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旧 パラレル・ロマンス  作者: いち。
第2章 『異怪人』
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【第14話】 復讐の弾

 大剣を携えた隻眼の家長の帰宅を出迎えるのは、獣の尾と耳を備えた妻と、それの娘である金髪が光り輝く少女と――その中で異質さを解き放つ、イカイ人とあだ名される男だった。


「――何笑ってやがる」


 その特異的で不自然な男を、一家は誰一人として弁別することは無かったが、あまりにも無謀な願いを掲げる痛ましい姿を、家長である隻眼の男は同情の意を込めつつ、声を荒げ、嘲笑っていた。


「いーや、面白いじゃねぇか。叶うわけもない願いを、力も無いくせに求めるっていうのはよ」


 隻眼の男は、名も力もない男の切なる願いを真っ向から打ち砕く。『隻眼の修羅』という異名を持つ男の言い伝えには、その膨大な力は物理的だけでなく、心理的な破壊力も兼ね備え、仲間を裏切った際には精神も殺してやったとか――、

 言い伝え通りに心身の暴虐を振るう隻眼の男は、顔を歪ませ、腹を抱えていた。


 だが、いくら暴言を吐かれ、嘲笑われようとも、一度どん底へ突き落された名のない男にとってそれらは無傷である。そのため、真っ向から嘲笑してくる隻眼の男に対し、名のない男もまた、真っ向から睨み返していた。


「力ならある――」


「ほう」


 名のない男は、己を無力だと言いつけてくる隻眼の男と睨み合い、『力ならある』と言い放つ。明確には、名のない男そのものにある訳ではないが、男の所持していた拳銃というものは実際に、槍を構え対抗してきた女にも――あの美奈が相手であっても、効力を発揮していた。


 ――この銃ならどんな命でも刈り取ることができる


 1000人規模の軍を一掃した美奈でさえも殺せたのだ。その力を疑う必要はなく、疑惑をかけるなんてむしろ無粋である。だから、名のない男には絶対的な勝利の確信があった――その力を振るった結果が、幻に帰すこととならなければの話だが。


「その力ってのはこれか?」


「――!?」


 力を発揮したことの顛末が幻とならないことを憂いていた名のない男に、それ以前の問題が現れる。


 ――眼前には、名のない男が持ってるはずの拳銃を構える、隻眼の男の姿があった


「そ、それは、何でお前が」


「いや?こんな危ないモン、道端に置いたままにできるかよ」


 隻眼の男はその玩具の真髄を、理解しているような素振りをみせる。その反応に、名のない男は口を震わしていた。

 もし、隻眼の男が拳銃の仕組みを把握しており、人を殺せる代物ということも認知していたのだとするのなら、この男はその力を名のない男に振るう可能性がある――というより必ずそうなる。

 名のない男は『イカイ人』という名を付けられ、そしてそれを理由に命を葬られかけたが、何とか生き残ることができた。だが、それは拳銃という凶器があるおかげで成せたに過ぎない。もし、その凶器が相手側に回るなんていう事態に男が陥ったのなら、それこそ命を葬られる羽目になるだろう――そんな事態が現在進行中で起きている。


「返してくれ――」


「お前はただでさえ、血の気が多いんだ。返せるわけねーだろ」


 緊急事態をどうにか阻止するため、名のない男は隻眼の男に凶器の返却を依頼するが、即座に却下された。隻眼の男が構える拳銃を下すことはなく、どうやら解決策は実力行使しか無いようだ。

 名のない男が銃口を掴み、隻眼の男からの拳銃の奪取を試みる――、


「ホント、非力だよなぁ――そんな力で人を殺す気だったのか」


「くっ」


 が、それらは失敗に終わり、しっぺ返しかのような言葉が名のない男を襲う。ただでさえ、無力感に打ちひしがれていた男には、その言葉は威力の高い追撃であり、立ち直れなくなりそうにもなっていた。


 ――ただ、男には止まれない理由がある


「殺さなくちゃならねぇ奴がいるんだ――」


 美奈に護られた男を殺す、という呪いのような感情が名のない男を渦巻いている。

 片目しか機能していないというのに、その感情を見抜く隻眼の男は、名のない男に容赦のない言葉を言い放つ。


「誰がそう言った――お前の自己満足なんじゃねぇのか?」


 非常に冷徹な隻眼の男の言葉は、名のない男にとって受け入れがたいものでありながら、紛れもなく正論でもあった。男は誰かに殺しの任を依頼されたわけでも無く、願われたわけでも無い――それは美奈も同様だ。

