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ゴースト令嬢の願いを叶えるピアノ〜プライベートで能力を使ったら王子にかかっちゃいました〜  作者: めんだCoda


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10/30

第10話 生クリームと甘い時間

 ケーキと紅茶を運んできたのは、注文を取りにきたときと同じ女性の店員だった。

 店員はケーキや紅茶をテーブルに置き終えると、ファビウスの方を熱い視線でじっと見つめる。しかし、ファビウスは気にも止めずフリージアに話しかける。


「いただきましょう。…うん。私の注文したケーキは美味しいですよ、よろしければ一口どうですか」


「えっ、そんな…!大丈夫で…」


 しかし、ファビウスはフォークにケーキをさし、フリージアの口元へと近づける。


(そのフォーク、彼が一度口に入れてるのに…!私が口に入れてもいいのかしら)


 間接キスになることにフリージアはドキドキするも、ファビウスはこれをどう捉えているのか分からず、どうしようか困ったがとりあえず流されてみる。


「…いただき、ます…」


 顔が絶対赤くなっていると思いながら、控えめに口を開けファビウスのフォークを口に含む。


「うんうんうん…おいしいです」


 ファビウスにずっと見つめられ、緊張で全身から汗が出そうだった。


「よかった」


 満足そうな笑顔になるファビウスに、フリージアは初めて彼の少年っぽさを垣間見た気がした。


 そして、そんな2人のやり取りを目の前で見ていた女性の店員は、涙目になり足早にいなくなった。


 フリージアは女性を目で追い、その後ファビウスを見たが、彼はフリージアを見つめているだけで、女性の方は気にしていないようだった。


「今のように…きっと女性からモテるんでしょうね」


「気になりますか」


「えっ…と…、気に…は…なります…!」


「ははっ。あなたは正直ですね。そうですね、女性から手紙をもらったりなどはありますが、私は好きな女性以外は別に興味はありませんので」


(好きな女性いるんだ…)


 フリージアは自分のした質問で勝手に傷つき、話題を変えようとする。


「…この、ケーキにのってるフルーツより、ファビアスのお店のマスターが出してくださった、フルーツ盛り合わせの方が美味しかったです」


「彼は一流のシェフですからね。フルーツも他の食事も、どこの店よりも美味しいと私は自信を持って言えます」


「シェフ…?マスターじゃなくて?」


「あぁ…言っていませんでしたが、マスターと私は知り合いでして…。実は、私の住んでいた家で、以前シェフ長をしていたんです」


「まぁ、そうなんですか!でも、今はシェフをやめられて?」


「夢である自分の店を出したいと、それで辞めました。私を含む私の家族全員が、彼の料理の腕前に惚れていましたので、やめて欲しくはなかったのですが、彼がどうしてもやりたいことならば、と父上が承諾したんです」


「お知り合いだったのですか。なので、ファビウスさんはあの店に来ていたのですね」


「そうです。店をオープンしたと聞きまして、応援をかねて時々通っていました。彼は大衆的な店にはしたくないとの思いがあったようで、フリージアさんもご存知の通り、外観は入りにくい一見さんお断りのような感じで…私も最初は入るのを躊躇いました」


「ふふっ、本当に見た目はそうですよね。でも、私はあの雰囲気が好きです。なんだか、秘密の隠れ家みたいな感じで」


「気が合いますね。私も好きです、フリージアさんと会える場所ですから」


「えっ…」


 フリージアを真っ直ぐに見つめるファビウスに、フリージアはまた心臓がドキドキする。


「えっと、あの…でも、ファビアスのお店は…人がいっぱいで、2人で中で会えなく…なってしまいました…ね」


(お店に人が来るよう、願いの効果をかけた自分のせいなんだけどね…)


 フリージアはマスターと店のために良かれとやったことが、まさか自分にとってマイナスに働くとは、とため息をつく。


「あの溢れかえるような人は、私も通い出してから初めて見ました。フリージアさんが演奏してから、急に人が集まりだしましたね。演奏が素晴らしいので、人が人を呼ぶのでしょうね。そういう私も、フリージアさんの演奏を聞いた次の日は、店に人を連れてきてしまいました」


「そうなんですか!どなたを連れて来られたのですか?」


「父上です。父もマスターに会いたがっていましたから、これを機にと声をかけました。ですが、フリージアさんが来られる前には帰ってしまいましたが」


 ウィン公爵の屋敷の後に店ファビアスに向かい、行くのも帰るのも遅くなった日だ。


「せっかくなので、フリージアさんを紹介したかったのですが。前回はタイミングが合わず残念でしたが、またそういう機会を作れればいいなと、個人的に思っています」


「えっ…!?」


(それって…ただの知人としての紹介?!それとも…)


 ファビウスの手が、フリージアの頰をそっと撫でる。


(それとも…私は…自惚れてもいいの…?)


