第十六話 再会という名の奇跡
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
第十六話 再会という名の奇跡
現代日本へと帰還し、かつての「無能な社畜」から「最強の効率化スペシャリスト」へと変貌を遂げた私は、充実した日々を送っていた。
しかし、夜寝る前に瞳を閉じれば、浮かんでくるのは決まって北方の雪景色と、あの厳しくも愛しい家族の顔だった。あちらでの数十年は、単なる夢にしてはあまりにも色が鮮やかすぎた。
そんなある日のこと。
私は王立魔法騎士アカデミーならぬ、都内の「国立国立新美術館」を訪れていた。そこでは今、近年発見されたという異世界の遺物や古文書を展示する「未知なる歴史展」が開催されていた。
(まさかね、と思いつつも足が向いてしまうのは、やっぱり未練かしら)
会場内を歩いていると、一枚の肖像画の前で足が止まった。
それは、何百年も前のものだというのに、驚くほど色彩が鮮やかに残っていた。
描かれているのは、漆黒の礼装に身を包んだ威厳ある男と、その隣で銀色の髪をなびかせ、不敵に微笑む美しい女性。
解説パネルにはこう記されていた。
「北方の守護神と呼ばれたギルフォード公爵夫妻。公爵夫人は史上唯一の全属性魔導師であり、その知恵で北国の冬を終わらせたと伝えられている」
喉の奥が熱くなる。
ああ、やはりあれは現実だったのだ。私が愛したカイル様は、私が去った後もこうして歴史に名を刻み、私との絆を証明してくれていた。
「……リリアーヌ」
不意に、背後から聞き覚えのある、低く落ち着いた声がした。
まさか。そんなはずはない。
ここは魔法のない日本で、私はただの「佐藤リリ」として生きているはず。
恐る恐る振り返ると、そこには展示を眺める一人の男性が立っていた。
仕立ての良いスーツを着こなし、眼鏡の奥で鋭い光を湛えたその瞳。
その男は、私の顔を見ると、驚いたように目を見開いた。
「……驚いたな。まさか、こんな場所で君に会えるとは」
「……カイル……様?」
震える声で呟くと、彼は一瞬だけ困ったように眉を下げ、それからあの日、北方の城で最初に見せてくれたのと同じ、不敵で、それでいて温かい笑みを浮かべた。
「今はカイル・ド・ギルフォードではない。加賀美カイルという名だ。……そして君も、リリアーヌではなく、リリ、だろう?」
「……どうして」
「全属性の賢者が遺した魔導書を、俺が読み解けないと思ったか? お前が逝った後、俺は闇魔法の極致を研究した。魂を転生させ、次の世でお前を見つけ出すためだけに、余生を捧げたんだ」
周囲には多くの観客がいる。しかし、私たちの間には、あの日北の地で編み上げた最強の結界と同じ、二人だけの静寂が流れていた。
「……効率が悪いわ。魂を転生させるなんて、どれだけの魔力が必要だと思っているの」
私は涙を拭い、精一杯の強がりを言った。カイルは私の隣に並び、展示されている自分たちの肖像画を見つめた。
「ああ、最悪に効率が悪かった。お前を見つけるまでに、ずいぶんと時間がかかってしまった。……だが、これでようやく再開だ」
彼は私の手を握った。その掌の熱さは、あの日、冷たい馬車の中で握り合った時と全く同じだった。
「リリ。こちらの世界でも、俺の右腕になってくれるか?」
「ええ。ただし、今度は残業なしのホワイトな条件でお願いしますわよ。……それから、アルベールやミレーヌたちに似た子も、どこかにいないか探しに行かなくちゃ」
「ふっ、お前は本当に……。欲張りなところも変わらないな」
私たちは手を取り合い、展示室を後にした。
美術館の外には、夕暮れの街が広がっている。
魔法はなくても、科学と、そして何よりも「意思」がある。
全属性の賢者と、彼女を追いかけてきた黒公爵。
二人の物語は、今、ネオン輝く現代の街角で、新しいページをめくり始めた。
もう二度と離れることのない、永遠の続きを。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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