第78話:究極の戴冠と、ただのエンディングロール
欧州最高峰の舞台、メガクラブの頂点を決めるスタジアム。満員の観衆が俺の名を叫ぶ中、俺は世界最高峰のクラブ王者のトロフィーを掲げていた。だが、その歓喜の特等席の隣に、いつも大騒ぎしていたはずのルナの姿はもうなかった。
世界を掌握した代償なのか、調停機構の最後の悪あがきか、彼女の気配はどこにもない。だが、俺は眉ひとつ動かさず、ただ次のステージへと視線を向けた。
ルナの不在という世界の欠落を突くように、天から「金色の地球儀と漆黒の代表召集令状(世界の決定者)」が轟音を立てて降り注ぐ。
世界の調停機構が、ついにこの世界のサッカー界の「最終到達点」を強制起動させたのだ。
『――メインの隣人を失った孤独な王者よ。だが世界は止まらぬ。汝をブラジル代表へと強制選出し、地上最大の祭典、ワールドカップの戦いへと引きずり込んでやろう。どれほどの個の力を持とうとも、国家の威信と歴史が激突する真の頂点の前に、如何なる天才もひれ伏すのだ!』
世界の理が放つ、物語を強制的に最終局面へ進めてすべてを完結させようとする最大級の進行術式。
その令状を片手で受け止め、俺はそのままブラジル代表の10番を背負ってピッチに立った。魔導など一切使うまでもない。予選から本戦、そして決勝に至るまで、俺の放つ一撃は文字通り世界のすべての強豪を一人で蹂躙し、気づけば俺はワールドカップの黄金のカップをその手に抱き、世界の真の頂点へと君臨していた。
世界を熱狂に染めようとする「ワールドカップの優勝演出」。
だが、スタジアムの中央で、俺はただ退屈そうにその黄金のカップを見つめて鼻で笑った。
「メガクラブからワールドカップ優勝ねえ。調停機構とやら、ルナを隠してまで、随分と大掛かりな最終章を用意してきたもんだ。これ、俺が昔、まだ原初のサッカーゲームのメインストーリーのプログラムを組んでた頃に、特定のトロフィーを全部集めたら自動で全実績が解除されて、スタッフクレジットが流れ始めるように設定してた『ただのエンディングロール(あるいはただの実績解除フラグ)』の構造そのまんまじゃねえか。ガワだけ地上最大の感動の結末っぽく見せてるけど、根本にあるのは俺が組んだただの自動終幕処理だぞ」
『――警告。データの最深部から、記述者による「シナリオの強制ループおよびヒロイン全権復帰」を検知。な、何だと……世界の頂点たる我がワールドカップ優勝が、ただの「実績解除」の残骸だというのか……!?』
「俺のやらかしたエンディング画面なんだから、どれだけ物語を終わらせようが、ルナの姿を消して孤独を煽ろうが、俺が一言『――あ、テスト終了。タイトルに戻るわ』とシステムを書き換えてやれば、この瞬間に『優勝の実績を持ったまま、再び第1話のあの空間へと時間を巻き戻し、隣にルナを完全な状態でリスポーンさせて次の周回を始めること』なんて、朝飯前だろ」
指先で空中の空間をスッと軽やかにフリックする。
次の瞬間、世界を覆っていた優勝の紙吹雪と歓声は一瞬でパチパチと音を立てて砕け散り、俺に世界の全シナリオの選択権を固定する美しい金色の周回紋章へと再構成されていった。調停機構の仕掛けた最終回イベントは、俺にとってはただの「リセットボタンをピッと押してやる」ような手間で、一瞬にしてただの快適な次のステージへとデグレードさせられた。
「……世界最高峰の戴冠と別れを、昔のただの実績解除扱いして、一瞬で次の無双の始まりへと自動固定させたのですか?」
気づけば、目の前にはいつもの学園の廊下、あるいはあのブラジルの砂浜の景色が広がり、そこには消えたはずのルナが、何事もなかったかのように黄金の瞳を輝かせて俺の胸に飛び込んできている。ルナは、世界が何周しようとも、1秒前よりも深く俺を崇拝していた。
「おいおい、そんなに焦らなくても、この世界のすべてのエンディングは俺のさじ加減ひとつさ。調停機構の用意したバグの修正も終わったことだし……」
俺が微笑み、空間をスワイプすると、唯一の美女であるルナの視線の先に、新たなる大無双へと続く「黄金のキャットウォーク(絶対無双の特等席)」が、極上の光の粒子を散らしながら自動生成されていく。
「さあ、お前の席は世界が何周しようといつでも俺のすぐ隣だ。完全に俺の支配下となったこの最高品質な新しいステージで、次はどんな極上の退屈しのぎを見せてくれるのか、特等席からじっくり楽しもうじゃないか」
俺を中心に、完全掌握した世界の先にして、すでに最高の配置で寄り添う唯一のヒロイン・ルナ。その圧倒的な調和の輝きを纏ったまま、俺たちは世界の規則(調停機構の法)すら完全にプライベートな玩具としたその先へと、優雅にステージを移行させるのだった。




