表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥の中に咲く蓮華 ~無能を演じる全属性令嬢、学園で静かに牙を剥く~  作者: たま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/16

第十五話 悠久の先へ、魂の帰還

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

第十五話 悠久の先へ、魂の帰還

リリアーヌ・ド・ギルフォードがこの世を去ったのは、それからさらに数十年の後、彼女が「曾祖母」と呼ばれるようになった冬のことだった。

彼女の最期は、驚くほど穏やかだったという。夫であるカイルに先立たれて数年、彼女は自身の魔力と知識のすべてを魔導書と後継者たちに託し、最後の一秒まで「効率的」に人生を締めくくった。

意識が遠のく中、リリアーヌの視界には不思議な光景が広がっていた。

北方の冷たい雪景色ではなく、懐かしい、しかし少し煤けたアスファルトの匂い。

踏切の警報音。

自動販売機の温かい光。

(ああ……戻ってきたのかしら。それとも、最後に見た夢?)

彼女が目を開けると、そこは病院のベッドの上だった。

「……ここは?」

掠れた声で呟くと、傍らにいた見慣れない服を着た男女が顔を上げた。

「リリアーヌ……じゃなくて、リリ! 目が覚めたのね!」

そこにいたのは、前世の両親だった。

聞けば、彼女は仕事の帰り道、貧血で駅の階段から転落し、一週間も意識を失っていたのだという。

(全部、夢だったの……? あの全属性の魔法も、カイル様も、子供たちも……)

喪失感に胸が締め付けられそうになった時、彼女は自分の右手に違和感を覚えた。

点滴を打たれたその腕の、指先に意識を集中させる。

この世界には魔力など存在しないはずだ。しかし、彼女の魂に刻み込まれた「ことわり」は、異世界でも不変だった。

指先から、目に見えないほど微かな、しかし純粋な「風」が生まれた。

病室のカーテンが、ふわりと揺れる。

「……夢じゃなかった。私は、あそこで生きていたんだわ」

彼女は涙を流しながら、微笑んだ。

社畜として死にかけていた彼女に、異世界は「自分らしく生きる力」を教えてくれた。そして今、彼女はその力を持って、再びこの現代日本という戦場に舞い戻ったのだ。


数ヶ月後、都内のとあるオフィスビル。

「……リリさん、このプロジェクトの進捗、どうなってる? 無理なら他へ回すけど」

嫌味な上司の言葉に、かつての彼女なら縮こまっていただろう。

しかし、今の彼女は違う。

「いえ、すべて最適化オプティマイズしてあります。先ほど共有フォルダにアップしましたので、ご確認ください。それから、こちらの資材調達のルートも魔法……いえ、効率的な手法で見直しましたので、コストは三割削減できます」

「え……? あ、ああ……」

圧倒的な事務処理能力、そして時折、彼女の周囲でだけ機械の調子が悪くなったり、逆に夏場でも涼しい風が吹いたりする不思議な現象。

彼女は「社畜」であることをやめた。

今世でも、彼女は彼女なりの「全属性の賢者」として、自分の人生を切り拓き始めたのだ。


仕事帰り、彼女はふと立ち止まり、夜空を見上げた。

ネオンの光で星は見えない。けれど、彼女にはわかる。

時空を隔てたあの北の地で、彼女の愛した子供たちが、そしてその子孫たちが、今も幸せに暮らしていることを。

「カイル様……私、こっちでも上手くやってるわよ」

彼女はカバンから、一冊の古い手帳を取り出した。

そこには、自分にしか読めない「ギルフォード式の魔導数式」がびっしりと書き込まれている。

魔法は、杖を振ることだけではない。

知恵を絞り、環境を整え、大切な日常を守ること。

それが、彼女が二つの人生を通して辿り着いた、真の「全属性」の正体だった。

夜の街に溶け込んでいく彼女の背中は、かつて侯爵邸を飛び出したあの日のように、自由で、凛としていた。

彼女が紡いだ「自分を愛するための魔法」は、今も誰かの心の中で、静かに輝き続けている。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

感想もいつも励みになっております。

少しでも楽しんでいただけたなら、

評価やブックマークで応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