13話
たくさんの方に読んで頂けたおかげでジャンル別の日間1位!
読者になってくださっている皆様、本当にありがとうございます!
これから先の物語へもお付き合いのほど、よろしくお願いします!
「【簡易修理】」
千春は預かった大盾の表面を手のひらで撫でる。
そうするとまるで表面を研磨したかのように大盾は輝きを取り戻した。
「へえ! 大したもんじゃん、あんた!」
「痛ッ!? 痛くないはずなのに何だか痛い気がするから背中叩くの止めて!?」
ばしんばしんっ、ではない。
どかんどかんっ、と音がしそうな威力で千春の背中は叩かれた。
ダメージ判定されないのが不思議なほどである。
というか手元が狂うのでかなり本気で止めてほしい千春だった。
「止めなさい、ルシ」
知的眼鏡の魔法使い風な女性プレイヤーが制止する声でパーティの盾役の彼女、ルシは千春の背中を叩く手を止めてくれた。
初めての交流で、初めて鍛冶スキルを他プレイヤーに対して使うのだ。
失敗しないようにと千春は密かに緊張していた。
そこにルシの仕打ちである。
「ごめんなさい、千春さん」
「い、いえ」
苦笑いで両手を胸の前で小さく振る。
そして次の武具を手にした。
巨大な剣だった。
刀身だけで二メートル以上あるそれは、ルシの使う武器ではない。
ルシはあくまでも仲間を護る盾役に集中しているため、攻撃手段はコンパクトな手斧だけ。
「【簡易修理】」
同じように巨大な両手剣を研磨する。
シャリンッ、という成功音と同時に両手剣は若干の輝きを取り戻した。
「おお! すごい! 凄いね、ちーちゃん!」
「ちーちゃん!?」
いきなりのフレンドリーな呼び方に驚いて問い返してしまった。
すると不思議そうに小首を傾げる少女。
どこもかしこも細身な少女である。
不思議と親近感がわいた。
攻撃役の戦士である彼女はケイ。
確実に自身を倍するサイズの巨大剣の持ち主でもある。
「いきなりそんな風に呼んではダメですよ、ケイ」
「何でダメなの? え? ダメ? いいよね、ちーちゃん!」
「え、あ、はあ、いい、です、よ……?」
人懐っこいケイと違い、千春は若干の人見知りを発症している。
相手が異性であれば脱兎しているところだが、どうにか同性だから今も耐えられているにすぎない。
そんな千春が初対面を相手に嫌ともダメとも言えるはずがなかった。
現実でも友人は多くない事もあり、実は愛称呼ばれが少しだけ嬉しかったりもしている。
ただ大変そうなのは二人の保護者、もとい、お母さん役である知的眼鏡の彼女だろう。
「はあ……。ほんっっっとうにごめんなさい、千春さん」
「い、いえ。本当に気にしないでください、ノエルさん」
そう返しつつ千春はノエルの魔法杖にも【簡易修理】を使う。
スレンダーな肢体に白皙の肌。
眼鏡の奥の瞳は碧眼で、金色の髪をかけている耳が稲穂のように長い。
ノエルの選んだ種族による特徴で、彼女は『エルフ』だった。
時々ピクピクと動く長い耳には愛嬌があった。
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これで武器本来の力の半分程度は取り戻せた。
防具も同じように【簡易修理】して装備効果を回復させる。
耐久値も三分の一ほどだが回復させる事ができた。
「これで終わりです。後はできるだけ他のプレイヤーさんがいる場所を選んで戻れば無事に戻れると思いますよ」
他プレイヤーのいる場所を選んで通ればモンスターとの戦闘を極力避けられるからだ。
逆になすりつけられる場合もあるため一概には言えないけれど。
「ありがとうございました、千春さん」
「ありがとね、ちーちゃん!」
「ありがとな、千春!」
千春への感謝を口に、装備を整えて三人は立ち上がる。
「千春さんも戻られるのであれば私たちと一緒にどうですか? 町に戻り次第、改めてお礼もしたいですし」
「あ、いえ、お礼なんて! それにわたしはまだ一回も鉱石を採掘できていませんから」
丁重に、けれど気分を害さないように言葉を選びながら千春は返答する。
言葉選びに成功したのか、三人の様子からは気分を害したような空気はない。
「大丈夫かい? 千春は鍛冶職を専門的に伸ばしてるプレイヤーなんだろ?」
「悔しいけど戦闘職を伸ばしてる私たちでも苦戦するダンジョンだしね~」
