かかってきた電話
十二月に入り世間はスッカリクリスマス色に染まっていた。かといって今現在彼女もいないし、仕事も忙しい。寂しいクリぼっちというよりもホーリーとは真逆の仕事に忙しいクリスマスとなるのだろう。俺の仕事は土日もローテーションで出勤になるから。
そんな特に姉から『年始をどうするのか?』という電話がくる。同じ関東に済んでいるので、実家に帰るのはそこまで大変ではないものの面倒といったら面倒である。それを言うと『どうせ下宿でゴロゴロしているだけならば、親に顔を見せてあげなさい。そんな冴えない顔でも親には嬉しいものみたいだから』と怒られた。
そんな姉の横で、陽一が何やら、必死で話をしている声が聞こえる。
「ゴメン、アンタと話をしたいみたい。少しだけ替わっていい?」
俺が承諾すると、陽一が電話口に登場する。
『あのね、クリスマス、ライダーベルトとね! ライダーサーベルとね――を貰うの~』
挨拶もなくいきなり本題? から始めるのは家系なのか、子供だからなのか? 後半の言葉はあまり聞き取れなかったが俺は、『ふーんそうなんだ~』と適当に相づちをいれる。
「そういえば、DSで遊んでのか?」
話が途切れたタイミングで俺はそんな言葉を言うと、元気に『うん!』という言葉が返ってくる。
『友達と毎日遊んでるよ~』
なるほど、友達とのコミュニケーションアイテムとなっているならばDSをあげた甲斐もあったというものである。
「そうなんだ~どんな友達と遊んでるの?」
『リュウキといってね、リュウキはとってもゲームが上手いの! それに頭いいし!』
「なるほど~友達と遊んでいるんだ、いいな!」
その言葉を返しながら、何か引っかかるものを心の角で感じていた。
『アイツはね、家もなくて可哀想だから友達になってやってるの』
陽一の言った名前は何処かで聞いたような気もしていたが、その時は思い出せなかった。コチラの戸惑いも関係なく、陽一は散々喋り続け、満足したのか『バイバイ』といって電話を切ってしまった。電話が切れた後で、DSに入っていたセーブデータの名前と同じであったことを思い出す。
俺は心の中にに芽生えた、なんか嫌な予感を振り払うようにに頭を小さく横にブルブルとふる。多分疲れているから、なんか頭がモヤモヤスッキリしないだけだとそう考えた。
実際その後正月に実家で再会した陽一は変わりなく、やんちゃで元気で、俺の父親と母親を楽しませていた。相変わらず生意気な口のきき方だが、五百円しか入っていないお年玉を受け取り踊る程喜んで可愛いものである。コッソリお友達の事も聞いてみたけれど、『仲良く遊んでやっている』らしい。鳥のさえずりのように他愛ない話をし続ける陽一の様子を見ていると、おかしな心配をした自分が馬鹿みたいだ。
そして正月休みも終わり日常が戻ってくる。年末年始で休日が多くなった分、するべき事も多く仕事は怒濤の忙しさだった。家は疲れて眠るだけの場所となり、朝眠い身体を引きずって会社に行く。そんな毎日を過ごしていた。少し遅めの昼休み食事をとり昼寝をしていると携帯が鳴る。誰かと思うと姉の名前がそこにある。なんで会社にいると分かっている時間に電話をかけてきたのだろう? そんな事初めてである。不思議に感じつつ俺は電話に出る。
『もしもし、タカユキ兄ちゃん? 突然電話してゴメンね』
電話の向こうから聞こえる。子供の声に俺は首を傾げる。
「……陽一?」
電話が姉の携帯番号という事を考えると、この子供の声は陽一という事になるだろう。しかし……。
『はい! 陽一です!』
嬉しそうに電話の向こうの子供は答える。もしかして陽一だけで電話かけてきたという事は、何か姉にあったのだろうか?
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
そう聞くと電話の向こうで慌てて子供は否定する。
『違うの! お願い事があって電話したの』
俺は首をかしげる。陽一が一人で電話をかけてくることも、姉を通してでなくお願い事をしてくるなんて今までなかった。
「願い事?」
『あの……実はドラゴンサーガのゲーム貸してくれない?』
俺はその言葉に首をかしげる。幼稚園生にはあのゲームはまだ早くないかな? とも思う。けっこう物語もゲームそのものも難解で大丈夫なのだろうか?
「陽一、お前にまだ早くないか? あれ難しいぞ」
『それは大丈夫! もう途中まで、いや、出来る出来る!』
俺がウーンと悩んでしまう。
『大丈夫! タカユキ兄ちゃんのセーブデータ消さないし、すぐに終わらせて返すから!』
そこまでゲームを遊びたいというなら、貸してあげてもいいかなと思い俺は承諾の答えを返す。でも引っかかっているというか違和感を感じているのは、幼稚園生の陽一にRPGが出来るのか出来ないのかというその部分ではない。
「お前さ、本当に陽一?」
つい、頭に浮かんだ言葉を出してしまう。
『そ、そうだよ! な、なんで?』
「いや、兄ちゃんなんて、らしくないこと言うから」
俺の言葉に、『あ』という声が聞こえる
『そ、それはさ、ほら、良い子にしたほうが、ゲーム貸してくれるかな? と思ったから!』
子供ながらに処世術を覚えてきたという事なのだろうか? 俺はそう納得しようとするが、心の奥で違うという自分がいる。
「そういえばさ、こないだ言っていたお友達はどうしている?」
俺が話題を変えたのが嬉しいのか『あ、あ~』ホッとした声が聞こえる。そしてスピーカーから嬉しげなフフと嬉しそうな笑い声がする。
『……元気だよ! 毎日大暴れして、家族を困らせているの』
それって、元気と表現しても良いのか? とも思う。俺は、やはりこの電話にどこかシックリこない気持ち悪さを感じる。今俺が話しているのは本当に甥っ子なんだろうか?
『陽一、そらそろ出掛けるよ~』
電話から姉貴の声が聞こえる。
『はーい! すぐ行きます! 今度会うときにゲームお願いね、ママが呼んでいるから、電話切るね、じゃあまたね!』
そう慌てたように早口で言い、電話の向こうの子供は電話を切ってしまう。俺は電話を耳にあてたまま、昼間の暖房の効いたオフィスで、手が震えるような寒さを感じていた。何か取返しのつかないような事をしてしまったそんな恐怖が俺を襲った。




