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9話

 

 どうにか12万Gを貯める方法を考えながら、千春は噴水広場まで戻ってきた。


 目的はクエストボードだ。


 苦渋の選択ではあったが、一角兎の毛皮をあるだけ納品しようと決意したのである。


「えっと、一角兎の毛皮の納品依頼はっと……あれ?」


 見当たらなかった。


 どうやら何度でも繰り返せる依頼ではなかったらしい。


「えー、じゃあどうしたらいいの?」


 情けない声を上げて肩を落とす千春。


 求めていた依頼がないから拠点の購入を諦めるのか。


 それとも他の方法を探すのか。


「仕方ない。フィールドに出てモンスターを倒して素材を集めまくろう! 目指せ12万Gだよ、わたし!」


 これほど気合いを入れて戦闘に挑むのは一角兎に対するリベンジ戦以来かもしれない。


 それだけ千春はあの拠点が欲しかった。


 苦手な戦闘を数こなしてでも。


 決意さえすれば千春の行動は迅速と言えた。


 早速フィールドに出てモンスターを探し始める。


 探し始めてすぐ一匹目の一角兎を発見する。


 気配遮断を使って接近するも気付かれ、逃げられ、追いかける。


「【陽炎】!」


 幻影の千春が右から一角兎を追い込み、それに合わせて千春本体も行動して待ち伏せる。


「えいっ!」


 炎帝の短刀を振り下ろし、一匹目の一角兎倒した。


 ドロップアイテムは肉だった。


 一角兎の肉をストレージに仕舞いながら、千春は考える。


「これ、すっごく効率が悪いよね……」


 今や千春にとって一角兎は雑魚だ。


 けれど逃げ足のせいで回数制限のあるスキルを使わなければ狩る事ができない。


 つまりそれは使用回数が尽きた所で一角兎を狩る手段がなくなるという事。


 明らかに効率が悪い。


「戦闘に負けるとラグアの転移ゲートまで戻される。ペナルティはレベルダウン」


 正確には経験値の減少だ。


 ただ現状、高レベルではない千春にとっては一回のペナルティで最低でも1レベルは下がる。


 戦闘が苦手な千春にとってレベルダウンに匹敵するペナルティは可能な限り避けたいものだった。


 しかし今は。


「鍛冶でも経験値が入る事が分かったからね! ペナルティだって怖くないよ!」


 むふーっ! と意気揚々ずんずん歩き始める。


 ラグア周辺を少し離れただけで一角兎のテリトリーは終わる。


 すでに千春の歩いている場所は他のモンスターのテリトリー。


 言っている傍から千春はモンスターを発見した。


 メタボな成人男性のような体格の、緑の肌の豚頭。


 原始人のような肩掛けの毛皮のワンピースを身につけている。


 手には竹槍。


「竹林なんてどこにもなさそうなのに、どこから竹なんて調達してきたんだろう……」


 そこが気になった千春だった。


 戦闘はと言えば、あっという間に終わった。


 ほぼ丸一夜、修理作業に没頭した結果、千春はレベル9になっている。


 おかげでAGIは素の状態で35。


 炎帝シリーズによりAGI+90。


 AGIは実に125という数値を叩きだしている。


 当然、現れるモンスターを軽く圧倒できる速度である。


 それどころか今現在の『エンドワールド』でもトップクラスのAGIを誇っている。


 そして炎帝の短刀は装備者のAGIを攻撃力に変える特殊武器。


 超高速で肉薄し炎帝の短刀をひと振り。


 それだけで戦闘は終了した。


 ドロップアイテムは『オークの睾丸』だった。


 錬金術師が回復薬の素材として買取ってくれる。


 ドロップは水色のキューブ状態で落ちる。


 今日それを心からよかったと千春は運営陣に初めて感謝した。


 ちなみにオークを倒した経験値は3だった。



  ▼  ▼  ▼



 それから何度もオークを狩り続けた。


 ドロップアイテムは今の所、二種類。


 オークの睾丸。


 オークの肉。


 オークのドロップアイテムは三種類。


 レアドロップの『豚足』でドロップアイテム種コンプリートである。


 ちなみに、この豚足、相当美味しいという話である。


 ドロップ率は0・01%。


 落ちないのも不思議ではない確率だった。


「たあっ」


 気の抜けるような声と共に剣閃が走る。


 次いで走るダメージエフェクト。


 斬られたオークが光となり砕けて散った。


 オークのいた場所には水色のキューブが残っていた。


「そろそろ今日は終わろうかな」


 キューブを拾う。


 ストレージに入れると『オークの睾丸』だと表示された。


 7対目の睾丸である。


 オークの肉は16個確保してある。


 豚足はゼロだ。


 メニューを開いて時間を確認するまでもない。


 空を見上げれば、おおよその時間は分かる。


 茜色に染まっていた空も、今は緞帳を下ろしたような夜天に染まっていた。


 現実時間とゲーム内時間はリンクしているため、この空模様が現実世界の空模様でもある。


 また遅くなると母親にダイブ禁止を言い渡される可能性が高い。


 となれば千春として取れる選択肢は多くない。


 幸いラグアは見える位置だ。


 ここでログアウトするとラグアの転移ゲートからの再開になる。


 だから、そう時間をかけずにオーク狩りを再開できるだろう。


 それを確認してから千春は青色のボードからログアウトを選んでタッチした。



  ▼  ▼  ▼



 それから何日もオーク狩りを続けた。


 目標の12万Gを達成したのは四日後の事だった。


 

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