!」
美鳥が驚く。
「ええ。
あれがいたら、いつ催眠術にかかるか判りませんから。
ここでダンサーチームがドクター側になる、とかは避けようと思ったんです。
ドクターは、地下五階の天井裏で埃塗れになっています」




