15話
前話の千春のメールに関する部分を修正しました。
話としての大筋は変わりませんので、このまま読み進めて頂いても大丈夫です。
興味のある方は読みなおしてみてください。(8/11)
『No』と言うはずが『Yes』と送信してしまった翌日。
やっぱりお断りします、と送りなおせなかった千春はケイに指定された場所に来ていた。
指定されたのは待ち合わせ場所としてプレイヤーたちに利用される事の多い噴水広場。
そのクエストボード前である。
千春の周囲には彼女と同じように待ち合わせしているのであろうプレイヤーたちでごった返している。
それ以外にも『エンドワールド』にログインしてくるプレイヤーも多く、プレイヤー密度は濃い。
そこには当然異性もいる。
むしろ同性より異性の方が多いくらいだった。
「うぅ、胃が痛いような気がする……」
早くも昨日、断れなかった事を後悔している千春だった。
誰かと一緒に遊びたくないわけではないのだ。
戦闘が苦手な自分が彼女たちの足を引っ張って嫌な気持ちにさせるかもしれない事が嫌なのだ。
それに隣に異性がいる事を思うと、千春の胃の痛みという幻痛は、その威力を秒ごとに増している気さえしてくる。
「全力で頑張ろう……まあ、わたしの全力なんてたかが知れてるけどね、うふふ……」
自嘲気味に失笑する千春。
それは本当に覇気というものの感じられない笑顔であった。
「あー! ほら! もう来てくれてるじゃん! おーい! ちーちゃーん!」
人混みの外から自分を呼ぶ声が聞こえて、千春はガバッと顔を上げる。
自分を呼ぶ声を探してキョロキョロし、そして見つけた。
人垣を形成しているプレイヤーたちよりも頭一つか二つ高い位置にある少女の天真爛漫な笑顔。
千春と同じくらいの低身長だったはずのケイの顔があり、元気いっぱい手を振っている。
隣にいるのだろう、ノエルとルシにも千春の居場所を教えているようで、すぐにケイは千春のいる方へと進み始めた。
「会いたかったよ~、ちーちゃん!」
全容がはっきりと千春の目に映る。
小柄なケイは、大柄なルシに肩車された状態だった。
キャラメイクをやり直せるのかと期待していただけに、その光景に密かに千春は落胆した。
落胆している千春へと、ケイはルシの肩から飛び降りて抱き着きにいく。
「きゃっ!?」
驚くも、千春はケイを受け止めて足を踏ん張れた。
「コラ、ケイ。千春さんが転んだらどうするんですか」
軽くケイの頭を叩き、保護者は千春に苦笑を向ける。
「重ね重ねごめんなさいね、千春さん。今日の事だって本当はもう少し準備の時間を設けてからと考えていたんですけど、このコが、ね」
ぽふぽふ、と頭に軽く手を置かれてケイは不満そうな顔をする。
「い、いえ! だ、大丈夫でひゅ!」
噛んだ。
そのせいで千春の顔は真っ赤に染まる。
目の前の保護者、ノエルは俯いてぷるぷるしていた。
(怒ってる?)
そう感じて、千春は「噛んでごめんなさい!」とすぐに謝ろうとして、
「ああ! もうダメ! 可愛いです! 千春さんって本当に可愛いです!」
「え? へあっ!?」
ノエルに抱きしめられた。
それだけではなく頬ずりまでされている。
長い金髪が千春の鼻を擽る。
そのくすぐったさも気にならないほど、今、千春は混乱していた。
「悪いね、千春。そいつは可愛い女の子は愛でずにいられない性癖なんだよ」
「性癖!? そんな不潔なものと私の崇高な愛情を一緒にしないでくれます!?」
「崇高かあ?」
「崇高です!! 私はただ可愛い女の子たちを野蛮な者どもから守ってあげたいだけですから」
野蛮な者、イコール、男とノエルの頭では変換されている。
つまりノエルは女の子が好きなのだ。
特に千春やケイのような身長の小さな、小柄な女の子が好みだった。
恋愛対象としてではない。
否、恋愛対象でも問題ないが、それは求められれば応じる程度のもの。
自分を恋愛対象として見てほしいという願望はない。
ただ純粋に、ただただ純粋に男性が大嫌いで、生理的に受け付けられない対象というだけの話である。
「あー、はいはい。わかったから落ち着けって。ほら、どうどう」
「馬扱いしないでくださいます!?」
ブルルッ!? と鼻息を荒くしている馬のようにルシには見えて仕方ないのだが。
今は適当に応じておく事にした。
「とりあえず移動しようぜ。あたしたち、めっちゃ目立ってるからよ」
▼ ▼ ▼
指摘されて初めて注目を集めている事実に気付いた千春の顔が真っ赤に茹で上がったため、急いで噴水広場を脱出。
目的地であるフィールドに向かうため、今はラグアを出た所である。
「……ごめんなさい」
謝罪を口にしたのは千春である。
それも今が初めてではなく、ここまでの間に何度もだった。
「私もすみませんでした。千春さんがあまりに可愛らしいあまり暴走してしまいました……」
「ああ、ノエルは本当に反省しろよ」
「な、あ、っ~~! わ、わかっています!」
ノエルは言い返そうとするも、ルシの言葉が間違っていない事は彼女自身が一番わかっているため反論の言葉を呑みこんだ。
そのやり取りが千春の申し訳なさを増大させているのだが、それに二人が気付く様子はない。
「あ、ちーちゃん! あそこから移動するんだよ!」
『エンドワールド』のフィールドは広い。
そのためフィールドには一方通行ではあるが移動手段が用意されている。
ケイが千春の手を引いて駆け出し、見せたのがフィールドの移動手段。
『テレポーター』
テレポーターは装置ではなくNPC。
メイジ風の妖しげなローブを身にまとう男性である。
地域によっては女性メイジNPCがテレポーターを務めている場所もある。
「おじさん『アードベルト』まで4人ね!」
「……400Gだ」
「はいはい」
「え、あ」
自分の分を支払おうとするもケイが千春の分もまとめて支払いを済ませてしまった。
「ケイさん、わたしの分です」
なのでケイに直接渡そうとして、
「ん? いいよ、そんなの。たった100Gだし」
ケイの言葉が全てだ。
戦闘職にとって100G程度はモンスターを一匹でも狩れば余裕で取り戻せる金額だ。
それは千春にもわかっている。
ただ知り合い以上友人未満だと考えている相手に驕られているという事が落ち着かせないだけだった。
その後もどうにか受け取ってもらおうとするも、ケイは受け取ってはくれなかった。
むしろ。
「じゃあモンスター狩りで返してくれればいいよ~」
と言われた。
(戦闘……。うぅ、わたし苦手だけど頑張る!)
モチベーションを新たに千春たちはアードベルトへとテレポートしていった。




