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59話

 

 少しずつ千春は古狼の攻撃パターンを見極め始めていた。


 と言っても攻撃パターン変化前ほどの確実性はない。


 ゲームプレイに慣れ親しんだ者であれば簡単に判明させられる程度の気付き。


『ガウッ!』


(短い砲声!)


 それは発動の速い魔法攻撃の合図。


 ただし魔法属性が『風』なのか『水』なのか、はたまた複合属性の『氷』なのかまでは見極められていない。


 熟練のプレイヤーの中には発動までのコンマ数秒で何の属性魔法攻撃かを瞬時に見極めるような、そんな変態プレイヤー(誉め言葉)も存在している。


 そんな芸当は千春にはもちろん不可能。


「【クイックアイテム】【ダブルスロー】」


 千春は古狼の攻撃を相殺するためだけに火属性と地属性、二種類の属性爆弾を投げる。


 火属性で水属性を相殺し、地属性で風属性を相殺する。


 氷属性の場合、火属性爆弾の効果で威力を弱める事はできるが、相殺するまでは至らない。


 そのため千春は爆弾を投げ、硬直解除された直後に回避行動に移っていた。


「……あ、今回は水攻撃だったみたい」


 無事に相殺できた事に安堵のため息を吐いた。


 今回はクールタイム中で使えなかったが、そうでなければ【トリプルスロー】を使ってダメージを狙う事もある。


『アオオオオオオオンッ!!』


(遠吠え!)


 この場合は全力で距離を取る。


 千春のステータスの中でぶっちぎりのトップ値を誇るAGIによる本気離脱である。


 回避行動を開始した直後、古狼を中心に波紋状に衝撃波のようなエフェクトが走り、そして衝撃波から一呼吸分ほど遅れて地面から先端の鋭利な氷柱が無数に突き出し、その攻撃範囲を拡大していく。


 全方位同時攻撃の上に、その攻撃範囲も広い。


 ただ、この攻撃後の硬直時間は長いため反撃のチャンスでもあった。


「【クイックアイテム】【トリプルスロー】」


 確実に攻撃が終わった事を確認してから、千春は火属性爆弾を古狼へと投げる。


 古狼に命中した火属性爆弾は爆炎を起こし、古狼の巨躯全てが火炎に巻かれた。


 弱点と思われる火属性爆弾の三連撃で削れたHPは非常にわずか。


 それでも削れてはいるのだ。


 千春は諦める事無く、ただただ同じ事を繰り返し続ける。



  ▼



 攻撃パターン変化後に攻撃を捨てて逃げ続けた事で千春に見極められたのが、この二種類の攻撃パターンだけ。


 魔法攻撃以外の物理攻撃に関しては、その攻撃範囲が広くなった以外、攻撃パターン変化前とほぼ同じだったため、どうにかなっている。


 たまにコンボプラスされている攻撃もあって危ういシーンも何度かありはしたが。


 そして古狼のHPが一割を下回った。


『ガア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!』


 氷のように青白い輝きを放っていた古狼の獣眼が深紅に染まる。


 白い体毛も古狼の意気に呼応するように逆立ち、もともとの巨躯がさらに巨大化したように感じられた。


 深紅の獣眼と目が合った瞬間、千春の見ている視界枠が赤く染まる。


 それに嫌な予感を覚え、不安に突き動かされるように千春は全力で、後も先も考えずに真横に跳んだ。


 直後、千春のいた場所を抉る四爪の斬痕。


 そして引き裂かれた地面の先に鎮座する古狼。


「え? ちょ、全然見えなかったんですけど!?」


 これはプレイヤー側にも用意されているスキルで【超加速】という。


 戦闘中に一回限り使える使用制限のある強力なスキル。


 ただ【超加速】状態で行動を制御する事は不可能で、直線的な動きしかできないため、使いどころを間違えば単に自滅を招くだけの使いこなすのが難しいスキルでもあった。


 ゆらりと向きを変えた古狼が正面から千春を見る。


 そして再び千春は古狼の姿を見失う。


 理不尽な事に今回の戦闘に限り、この古狼に【超加速】の使用制限は取り払われている。


 ただし【超加速】を使用する直前に警告してくれる程度の優しさはあるようだった。


「目で追えない攻撃って本当に怖い! でも直線移動しかできないっぽい?」


 ここまでで少しは観察眼が磨かれた千春のゲーム脳もレベルアップしている。


 違ったとしてもゲームオーバーになるだけだ、と強がってみる。


 ここで負けると、そろそろ本格的にレベル上げからやり直す必要が出てきそうで嫌なのだが。


 そして三度目の【超加速】からの攻撃を警告に従って横に跳んで回避。


「やっぱり直線移動だけ、だよね?」


 それなら、と千春は火属性爆弾を手に持つ。


 四度目の対峙。


 視界の縁が赤く染まった瞬間にアイテムを捨てて、千春自身は真横に跳んだ。


 アイテムを『使う』場合は直後に硬直が発生するが、アイテムを『捨てた』場合は硬直は発生せず、同時にシステムの仕様として捨てたアイテムは数秒だけの一定時間その場所に存在し続ける。


 そして大事なのは、その捨てたアイテムも効果を発揮するという一点。


 【超加速】状態の古狼は千春が捨てた火属性爆弾が消失するよりも速く駆け抜け、そのために火属性爆弾を踏み、爆炎に包まれた。


「やたっ! んん? なんだかHPの減り方が大きくなってる……?」


 今の古狼は、いわゆる『バーサク状態』であり、攻撃力が大幅に上昇する代わりに防御力が大幅に低下している。


 そして古狼は【超加速】を使った攻撃を繰り返してくる。


 その後、千春が五回ほどアイテムを捨てた所で決着となった。


「…………最後に弱くなった気がするのは私だけ? ゲームってこういうものなの?」


 苦労が報われたはずなのに、その決着に納得しがたい千春だった。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] PTだと嫌な状態なんですけどね。ソロだとそういうことも ありますね。勝利おめでとう、ドロップに期待です。
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