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悲劇の演出

 ディアボロス家を監視していた聖アングルス王国の隠密部隊は、突然の事態に混乱していた。

 闇夜に紛れる黒い装束の謎の軍勢が、ディアボロスの屋敷の内部にいた者達を襲い、次々に命を摘み取っていく。

 剣を鎌のように振るい、黒い姿が死神に見えるそれらは、通る道に盛大に血の跡を残していった。


 何と惨いことをと思ったのは、隠密部隊を率いる部隊長のガルフ。

 

 だが、彼が行動を起こすことができなかったのは、与えられた職務が監視だけだからだ。

 ディアボロス家を見張り、情報を収集。それから自身たちの上位への報告。与えられた任務はそれだけで、何か起きても干渉は不可。傍観を決め込めという己が役割のせいで、目の前の惨劇に対しても行動を起こすことはできなかった。


「……くそ」


 本当は直ぐにでも行動をしたい。だけど彼は組織の人間。

 自分勝手に動くことはできない。

 屋敷内から悲鳴が聞こえてくる。

 あの屋敷は、今は死の蠢く地獄と化している。


 女子供とて容赦はなく、切り捨てていき、しばらくは悲鳴の暗い音色が夜気に奏でられる。

 その様子を、険しい顔をしながらもガルフは、眼前の惨状を報告書に記していく。


 だが、その惨劇は直ぐに収まった。

 黒装束の者達に全て殺されたのか、あるいはディアボロス家の当主のアラスが襲撃者を返り討ちにしたのか。

 どちらかは分からない。

 ただ、音は消えた。


 ガルフは何が起きたのかを確かめる為に、部隊の全員にハンドサインで合図を送り、ゆっくと屋敷に近付いていく。

 本当はこれも上の許可を得た方がいい行動ではあるが、確認だけだと己を強引に納得させ、窓から室内を覗き込む。


 屋敷の中は凄惨な地獄絵図が広がっていた。


「……これは」


 どこを見ても、死、死、死。

 あるのはただ死に塗れた光景だけだった。


(なんだ、奴らは一体何者なんだ)


 ガルフは気配を消して屋敷の中に侵入を試みる。と、


「隊長、それ以上は」

 

 部下に止められた。

 が、ガルフは「大丈夫だ」と答えて屋敷に入る。


 屋敷の中は相変わらず凄惨な光景が続いていた。

 どこに敵が潜んでいるかも分からないので彼は慎重に進む。

 が、どこにも敵はいない。

 その気配もない。


(……どういうことだ)


 血に濡れた廊下を歩み、彼は一つの部屋の前まで来た。


(ここは確か……、この家の当主の寝室か)

 

 事前に獲得していた情報でそのことが分かっていた。

 ガルフは、腰の剣を引き抜いて、構える。

 いつ敵が襲ってきてもいいように。

 

(ここまで何も無かったってことは……、あの者たちがいるのはこの先か……)


 そっと扉に近付き、その取手に手をかける。

 ぐっと力を込めて、ゆっくりと扉を開ける。

 きいっと音を軋ませて、開いた扉の先。

 そこには一つの悲劇があった。


「……っ!」


 首を切断されたディアボロス家の当主のアラスとミーナ。その二人の間近で、血みどろで倒れる一人のメイドと幼女。

 親が子供のことを身を張って守ったのだろうか。

 ガルフは警戒しながらも、そっと近寄る。

 アラスとミーナは既に死んでいる。が、メイドと子供の方はまだ無事だ。


 ガルフは二人の無事を確かめた後、視線を室内に巡らせる。と、壁に血で一つの絵が描かれていた。

 骸を運ぶ鳩の絵。

 骸鳩の模様。


(これは……、それにあの連中は一体どこに行ったんだ……)


 壁に描かれた血の絵を見た後、彼は部下に命じて屋敷内の調査を始める。

 が、この悲劇を作った黒装束の者達は、どこにもいない。

 闇に溶けるように消えていた。









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