 ファビウスの指が、フリージアの小さめの口元に、ゆっくりとおりてくる。


 フリージアとファビウスは、互いに見つめ合ったまま、フリージアは呼吸の仕方を忘れたかのように息を止める。じっと見つめていると、ファビウスの綺麗な瞳に吸い込まれそうな気持ちになる。


 ファビウスが、フリージアの口元を輪郭にそって優しく指でなぞる。そして、その後に指先をフリージアに見せる。


「つけたままでも可愛かったのですが。美味しそうな生クリームを取りました」


 ファビウスは楽しそうな笑顔で、生クリームのついた指をペロリと舐める。


(生クリームがついてたの…!?私ってば勘違いして…恥ずかしいっ…!!)


 フリージアは恥ずかしさのあまり、俯いて目をギュッとつぶる。

 そんなフリージアの様子を見て、ファビウスはクスッと笑う。


「あ、ファビアスの店も先ほどより人が減りましたね。どうしますか、ここを出て行ってみますか?」


 ファビウスに言われフリージアも店を見てみると、確かに人は減っていて2人だけならなんとか入れそうだった。

 だが、既に日は落ちかけており、フリージアは家族との約束を思い出し、残念な気持ちになる。


「ごめんなさい。私も行きたいのですが、日が落ちる前に帰ることが、うちの家族との約束なので、今からは行けなさそうです。せっかく誘っていただいたのに、ごめんなさい」


「いえ、女性は暗くなってからは危険ですし、誘った私が悪かったです。フリージアさんとまだ一緒にいたくて、つい無理を言いました。すみません。そろそろ行きましょうか」


 席を立とうとするファビウスに、フリージアは思わず口を開く。


「あの…わたしも…!私も……もっとファビウスさんと一緒に話したり、本当は…したいです…」


 驚いて見つめるファビウスの視線を感じ、フリージアは顔を赤らめ視線を落とす。


「また明日、会えますか。ファビアスの店で。午後は私用があるので、私の都合で申し訳ないのですが午前中に会えればと思うのですが…ご都合はどうでしょうか」


「行けます…!でも、また人でいっぱいだったら…」


「マスターに言って、入れるようにしておきます。必ず」


 ファビウスはフリージアの手を取り、優しく握る。

 その後、フリージアの頰に手をあて、また唇の形に沿って指先で優しくなぞる。

 彼の触れ方にまたもドキドキしていたが、彼にばかり主導権を握られて、自分だけ緊張するのもずるいと感じたフリージア。


「また、生クリームついてます?」


 目を細めてイタズラっぽく笑うフリージアに、ファビウスは、ぶはっ、と思わず照れながら笑い出す。


「あはははっ!…ついてないです。ははっ。本当に、あなたは知れば知るほど魅力が増す人だ」


 ファビウスは笑いながら、潤ませた瞳をフリージアに向ける。


「さぁ、行きましょう、途中まで送ります。今日も、馬車で来たのですか?」


 ファビウスは先に席を立ち、フリージアの手を取りフリージアが席を立つのを手伝う。


「いえ、今日は徒歩で来ました。ありがとうございます」


「徒歩ですか。ここから、ご自宅は近いのですか?」


「うーん、そうですね、例えドレスと高いピンヒールを着ていても、歩くのに苦にならない程には近いです。ファビウスさんは?近いですか?」


「私は…そうですね、徒歩では難しいので、フリージアさんと同様馬車か、あるいは馬に乗ってくるか、ですね」


「馬にも乗れるのですか、すごいですね!」


「もし宜しければ、今度一緒に私の馬で散歩しませんか」


「わぁっ!ぜひ!楽しそうです!」


 フリージアは目をキラキラさせ、思わずファビウスの両手を取り彼にぐっと近づいて、顔を見上げる。

 すると、ファビウスの顔がどんどん赤くなっていき、顔をさっと横に背ける。


(…あれ?)


 フリージアがキョトンとしていると、ファビウスはフリージアから片手だけ手を離し口元を隠したあと、サッと背を向ける。


「暗くなる前に早く出ましょう」


 フリージアの手を引きながら前を歩くファビウスの耳は、真っ赤だった。


「ふふっ」


「…なんですか」


「なんでもないですっ」


 日が沈んでいく中、2人は互いの顔を見ながら笑いながら街中を歩いていく。

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