45話
新大陸解放以来、プレイヤーたちはこぞって新大陸を目指した。
それは新大陸解放から四日が経過した今日も同じ。
ラグアで行動しているプレイヤーは激減している。
それでもゼロではないのは新規プレイヤーがエンドワールドを始めているからだろう。
それ以外の低レベルプレイヤーは一か八かで新大陸に乗り込み、モンスターからは遭遇と同時に『逃げる』を選択し、そうして素材を集めていた。
千春は行っていないし、まだ行く気はない。
大多数のプレイヤーで犇めいているであろう新大陸に行くなど、今の千春には自殺行為以外の何物でもない。
そこまで自虐的にはなれなかった。
だがしかし、ものは考えようだ。
「新大陸に皆の目が向いてるって事は、今までの場所は人が少ない!」
そう考えた千春がやってきたのはダンジョンだ。
第一大陸にある『白羊宮』への挑戦権を得るためのダンジョン。
正確には『白羊宮』に通じる道を封鎖するように存在する『彷徨いの森』。
ここを抜けなければ『白羊宮』には挑戦できない。
パーティで挑戦するにしても、一人でも未踏破者がいると直接『白羊宮』までテレポートできない仕様になっている。
だからこそ、そろそろシナリオクリアの証である可愛い動物の絵が欲しい千春としては、どうせなら人が限りなく少ないであろう今を選んで挑戦する事にしたのだ。
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「うわあ……。納涼感ばっちりじゃない、これ?」
千春の前には『彷徨いの森』入口がある。
入口と言っても人の足で踏みならされた土の街道の続きに森があるだけ。
森なのだから入口以外の何処からでも好きな場所から入る事は可能だ。
運営の悪意満載トラップ地獄を潜り抜ける自信があれば、の話ではあるが。
ちなみにここ『彷徨いの森』に運営が正式に用意した入口以外から侵入するとレベル限界を突破したモンスター『死霊騎士レベル150』に強襲される。
実際にレベル38の盾職プレイヤーを含むパーティが挑戦しているが、死霊騎士レベル150のスキルらしき広範囲の一撃で全滅している。
さらに死霊騎士レベル150の攻撃かスキルかには【武器破壊】【防具破壊】があったらしく、装備も全損だった。
さらにさらに、死霊騎士レベル150の特性として【物理攻撃完全無効化】を持っている事も判明しており、魔法耐性も高いときている。
今の所『絶対に倒せない敵』として君臨しているモンスターである。
「なんだかお化け屋敷みたいで緊張するなあ……」
おどろおどろしい雰囲気の昏い森。
何処からかカラスの鳴声のようなものも聞こえてくる。
不気味さ倍増である。
千春は歩いてきた街道の続きから『彷徨いの森』へと入った。
死霊騎士レベル150の存在を知っていて回避したとかではない。
単に千春の他にプレイヤーがいなかったから正面から入っただけである。
もし他プレイヤー(男)がいたら入口以外の場所から入っていた可能性が高い。
深い、昏い森。
薄い紫色に光る粉を撒いている植物のおかげで狭い範囲という制約はあるが視界確保には困らない。
先端が渦を巻く茎のような植物もあるが、色が紫で、ずいぶんと太くて大きかった。
太さなど千春の腕ほどはあり、高さに関しては横に並ぶまでもなく千春を優に超えている。
千春は不思議と道のようになっている場所を通って奥へと進む。
今の所、分かれ道らしきものはない。
それに物音も千春が草を踏む音以外は聞こえてこない。
ちょっと怖かった千春は炎帝の短刀を胸に抱きしめるように持って歩いていた。
すると、千春が通り過ぎる瞬間を計ったように、草場がガサッと音を立てた。
「ぴいっ!?」
ビックーーッ!! と大きく肩を上げ、炎帝の短刀を突き出すように構える千春。
音を立て、今も揺れている草場を見続け、何か出てくるのを慎重に待つ。
本当は心の底から『何も出てこないでください!』と願っているのだけれど。
ガサガサッ! と音を立てて茂みから出てきたのは、手のひらよりも大きな灰色の毛並みのうさぎだった。
「なんだ、うさぎさんかあ…………?」
言いながら千春は違和感を覚えた。
だからよーく、うさぎを見た。
ファンシーにデフォルメされた可愛らしいうさぎである。
一角兎などとは明らかに画風が違う。
「うん、まあね、気付いてたよ?」
だらだらと心の中で汗が流れる。
それは見て見ぬふり、もしくは気付きたくなかった事実。
「うさぎさんうさぎさん? お腹の毛皮とお肉がごっそりなくなってるけど大丈夫?」
うさぎも千春に言われて自分のお腹を見るような仕草をした。
でろん、と小さな眼球が瞼の中からこぼれた。
「ぴいっ!?」
突然の事で驚く千春。
だけれど彼女は驚かされる事は少し苦手でも、恐怖映像的なものに対する耐性は意外と高い。
それに恐怖映像にしないためにデフォルメされている事もあり、可愛いと思い込めばそう見えなくもないような気がしてきた。
しかしモンスターはモンスターなのだ。
声帯が壊れている設定なのか、特に声などはあげる事なくゾンビ兎は千春へと襲い掛かってきた。
「ふぇっ!?」
千春の想像していたゾンビ像は、ゆっくりと歩く方のゾンビ。
けれどゾンビ兎の動きは生前そのままっぽい俊敏なものだった。
それでもそれは一応『暗殺者』である千春に及ぶものではない。
「ほっ」
誰の目もない今であれば千春は従来のポテンシャルを遺憾なく発揮できる。
軽く、しっかりとゾンビ兎の動きを最後まで目で追って回避して、炎帝の短刀を一閃。
上から直線で振り下ろした炎帝の短刀はゾンビ兎を綺麗に両断。
すぐにゾンビ兎は光の粒子へと肉体を変換する。
アイテムドロップはなかった。
「……うん。結構弱いモンスターだったのかな」
自分だけでもどうにかできそうな手応えを感じて、千春は意気揚々と不気味な『彷徨いの森』の最奥を目指す。
人の目を気にしなくていい久しぶりのゲームらしい冒険は、少しだけ千春の心を弾ませていた。




