↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/81

17話

 

「いやああああああああっ!!!」


 唐突に響いた絶叫の発生源は、とある拠点であった。


 率直に答えを言えば、ここはノエルたちの拠点。


 ラグアを十字に割るメインストリートの一本裏手に当たる場所だ。


 立地条件に優れ、二等級拠点という規模の拠点は購入費だけでも馬鹿高い。


 その拠点を購入するための権利を得るイベントクエストも高難易度だった。


 ちなみにだが、この規模の拠点を有しているのは『エンドワールド』でも上位プレイヤーのみである。


 二等級拠点よりも上の一等級拠点、特級拠点もあるが、まだ実装されていない現状では二等級拠点が最上級で問題はない。


「なになに!? どーしたの、のんちゃん!?」


「敵襲か!?」


 拠点にいたケイとルシも悲鳴の元であるノエルのいるリビングに飛び込んできた。


 リビングも三十帖を優に超えるだけの広さがある。


 設置されている家具も一級品らしい、凝った装飾のものばかりが並んでいた。


 そんなリビングの中心で両手を力なく落とし、虚空をぼやけた焦点の瞳で眺める知的眼鏡のノエルが立ち尽くしていた。


 何か呟くように口が高速で動いている。


 ケイとルシは互いの顔を見合わせ、アイコンタクトで応酬する。


 お前がいけと。


 なんだかんだ、すったもんだの末、放心状態のノエルに近付いたのはケイだった。


 唾をのみ、小刻みに動いている唇に耳を寄せる。


「嫌われた? どうして? なんで? 私はこんなに大好きですのに。何がいけなかったんでしょうか? もう私なんて死んだ方がいいんでしょうか?」


「ちょ!? 本当に何があったの、のんちゃん!? っていうか死ぬのはダメーーッ!!!」


 ガックンガックンとインファイター特有の高STRで肩を揺さぶるけれど効果は薄そうだった。


 そして『死ぬ』という不穏な発言を耳にして、ルシも参戦。


 しばらくノエルの正気を取り戻すために四苦八苦して、


「ッ!!」


 突然にノエルの焦点が定まった。


 瞳が何かを追うように動く。


 そして、


「いやああああああああっ!!!」


 今度の絶叫は歓喜の咆哮だった。


 幸せの絶頂なのだろう。


 わざわざゲームエフェクトで天使まで召喚してラッパを吹かせる小技付きである。


「…………本当に何なの?」


 ケイの言葉に敏感に反応したノエルは、瞬間でケイを拘束した。


「ぐぇっ、え? あ? ええ!?」


 接近戦を得意とするケイが反応できないほどの速度で、補助魔法ほぼ専門、生粋の後衛であるノエルが動いたのだ。


 ケイの受けた驚愕は計り知れない。


 きっちりしっかりケイの抱き心地を心行くまでノエルが堪能してから、ようやく解放されたケイ。


「本当に! 本当に可愛いんです! 千春さんは私の天使なんです!」


 両手を拳にして可愛らしく上下にいっぱい振っているノエル。


 意味が解らなかった。


 少なくともルシは意味不明すぎて首を大きく傾げている。


「でも……」


 と今度は一気に落ち込み始めた。


(百面相みたいで面白れぇな)


