50話
千春は拠点に設定している工房で呆然と空を眺めていた。
はっ、と正気を取り戻してステータスを確認。
「レベルダウンしてる……」
仇操花に瞬殺された結果のペナルティである。
事前の千春の予想ではレベルダウンするほどの経験値を喪失するはずではなかった。
しかし、それはあくまでも千春の予想であり、誰それの検証した確度の高い情報ではない。
「あんなの相手にどうすればよかったの……」
半泣きしつつ床にぽてりと倒れる千春。
仇操花との戦闘を思い出す。
ボスモンスターである仇操花は頭頂部に赤い可愛らしい花を飾った縦にも横にも巨大な熊。
きっと動きは遅いはずと千春は炎帝の短刀を構える。
そして千春は自分の長所である速度を活かした戦い方をしようと決め、仇操花の懐中へと飛び込み、一閃。
身長差から振るわれた炎帝の短刀は仇操花の足へ命中。
敵のHPバーに目に見えた減少はなし。
一ミリも減らないとは思ってもいなかった千春は動揺しながらも、仕切りなおすために距離を取ろうとバックステップ。
だが仇操花を攻撃した炎帝の短刀が、仇操花の黒い毛皮に刺さった状態から抜けない。
両手を使って必死に抜こうとするも、微動だにせずだった。
そこを仇操花に熊の手で上から押しつぶされ、あっけなく一撃でHP全損。
拠点でリスポーンとなったのである。
「……………………あ! 炎帝の短刀は!?」
思い出して装備欄を確認すると、そこは空欄。
ストレージも確認してみるが、そこに炎帝の短刀の文字はない。
恐る恐る攻略サイトで仇操花について検索した結果、答えはあった。
『強制戦闘の上、敗北すると装備武器を奪われる仕様』
『奪われた装備は仇操花を倒したプレイヤーが総取り』
『プレイヤーから奪った装備が何もない状態で倒すと何かありそうではある。検証求』
千春が調べた情報をまとめると、おおまかにこのようになった。
「レベルは下がるし……お気に入りの装備まで失うなんて……」
真っ白に燃え尽きた千春の口から魂らしきものがコンニチハした所で、彼女はむくりと小さな体を起こした。
そして無言のままコンソールを操作してログアウトを選択。
この日、千春がエンドワールドに戻る事はなかった。
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ここ一週間ほどログインしていなかった千春だったが、この日、彼女の姿はゲーム内の拠点にあった。
炎帝の短刀に関しては、もう諦めている。
諦めざるを得なくなった、という方が正確だ。
千春が仇操花に負けた翌日に、仇操花討伐の報告が攻略サイトに上がっていたから。
攻略者は『プレイヤーのドロップ品持ってない状態で何か特殊なアイテム落とさないか検証してきます』とレスも残していた。
そして約24時間後に仇操花のリスポーンキルを繰り返した結果報告もされている。
一時はゲームを辞めようとまで考えた千春。
だけれど、それはそれで何か悔しい。
「炎帝の短刀がもう取り返せない事はわかってるけど」
千春は鍛冶スキルを表示して、今の千春が作れる装備を一覧表示する。
鍛冶職は他の職業と違って装備制限がない。
すべての武器防具が装備可能な唯一の職業である。
ただし適正はあって、杖や魔導書などは装備してもデメリット効果(物理攻撃力の減少など)しか得られないため、基本的には適正に合致した装備で整える。
鍛冶職の最適合致装備は『ハンマー』など重装備。
しかし千春の場合、STR値により装備はできても攻撃速度が極端に遅くなる。
なので重装備は除外。
「じゃあ何か攻撃アイテムを用意すればいいのかな?」
鍛冶職である千春にも製作可能なアイテムとなると、その数は少ない。
ポーション、マナポーション、スタミナポーションなどの回復アイテム。
毒の状態異常を治す解毒薬。
採掘などで使う爆弾。
「……爆弾。あいつに効いたりしないかな?」
ダメ元だよね、と千春は幸いにも所持していた材料を駆使して『爆弾』を量産。
素材がある限り作ろうと数百個単位で貯蓄していると『爆弾から派生レシピを獲得しました』の通知。
「派生レシピ?」
特定のアイテムを規定回数以上、制作すると上位アイテムを思いつく、という仕様である。
装備品にも適用されているため千春もその仕様は知っていた。
派生レシピを確認すると『ダイナマイト』の文字。
「……爆弾より強そうだよね」
ダイナマイト製作に必要な素材も爆弾を使用する以外はお店で買える素材だけで事足りる。
これにより千春はダイナマイトの量産へと体制をシフトさせるのであった。




