20話
「遠距離攻撃がねえと無理だ。諦めろ、ケイ」
グリフォン戦で仲良くデスペナった四人。
復活後、千春の拠点に再集結しての反省会の第一声がルシの今のセリフだった。
当然の判断である。
しかし子供性格のケイは、
「いーやーだーっ! 欲しい! グリフォンの羽がほーしーいーのーっ!!」
駄々っ子を発動していた。
ため息を吐き、ルシは駄々っ子になったケイと会話を続ける。
「ならお前が遠距離攻撃手段を覚えて来い」
「それも嫌。私、一途な女なの。浮気はダメ絶対なの」
ケイが言いながら撫でるのは愛用の両手剣である。
当然のように両手剣に遠距離武技はない。
「せめて片手剣なら『飛剣』が使えるんですけどね」
ノエルも片手を頬にあて、おっとりと困って見せる。
「何でもかんでも『いや』って言いやがって。本当に面倒な女だよ、お前は」
ズバリと、真正面から嫌味をぶつけられてもケイはへこたれない。
その程度でブレるような信念であれば、とっくのとうに使用武器を変えている事だろう。
「じゃあ、ここはやっぱりわたしが!」
「だからそれだけはやめろ」
「あうっ!?」
ルシの発言とともに受けたデコピンにより千春の頭がガクンッと後ろに弾かれた。
フレンドリーファイアが有効なゲームであれば、きっと今の一撃で瀕死、もしくはデスペナを受けていたはずである。
それほど今もまだ千春の装甲は紙だった。
けれど今回は千春も諦めたりはしない。
「ち、違いますよ、ルシさん。わたしが戦うとかの話ではなくてですね……」
千春の提案はこうだ。
遠距離攻撃可能な武器を作る。
という至ってシンプルなもの。
「でも私は両手剣サイズの武器しか使いたくないよ?」
面倒な縛りだなあ、という素直な内心は千春の苦笑の裏に隠しておいた。
「あたしは使ってもいいぜ」
「ナイフになる予定なんですけど……」
大丈夫ですか?
そう確認した所、ルシの表情が見るからに陰った。
それが答えだった。
盾職であるルシの装備可能武器にナイフは該当しないのだ。
というか千春は使ってもらう人は初めから決めていた。
「わたしとしてはノエルさんに使って頂きたいんですけれど……」
「千春さんのためでしたらお任せください」
即答だった。
「で、でも、そのためにノエルさんには新しい魔法を覚えて頂きたくて」
「覚えます」
またしても即答だった。
「……お願いします」
「はい!」
詳しい内容も聞かぬまま二つ返事をしたノエルは、とても嬉しそうだった。
ただ問題はそれだけではない。
「ノエルさんが新しく魔法を覚えて頂いている間にわたしは素材を集めてきますね」
「え? ちーちゃん一人で? 何の素材を、何処まで採りに行くの?」
ケイの疑問に千春は素直に応じる。
特に考える時間もなく即答で当然のように却下された。
「その素材が採れるのって確か『飛竜の巣』だろ?」
ルシは千春を眺め、これまでの数々の千春の偉業を思い出し、ため息と同時に首を横に振った。
何でですか!? とは心当たりがありすぎて千春も言えなかった。
「それに今、飛竜の巣は攻略最前線組が独占してるからな。たぶん入れてもらえねえぞ」
「ええっ!?」
そんな事は初耳だった。
いつから独占されてたんだろう、と千春は不思議に思う。
(何日か前に素材採取に行った時は普通に入れたから、それよりも後の話かな?)
と千春は考察するけれど、それは違う。
ただ単純に出入りを見張る門番的プレイヤーが千春の気配遮断・Ⅳ(プレイヤーのマップ情報にも表示されない特別仕様に進化した)に気付けず、さらに付け加えれば門番プレイヤーが男だったために軽く異性恐怖症気味の千春は門番プレイヤーを迂回して飛竜の巣に入った事が原因である。
エンドワールドでは町や領域への出入口は設定されている。
しかし、それ以外の場所からでも出入りする事は不可能ではない。
ただ運営側が用意した出入口以外から入ると、町や村の場合は警備隊に追われ、時にはショップや宿などの施設が使用不能になる場合がある。
そこがダンジョン的な場所であれば、大概は即死級の罠が仕掛けられていたりするのだ。
千春の場合は過剰なAGIに物を言わせて発動する前に突破していたため事なきを得ているのだけれど。
「だからあそこで採取される素材が欲しいなら金で買うしかねえんだよ。今ンとこはな」
「じゃあ買ってきます」
「お金はあるの? ちーちゃん?」
ケイに聞かれて千春はメニューを開く。
所持金の欄に標示されている数字は、とても寂しいものだった。
「それじゃ一つも売ってもらえねえよ、千春」
「うん。欠片すら売ってもらえないね~。欠片なんて売ってないけど」
「そんな~」
がっくり、と肩を落とす千春。
というのも千春は初めて彼女たちのために何かができると嬉しかったのだ。
けれど、いざ話を進めて見れば、この結果。
「……安心して、千春さん。私が、私の全てを駆使して何とかしてみせます」
にっこり微笑み、そこまでお願いできません、と遠慮の言葉の「そ」と千春が言う頃には、すでにノエルは拠点を飛び出していった後だった。
千春は呆然とそれを見送り、否、背中を見送ることもできずに風で自然と閉まるドアを見つめる事しかできなかった。
即断、即決、即行動だった。
そして残されたケイとルシの二人は顔を見合わせ、ルシが言った。
「あたし、すっげえ嫌な予感がするんだけど?」
「あ、奇遇だね~。私も嫌な予感がするんだよね~」
そう言いあう二人の視線もまた、千春同様ドアに向けられていた。




