奴隷開放…………そんな訳ない?
…………目を覚ますとそこは選手の控え室だった。
試合は終わっていて私は負けたことを教えてもらった。
私に結果を教えてくれた人は熱い眼差しというやつだろうか。
そんな眼で私を観ていて、しかも頼みもしないのに試合の内容を熱く語ってくれた。
聞いた限りでは、私はかなりバルデスを追い詰めていたらしい?
端から見るとそう見えてもおかしくないようだ。
何せほとんどの試合を、ほぼ一撃で終え、ケガ負うこともない圧倒的な存在、それが剣王バルデスなのだ。
その剣王がまだ成人前の少年に、傷を負い、血塗れにされ、必殺の一撃ですら防がれ、最後はキツい一撃をくらい気絶したがそれだけでも凄いことだと言われた。
要約すると「善戦したけど、気絶させられたね」と言われた。
それでも会場は大盛り上がりで興奮のるつぼである。
そして、あわや止めを刺されそうになった私を助けたのが会場の観客達であった!
観客の多くは私の健闘を讃えて審議役に試合の終了を迫った。
多くの観客が身を乗りだし壁を乗り越え審議役に詰め寄り試合が終わったのだ。
中には、直接バルデスに詰め寄った人もいたらしい。
なんて恐れ知らずな?
でも、そのおかげで試合が終わった。
その話を、私は朦朧とした意識の中ただ黙って聞いていた。
聞き終わった時は自然と眼から水が流れていた。
そのまま顔を伏せて、声を枯らして哭いていた。
ある程度落ち着くと私は闘技場を出て傭兵団の宿に向かった。
途中、入り口で待っていたレティと無事を確かめられて歩いた。
どういう訳か、私は傷一つない体でレティに驚かれた。
レティも試合を見て、私がピクリとも動かなかったので死んだと思ったらしい。
確かめついでに鳩尾に拳を食らいレティは言った。
「夢じゃない」
夢じゃない、じゃねぇよ!
すげぇ痛いよ。
しかし、痛がっている私を見ていたレティの目元に透き通る水が溜まっているのが見れた。
それを見て私は、少しだけ嬉しかった。
宿に向かうまで試合を観ていた観客を避ける為こそこそと隠れて向かった。
群衆に囲まれるのは避けたかった。
ろくな目に会わないとも限らない。
宿に戻った私を待っていたのは団員の皆と、ドッチだった。
団員の皆は負けはしたものの生きて戻った私を褒め称えてくれた。
日頃は役タイのないことを言って、冷やかしたり、笑わせてくれた面々が、私の無事を祝ってくれた。
正直、凄く嬉しかった。
生きていて良かった。
素直にそう思えた。
……あの言葉を聞くまでは。
「よっしゃー、オレの勝ちだ!とっと払え」
「生きるほうに勝てたけど、五体満足かよ?ちった~ケガしとけよ」
「生きてる、ちっ」
「今回は私達の勝ちね。さ~払いなさい。ケチケチしないのよ!」
………娼婦の皆さんまで。
呆れるくらいの平常運転に少し安心した。
この面々が、手放しに喜ぶはずがない。
これでなくてはな!
そう私が思っているとドッチがやって来た。
「よく生き残ったね。ダン」
「おかげさまで、生きてますよ」
少し皮肉を言ってみたい気がしたが、止めておいた。
こいつというか、ダグラは私を殺したかったはずだ。
念入りに策を施した。
上げて下げる。
そして、最強の処刑人を当てた。
それでも私は生きている。
どうよ、当てが外れた気分は。
「これからの事だが大会が終わるまでゆっくりするといい」
「へ、良いんですか?」
「君も疲れたろ。英気を養いたまえ」
「は、は~」
ちょっと意表を突かれた。
肩透かしを食らった、そんな感じだ。
まぁ、直ぐにどうこうできないなら休むことにしよう。
この剣王祭が始まってからろくに休んでいない。
休める時に休んでおこう。
…………そう、し、よう。
私の意識は、また途切れた。
━━━━━━━━バルデス視点━━━━━━━━━
今まさに止めを刺そうとした俺の目の前に、ヴィリスが立っている。
「何のつもりだ?」
「そこまでだよ、バカ犬」
怒気をはらんだ俺の言葉を何でもないように返す。
「バカ犬だと、てめえ━」
「私は、殺すなと言いましたよね。バカ犬」
頭の血管が千切れそうだ。
駄目だ、ああ、もう駄目だ。
殺す、今すぐこいつを殺す!