 もう理解する事を放棄したルシは、ころころと変わるノエルの感情とテンションを楽しむ事に決めた。


 ここまで取り乱すノエルも珍しいからだ。


 というか初めて見た。


「千春さんに、今度またみんなで一緒にダンジョンに採掘しに行きませんか、と誘ったんですけど断られてしまいました……」


 最初に絶望していた原因はそれか、と二人も察する。


 でもそのくらいで絶望するか? とルシは想像する。


 千春の事はルシも可愛いと思っている。


 自分にない女の子らしさを持つ千春を羨ましく思ったり。


 システムサポートを超えて転ぶというドジっぷりが放っておけないという事もあるけれど。


「断られたならまた次の機会に誘えばいいんじゃないの~?」


 もっともな意見をケイが言う。


「千春さんに『嫌です』と断られてもですか?」


「「うわあ……」」


 千春の可愛い顔を思い出して、そのギャップに苦笑が自然と浮かんだ。


「いえ、それはメールの返信を焦ってしまったための言葉足らずだったのですけど」


 つまりそれって本音って事じゃないの? とは思っただけで二人とも口にはしなかった。


 空気を読む分別程度は持ち合わせているのだ。


「で? 結局どーなったの?」


「はい。今のままだと私たちの足を引っ張るお荷物なので強くなれた時はお願いします、と」


「別に気にしねえのにな」


「同感です。千春さんは可愛いだけでいいんです。むしろ私に養わせてほしいくらいです」


「それ本気で言ってるだろ、お前」


「? 当たり前じゃないですか。千春さんになら私は都合のいいATMとして使われても本望なんですから。むしろその程度でずっと一緒にいられるのなら安いものです」


「胸張って言うセリフじゃねえよ」


 ガックリするルシだった。


「んん? 結局、のんちゃんがちーちゃんのATMになりたいって事しかわかんなかったんだけど?」


「ああ、ごめんなさい、ケイ。つまり千春さんは私たちに追いつくまでパーティを組みたくないそうです」


「ええ!? 私たちと一緒に行ってレベル上げした方が効率いいと思うんだけどなー」


「それだと私たちのお邪魔をしてしまうからと遠慮しているんですよ。気を遣い過ぎるコのようですからね、千春さんは」


 それでもケイは不満そうに頬を膨らませていた。


 その気持ちはノエルも同じだ。


「だからって手助けが何もできないわけではないでしょう?」


 自慢ではないが、ケイはあまり頭がよくない。


 何かを考えてから行動するよりも、行動した結果としてこうなった、という事の方が多い。


 つまりは考えて行動する事が苦手なのだ。


「何が言いたいのさ、のんちゃんは?」


「簡単な事ですよ」



  ▼  ▼  ▼



 ノエルからパーティとしての行動に誘われ、それをお断りしてから数日後。


 少しでも、せめてモンスターとの戦闘で緊張していても普通に動ける程度になるために千春はフィールドに出てモンスターを狩り、素材を集めては鍛冶をするサイクルで日々を過ごしていた。


 千春としても誘われる事は嬉しかった。


 また一緒に遊びたいとも思っている。


 けれど、だからこそ今の戦闘で役に立てないままではいけないと今回の誘いを断ったのだ。


「よし!」


 鍛冶のための工房になっている一室。


 炉があり、精錬のための高炉があり、デザイン設計のための机があるだけの部屋。


 まずは鉱石を精錬するために高炉の前に立つ。


 使用するのはミスリル鉱石だ。


 蒼銀色の鉱石は精錬する際に他の鉱石を混合する事でその色彩を碧銀色に変える。


 純正のミスリルインゴットは蒼銀色に輝くのだ。


 しかし、ミスリル鉱石だけを使用して精錬したミスリルインゴットが製品として一番優れているかと言うと、実際はそうとも言い切れない。


 『エンドワールド』には魔石という武器なら属性を、防具なら耐性を加えられる鉱石も存在する。


 その場合、ミスリルとしての特性である『万能属性』は失われるが、その代わり一つの属性に特化した武具が手に入る。


 全属性の攻撃効果、全属性の耐性効果を得られる純ミスリル製装備か、それとも一点特化の属性装備のどちらを選ぶかは、その持ち主次第だろう。


 故に優劣は付け難い。


 今回、千春が精錬するのは純ミスリル製インゴット。


 これは千春が選んだというよりも、まだ千春が魔石を入手していないから純ミスリル製インゴットしか精錬できないためだった。


「【火力調整】」


 目で見て炉内の温度を計り、そこに微調整を加え、最適な温度になった所でミスリル鉱石を投入。


 後は高炉が自動で不純物を取り除き、インゴットにして吐き出してくれる。


 それを待つだけのお仕事だ。


 稀にトラブルで炉内の温度が変化して失敗してしまう事もあるが、それは見ていれば対処できる。


 三十分ほどで美しい蒼銀色のインゴットが高炉からゴトンと吐き出される。


 目利きで純ミスリル製インゴットである事を確認してからストレージにしまう。


「そろそろミスリル製の武器か防具でも作ってみようかな……」


 もったいなくて使えなかったミスリルも今では結構溜め込んでいる。


 鉱石の状態でも、インゴットの状態でもだ。


 金床の前に座りミスリルインゴットを取り出す。


 造る製品のデザインを思い浮かべて初心者の金槌で叩くだけで簡単に出来上がる。


 性能は使用する金槌で決まるため、初心者の金槌しか所持していない千春では、性能面ではあまり期待はできないだろう。


 少なくとも炎帝シリーズよりも数段劣るものしか出来上がらない事は確定している。


 しかし、それで構わないのだ。


 千春の求めているのは鍛冶制作で貰える経験値であり、そして見た目重視な可愛い装備なのだから。


 いざ、と金槌を構えた所で呼び鈴がなった。


 ドアノッカーの硬質な音なので呼び鈴とは何か違うのだけれど。


「はーい」


 気勢を削がれたようで、ちょっとだけムッとしつつ玄関に向かう。


 珍しく少し怒っている事もあって誰が訪ねてきたのか気にもしていなかった。


「どなたですか?」


 言いつつ玄関扉を開ける。


「えへへ、きちゃった」


「へ?」


 そこにはケイを筆頭にノエルとルシの三人がいた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。