鍛冶職を伸ばしてる千春には厳しい場所だと考えての言葉である。
実際はそこまで苦労した覚えもないため、千春としては内心で首を傾げる思いなのだが。
でも心配してもらえるのは素直に嬉しいと感じていた。
「大丈夫ですよ、無理はしませんから。それに、わたしには【気配遮断】がありますから!」
「……それがあった所で」
言いかけて、けれどルシの言葉はノエルに止められる。
千春に戻る気はないと理解してノエルたちは諦めて別れる事を決めた。
その前にフレンド登録をして連絡を取れる状態にしておくのも忘れない。
「ラグアに戻ったら連絡をください」
「今度一緒に遊ぼうね、ちーちゃん!」
「おう、そうだな! 今度パーティ組もうぜ!」
ノエルたち三人と別れ、それからフレンド登録されている三人の名前を見て千春の頬は緩んだ。
何時でも何処でも、たとえそれがバーチャルの世界でも友達が増えるのは嬉しいものだ。
特に千春のように友達が少なければ、その想いは隠しきれるようなものではない。
「むふふっ、さあ行くよ!」
駆けだし、しかし千春はとある想像をする。
それは叶えば奇跡だと思っている未来のヴィジョン。
「あの人たちにいつかわたしの造った武器とか使ってもらえたら嬉しいなあ……」
それはとても楽しい妄想で、この日の千春の殲滅力は普段を倍しても足りないほどだった。
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「いい子だったな、千春」
「だね~」
ルシとケイは歩きながら、さっき別れた女の子の事を思い出していた。
そして、それはノエルも同じだ。
本当に今度パーティに誘ってみよう、と楽天的な会話をしている二人とは少しだけ思考方向は違うが。
「足手纏いにならないといいんですけどね」
「え?」
「大丈夫だろ。足手纏いになってもあたしらでフォローしてやりゃいいんだからよ」
「そうじゃありません。逆ですよ、逆。私は、私たちが千春さんの足手纏いにならないかを心配しているんです」
「はあ? あたしらが?」
その考えた事もなかった的な声にノエルは盛大にため息を吐いた。
「考えてもみてください。ここまで私たちは『パーティ』で来てるんですよ? それなのに千春さんはソロで私たちのいた場所に到達しているんです。それはつまりソロで問題なくココのモンスターを相手にできるだけのレベルか、もしくは相応のPSがあると。そう考えるのが妥当ではありませんか?」
なるほど、とはならなかった。
「ここがそんなに危ないって知らなかっただけじゃない?」
「あー、確かに。ちょっと抜けてそうだったもんな、あいつ」
なかなか酷い物言いである。
しかし、そこに千春を馬鹿にするような悪意は含まれていない。
むしろ、そこが可愛いと二人は本気で思っている。
「でも心配だよな」
とルシ。
「何が~?」
「気配遮断があるって自信満々に言ってた事だよ。やっぱり強引にでも連れて帰った方がよかったんじゃねえか?」
「あー。生産職伸ばしだとデスペナの経験値減少は痛いもんねー」
気配遮断スキルに対する他プレイヤーの認識は『せいぜい少しだけモンスターからのヘイトを減少できるだけの、いわゆる『死にスキル』と呼ばれているもの』である。
気配遮断のスキルレベルを上げれば高い効果が得られる可能性もあるが、そのスキルレベルを上げるために必要な熟練度が果てしなく多すぎるため費用対効果が悪すぎると不人気の一助となってしまっているのが現状であった。
そんな使えないと攻略組が早々に判断して情報掲示板に『最低ランク』として載せたスキルを、むしろ使えるスキルかのように言う千春の存在。
何か新しい使い方を発見したのか、それとも前人未踏、未確認のスキルレベルの限界突破を成したのかもしれない。
そうノエルは考え、だからこそ「もしかしたら千春さんは高レベルプレイヤーなのでは?」と考えさせられているのだが。
「たぶん死に戻る事になるだろうし、今度レベル上げに付き合ってやろうぜ!」
「そだね!」
二人はモンスターを警戒しながらも千春を誘っての冒険の話に花を咲かせる。
(本当に死に戻るのでしょうか?)
むしろ普通に帰ってくる可能性の方が高そうな気がしているノエル。
けれどわざわざ否定する必要もないだろうと自分の意見は胸にしまっておいた。