 美奈が直接的に、護った男の殺害を願ったことはない――というより、美奈が護った男なのだから、むしろ生存を願っている可能性の方が高いのだろう。


 ――名のない男がその真実に気づくことは無かった


「違う!美奈のために俺は――」


 そのため、名のない男は醜態を晒し続け、無様に拳銃を取り上げようとするしかない。腕を振り、前屈みになり、拳銃を奪い返す――そのことしか男の頭には無かった。


「――はぁ、お前情けねぇな」


 それに呆れた隻眼の男は、名のない男に向けた拳銃の引き金を引く予備動作を行う。


「いっぺん、死んでみろ」


 刹那、引き金が引かれる。


「が」


 ――名のない男は『死』を覚悟し、だが『死』が幻であることを願う


「なんてな」


「――は」


 名のない男は死ぬことも無く、幻を見ることも無い。歪な出来事に、男はあっけらかんとしていた――、


「これ拾った時、使ってみたらよ物騒なモンが出てきたから――抜いといた」


 どうやら、凶器は隻眼の男に拾われた際に弾を抜かれたらしい。名のない男はそれに安堵し、同時に人を殺す手段が無くなったことへの焦燥感を得る。

 男は隻眼の男の襟を掴み、力の限り叫ぶ。


「おい、弾はどうした! ふざけんじゃねぇぞ、あれがなきゃ俺は――」


「お前、まだ醜いことをほざく気か? こんなモン使わねぇと殺せねぇ殺しなんて、辞めちまえ」


「な――」


 美奈に護られた男の殺しが生き甲斐であり、目標に掲げていた男は、隻眼の男にそれらを完全否定され、出る言葉も見つからなかった。

 そんな男に、隻眼の男が顔の距離を寄せ、愛する妻と娘に声が届かぬよう、耳打ちを行う。


「弾があった所で、お前の殺したい奴ってのはこの世界には居ねぇよ」


「あ?なんでそんなことが――」


「お前がイカイ人だからだ」


 とんでもない発言をさらっと行う隻眼の男に、名のない男は顔を歪ませ、憤怒と憎悪と焦燥が混ぜ合わさったような感情になる。


 ――アイツがこの世界にいない?

 

 言葉の意味が分からず、尋ねようとも返ってくる回答は、名のない男が『イカイ人』であるからという、男からすれば余計に混乱するような内容だった。


「よし、飯にするか! アカリ、今夜は鍋だ!」


「え、あ、うん! おいしそう!」


 父親たる男は、名のない男の葛藤を知る由もなく、先程までの叱責がまるで無かったかのように、愛娘である金髪の少女――アカリ・メージとの談笑に表情を切り替えていく。

 父親から愛娘に発せられる一言一句に怒気はなく、そこにはひたすら愛情だけが存在していた。そんな円満な関係に、名のない男だけが取り残されて――、


「ウユ、そいつ頼んでもいいか?」


「ええ――もちろん」


 そんな孤独の男を、隻眼の男が直接的に気に掛けることは無かったが、妻である――ウユ・メージにその代打を頼むことで、隻眼の男は場を乗り切り、愛娘と共に玄関を後にした。


「すみません、大丈夫ですか?」


 名のない男の扶助を頼まれたウユは、温かな声音で崩れ落ちた男の背中に声をかけていく。情け深いウユの声に、瞑想していた男の脳が活性化される。


「――あ、ああ」


「そうですか、良かったです」


 ウユの温かな声音と、名のない男の声音はまるで正反対だった。男の声は酷く掠れ、世界に絶望したかのような悲鳴のようにも聞こえる。嗚咽を堪え、汗をかき、目を赤くする男の背中はすさまじく萎んでいた。

 その様子に改めてウユが声を鳴らす。


「本当に大丈夫ですか――って何やってるんですか!」


「俺は殺すんだ――絶対」


 ウユの心労を潔く軽んじる名のない男は、心配りなど一切耳に入れず、脚を家の出口である扉に滑らせていた。たたらを踏む男に、ウユは衝撃を受けつつ男を言い咎める。何故、まともに歩くことも出来ない脚を進めるのか、と。

 その言い分に男は覚悟を連ねる。


「お前らは平和で居られるから――俺の気持ちなんて分からねぇよ」


「―――」


「大事な人が殺された気持ち、分かるか?」


 名のない男は、己が美奈を殺したという事実に目をつむり――いや実際に男はその事実に気付いていないが、美奈に護られた男を殺人犯とし、罪を擦り付ける。無責任な言葉は男を強くし、虚勢を張らせていた。


 ――大事な人を殺した奴への復讐


 そのフレーズに男は酔っているのだろう。男は世界の被害者面をし、地を睨みつけていた。


「分かりますよ。私の姉も殺されましたから――」


「――!」


 酔狂したような男に対し、ウユが自分も同じ被害者であると主張する。その真偽は不確かだが、ウユの落ち着いた声音を聞いた男は真実だと確信した。同類であることで一気に親近感をウユへ抱く男は、親しみやすくなったはずだというのに、悲惨さを間近に感じたことのあるおかげで、会話を続けることが出来ずにいた。

 ウユは話を続ける素振りを見せかけたが、自分語りに区切りを付け、男へある提案を出す。


「復讐というなら、やればいいと思います。否定はできません――ですが、夜も遅いですし、今夜ぐらいはここで足踏みしててもいいんじゃないですか?」


 ウユは、千鳥足の男に今夜は家に泊まっていかないか、と声をかける。その案に名のない男は苦悩した――が、納得をせざるを得ないぐらいに体が疲弊しており、渋々ウユの提案を飲む。


「ちっ、そうかもな。俺の体が限界なのは分かってた――甘えるよ」


「良かったです」


 名のない男の太々しい態度を、ウユは微笑を浮かべ、快く受け入れたのだった。

最近、この作品を読んでくださる人が増えていてとても嬉しいです。誠に有難うございます。

もし、この作品を気に入っていただけましたら、大変恐縮ではございますが、ブックマーク登録や作品の評価等をしていただけると幸いです。

登録や評価は、この作品自体の人気や成長へ繋がりますので、是非ご協力の方をお願い致します。


また、読みに来てください!


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