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十二.集いのベランダ

 四階から二階まで階段を下りると、「あ、玲子」と、呼び声がする。梨奈だ。ベランダで一服をしていた。

 職員室もある二階のベランダは、喫煙指定所になっている。もちろん成人している生徒のためにだ、一応。喫煙者同士の溜まり場であり、梨奈は何やらここで色々と情報を得ているようだった。


「正剛も一緒じゃん。なぁに? 仲良く二人で下校?」

「別にー」


 いつもの冷やかしを玲子が軽く受け流したのに対し、


「あ、俺は上り線なんですよ。なんで、一緒に帰れるのは駅までです」


 少しくすぐったそうに素直に答えた正剛に、何だかこちらまでくすぐったい気分になる梨奈。


「あらぁ、そう」


 少し苦笑。──ストレートな子ね。と、梨奈が内心でつぶやき余計な詮索を始める。


「梨奈! 私、本格的に修行する事にしたからね!」


 ベランダの柵に近寄り、くるりと背中を向けてもたれるや否や、拳をガッツにドヤ顔で決めて宣言を誓う。


「何の修行だ?」

「ギャッ」


 と、肩を跳ねらして悲鳴を上げる──工藤だ。梨奈の隣の横に少し離れて、どこか見覚えのある背中の人がいるなと思っていれば……だった。その間に玲子が入っていった形であったのだが、急に横から話かけられたのと、まさかいるとは思わず驚いた訳である。


「……オレは幽霊か何かかよ。ちょっと今、何気に傷ついたぞ」

「……すみません」


 と、失礼を口では謝ったが、その何かを憑けてますよ。と言いたくなった。そして口元と手元を見る。煙草ではなく、紙パックジュースをちゅーちゅー吸って飲んでいた。その視線を工藤は感じ取り、


「何だ、オレは吸わないぞ。生徒の前では、な」

「生徒思いねぇー。って、あたしは生徒じゃないのぉ?」


 梨奈のうるさい不満を軽くスルーして、改めて工藤は質問し直す。


「んで?」

「なんでもないです」


 そっぽを向いてはぐらかす。

 梨奈には、いつもうまくいかないと嘆いている、神道の修業というやつだろうと推測した。

 そんな中、正剛は手持ち沙汰に突っ立っている。少し工藤を気にして緊張しつつ。それに気付かない工藤ではなく、話を振る。


「ばあちゃん、どうだ? テレビカードなら実家に何か無駄に溜まってた気がするわ、いるか?」

「あ、いえ。じきに退院できそうですし、先生ご自身のために取っておいて下さい」

「……おまえ、オレを病人にする気?」

「いえっ、そんな意味じゃ……」


 二人のやり取りをみて、「この二人って馬が合わなさそうよね」と梨奈が玲子にボソッと耳打ち。玲子はトトトと正剛に歩み寄り腕を掴み、


「正剛、帰ろ。じゃ、またね、梨奈」


 引っ張られながら正剛は「え、あ、失礼します」と律儀な挨拶を忘れずに、二人は階段を下りて行った。


「あらぁー」


 ニタニタと梨奈は二人の姿を見送った。


「お似合いかも。ね、そう思わない?」

「ふーん。彼氏いないのか」


 先週の車内での玲子に向かって吐いてやる。


「あれ? 気になる? 玲子って普通科なら、学年一の美人で絶対モテモテよねぇ。残念ながらここでは……まぁ、おじさまには人気ね。って、そーゆうクドちゃんは? 寂しくひとりぃ?」

「川瀬こそ。おまえって報われない恋するタイプだろ? 人の恋路に頭突っ込んでないで、自分のこと心配しておけよ」


 またもはぐらかされた上に、いらぬお節介だった。が、当たり外れでもなく、気づかれない様にそっと溜息をつく。そして、見た目だけはやたらオシャレなパッケージの箱に入ったメンソレータムの煙草を再び一本抜き取った。

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