63話
VRMMOエンドワールド運営。
壁に並べられた30のモニターの前で、彼らは隣り合った同僚たちと肩を叩いたりして喜びを分かち合っていた。
普段、モニターはエンドワールド内のリアルタイム映像を個別に流している。
その映像は作業BGMと化しており、視界に入っているけど見ていない状態だった。
それでも稀にそこから不具合やチーターなどを見つける場合もあるので全くの無駄というわけではない。
そのモニター全てを使って映し出されている映像は一か所のもの。
「よく心折れる事無く挑戦し続けてくれた!」
「一日で四十回以上もゲームオーバーになった事もあったもんな」
「俺なら続けられて百回かな」
「これ調整ミスったクソゲー、っつって俺は投げ出す自信がある」
モニターに映っていたのは千春が古狼戦を制した場面。
運営が異常に思えるほど古狼に挑戦しているプレイヤーの存在に気付いたのは、千春が三百敗目を刻まれた頃の事である。
古狼の生みの親が、どれくらい挑戦されてるかな、と古狼の戦歴を確認した事がキッカケだった。
「よくクリアできたと思うよ、まじで。だって古狼ってさ『王シリーズ』のモンスターの中でも強い方じゃん? 挑戦推奨レベル140よ? それをこのプレイヤー、クリアレベル72よ? どんだけよ、まじで」
「挑戦し始めた頃はレベル80あったみたいだけどね」
「それでも十分低いでしょ」
デスペナルティの経験値減少効果で下がり続けていた。
古狼までの道中で雑魚モンスターを全て倒しても、デスペナルティによる経験値ダウンの方が数値が大きかったのだから、それは仕方ない。
「これだけ負け続ければレベル上げてから再挑戦って流れになりそうなものだけど、実際に他の大陸で『王』に挑戦して負け続けたプレイヤーのほとんどは、レベル上げとかプレイヤースキル磨いてから再挑戦して倒してたしな」
「だからこそ俺たちとしては嬉しかった!」
「そうですよ! 僕もめちゃくちゃ嬉しかった!」
高らかに歓喜の声を上げるのは、この古狼を作った人。
古狼の攻撃パターンを知るために何度も死に、レベルや強スキルでゴリ押しするのではなく純粋にプレイヤースキルで倒してくれた。
作り手は、この攻撃の後に少しの硬直を入れて攻撃の隙を作って……、などとプレイヤーが努力すれば勝てる形に仕上げる事が、彼らの仕事。
そして千春は作り手が想像した理想に限りなく近い形で古狼を倒した。
歓喜せずにはいられなかった。
「でもお前らさ、本当にドロップ率いじってないの?」
「いじってないですよ、本当に。なあ」
「ああ」
古狼の結晶ドロップ率の話である。
古狼は強敵であるため、ドロップする結晶は金以上が確定している。
とはいえ九割強の確率で金の結晶がドロップするように調整されていた。
「そもそもドロップ率に関しては僕らの管轄じゃないですし」
「いや、そうなんだけどな」
疑いたくなる気持ちもわからないでもない。
「ってことは、えっぐいドロップ率の0・008%を一発で引いたのか……」
虹の結晶自体のドロップ率は、もっと高く設定されている。
ただ、その虹の結晶の中にもアタリがあり、そのアタリである『フェンリル』を引ける確率が0・008%。
だから応援するあまり、古狼の製作者である彼がデータを改造してドロップ率を変動させたのではないか、と少し疑ったのだ。
ドロップ率の管理は別の人が行っており、自分たちは作ったモンスターデータにそのドロップ率を流用しているだけなので不正していないであろう事は彼も知っていた。
それでも、あまり気持ちのいい話題ではないので、彼らのような技術屋にしては珍しく空気の読める社員が新たな話題を差し込んだ。
「リアルラック値カンストしてそうですよね」
「それな」
「中の人には是非ソシャゲのガチャを回してもらいたい、俺のデータで」
誰ともなく、ぽつりと呟かれた一言に多くの運営社員たちが強く同意を示していた。
この部署にいる人たちの毎月の課金合計額は目玉が飛び出る金額だったりするのは別の話。
「さて、冗談はともかくとしてだ」
仕切りなおす一言に、そう言った社員に視線が集まる。
視線を集めた彼は、ニヤリと笑った。
「討伐達成を確認したな?」
あっ、と集まっていた全員が思い出し、半数以上が頭を抱えた。
「賭けは俺たち『討伐する組』の勝ちだ」
「じゃあ話の続きは『途中で折れる組』のおごりで晩飯食いながらしよう」
「休みのヤツにも連絡いれときますね」
楽し気な声を上げて、賭けに勝った者も負けた者も笑顔でオフィスを出て行った。