「死んだぞ、こら!!」
「あ、何だって?」
底冷えするような声、それを聞いた瞬間。
俺の背中に冷たい汗が流れる。
今まで有った怒りが直ぐに姿を無くしていく。
「こ、こいつのことだ。あんたじゃない」
俺らしくない弱きなセリフ。
だが、こいつを怒らせるなと、本能が訴えている。
「私は、言いましたよね? こ、ろ、す、な、と」
あえて強調する言い方。
やべえ、何だよこの感じ?
久しぶりに感じるこの感情。
これは、恐怖、か。
「わ、わかった。これで退く。それで良いだろう、な」
最大限の譲歩、のつもりだがどうだ?
「大変よろしい。では、今回はこれで終わりです」
フードで顔を隠しているので分からないが、喜んでいるようだ。
だが待て。
「今回は終わりってのは、どういうことだ?」
「そのままの意味です。行きますよ」
「お、おい、待て」
スタスタと試合会場から去っていくヴィリス。
それを慌て追いかけた。
付いて行かないと何をされるかわからん?
どうしようもない。
俺はまだ、ヴィリスに勝てない。
本能がそう言うのだ。
だが、今に見ていろ。
必ずてめえより強くなって、殺してやる。
必ずだ!
━━━━━━━ヴィリス視点━━━━━━━━━━
正直言えば、がっかりです。
防御ばかりで攻撃できないなんて。
もう少し見ていたかったのですがどうやら魔力が切れそうだったので、少し手を出してしまいました。
本当にしょうがないので早めにケリをつけてあげることにしたのです。
バルデスに強化の魔術を使ったのはナイショです。
それに本人も気づいていないでしょう。
攻撃が当たる瞬間にかけて当たった後に解除しましたから。
慣れない魔術でかなり魔力を消耗しました。
だから、ナイショです。
攻撃が観れなかったのは残念ですが、防御は観るべき所が有りました。
結界魔術であんな使い方をするなんて。
どうやら私は、固定観念を持っていたようです。
魔術の新しい挑戦。
収穫は有りました。
まだまだ鍛えがいが有りますね。
さて、どうしましょうか?
もう剣闘は駄目ですね。
次のステップに進みますか。
次は、もっと楽しんでもらわないと。
フフ、フフフ。
楽しみですよ、本当に。
頑張って生き残ってください。
…………アスハ君。
あっ、忘れてました。
あのバカ犬の調教をしなくては。
フフ、こちらも楽しみですね。
ええ、本当に。
━━━━━━━━━主人公視点━━━━━━━━━━
剣王祭が終わった。
あの後バルデスは棄権したそうだ。
おかげで俺の人気が爆発した。
何処に行くにも、人、人、人の山だ。
鬱陶しくて仕方ない。
でもこれで新しい剣王の誕生だ。
剣王祭も、きっといい方向に向かうだろう。
そして、私の奴隷人生の方向は何処に向かうのか?
次の興行に向かう前に私はドッチとダグラに呼ばれている。
おそらく、私の次の予定だろう。
ある程度予想はしている。
剣闘による試合ではおそらく私は殺せない。
剣王の試合のインパクトが強すぎるのだ。
何らかの試合で負けても私を殺せないだろう。
民衆がそれを許さないからだ。
なら、残る方法一つだ。
私はそこに行くことになるだろう。
それでも私は生き残る!
それが別れた両親との誓いだからじゃない。
この世界に対する私の挑戦だからだ!!
少年奴隷剣闘編
━完━
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