剣王に挑戦?
二度目の死刑宣告を受けた!
なんだよ、剣王と戦えって?
勝てる訳ないだろ!
あー、おかしいと思ったんだ。
予選の予選で相手した奴らは弱かったし。
その後の予選は苦戦らしい苦戦もなかった。
というか、はっきり言って弱かった!
どうぞ、勝ち上がってくださいと言わんばかりの弱さ。
ダグラは俺が昇り調子、希望に満ち溢れている時を見計らって落としに来た。
絶対だ!
なんて性格が悪いんだ!
いや、ダグラじゃなくてドッチかもしれない?
あの人あれで笑顔の下はどす黒い何かを持っているのかもしれない?
前世でもこんなことは無かった!
ここまでお膳立てされるとは。
どうしても私を殺したいらしい。
はぁ~、ため息しか出ない。
だが、絶望していてもしょうがない!
生き残ることを考えるんだ!
私は、剣王を調べる事にした。
幸い、試合まで日にちがある。
この時間を使って対策を練る。
そして、調べた結果更に絶望した。
今の剣王は、この大会で三回優勝している。
初回と、三回目、四回目、二回目は反則負け。
圧倒的な強さで勝っている。
しかも、対戦者を全て殺している!
勢い余って、殺した……… のではない!
殺すべくして殺している。
残虐非道、冷酷無比、外道の極みと忌み嫌われている。
剣王の称号に相応しくないと大勢が思っていてもその強さに黙らされている。
強さは、絶対だ!
直接的な強さは、この世界で弱者や、権力者、その他大勢を従えさせる。
金や、名誉、権力も思いのまま。
今の剣王はやりたい放題をしている訳ではないが、とにかく試合内容が酷すぎて人気がない。
腕に覚えのある戦士も対戦を避けている。
その為、剣王祭のレベルが会を増す事に下がっていた。
たまに剣王に挑戦する無謀な者も、ことごとく殺される為、昨年の剣王祭では剣王に挑戦する者が居なくなり、そのまま剣王が優勝となるほど酷いものになっていた。
まさに昨今の剣王祭は剣王による剣王の為の大会になっている。
例え強くても、品がない?
優雅さもない?
ただ、強ければ良いのか?
誰か止めてくれ?
この非道の王を?
誰が止められる?
哀れな挑戦者よ?
それでも、剣王祭は続けられる。
いつか、この非道な剣王を倒せる者が表れることを願って。
宿屋にいた吟遊詩人がそんな感じで歌っている。
かなりオブラートに包んでいるが酷いものだ。
そんなに嫌われているのか?
最悪の相手だ!
こんなろくでもないと戦わないといけないなんて、なんて理不尽!!
等と、嘆いても始まらない。
真面目に対策を練ろう!
剣王は、獣人。
狼族。
名は「バルデス」
狼族は、俊敏さが売り物。
更に、獰猛さも凄い。
相手の息の根を断つまで戦うのを止めないと言われている。
実際は違うらしいが、あの剣王のせいでそう言われている。
他の狼族がかわいそうだよ。
実際の狼族は温厚で穏やか、争いを好まない好感の持てる種族とのこと。
義理や、恩に非常に厚いことは有名だ。
以前読んだ本の題名に「狼族の恩返し」という本があるほど有名だ。
それなのに剣王は狼族の面汚しだ!と思う。
それはさておき、検証と比較だ。
背の高さは大体二メートルから二メートル三〇。
私は一メートル六〇ほど。
筋骨隆々、肩幅はかなりデカイらしい。
私はまだまだ成長途中、筋肉もそれほどない。
相手の得物は大剣、両手持ちの剣を片手で扱っている。
リーチは向こうが上。
剣術は聞いた限りだと、竜王剣か?
そうだとすると闘気を扱えるはず。
私は闘気が使えない。
背は大きい、リーチも長い、剣術はもちろん向こうが上、おまけに闘気が使える。
………勝ち目がない。
せめて魔術が使えたら?
それでもどうだろうか?
これは勝つのを諦めて、負けない。
いや、死なないように戦う。
これしかない!
━━━━━━バルデス視点━━━━━━━
「あれがそうなのか?」
本選前の予選、その一試合を俺達は見ている。
「間違いないですね!あの髪色、あの瞳、面影があります」
ヴィリスは嬉しそうだ。
フードで隠れているが声で分かる。
同時に興奮している。
何が嬉しいんだ。
あのジジイのひ孫だぞ!
「生意気そうな面だな」
「そうですか? かわいいと思いますよ」
かわいいだと、ふざけろ!
「はっ、かわいいだと。あの面を見てるとあのジジイを思い出す‼忌々しい面だよ」
本当に、忌々しい。
思い出すだけでムカムカする。
「たくさん可愛がってもらっていましたものね?」
ああ、そうだ。
だから、ムカつく。
「ふん!だが本当にあいつの息子か? 弱くないか?」
あのジジイのひ孫のくせに全然強さを感じない?
顔はそっくりだけどな。
「まだ、予選ですからね。本気は出さないでしょう?」
「まぁ~、相手も弱いしな」
そうだと、良いがな?
「あなたが相手だと大抵は弱いんじゃないですか?」
「そうだな」
分かってるじゃないか?
「そこは謙遜するところですよ?」
「事実だろ」
事実、今の俺に勝てる奴は少ない。
隣のこいつもその数少ない一人だが勝てないわけじゃない。
今に見ていろ!
「ふぅ、しょうがない人ですね。目的を忘れないように?」
「ああ、分かってる」
遊んでやるだけだ。
簡単だな。
「本当に分かってますか?」
「しつこいぞ」
こいつは俺をバカにしすぎる。
いつまでもあの頃の俺じゃない。
「なら、いいです」
見飽きたのか俺の答えに呆れたのか?
そのまま去って行きやがった。
「あいつの息子か。あんまり弱いと………」
弱いと、遊びがいがない。
壊れるなよ、ノーマンの息子。
まぁ、死んでもいいよな。
ジジイとあいつに会わせるのもいいだろ。
━━━━━━━━レティ視点━━━━━━━━
「しっ」
首筋を狙った一撃、手加減しない。
するなと言われたし、する気もないけど。
「くっ」
後ろに下がって避けた。
でも、悪手。
「まだ」
追撃しやすい。
彼の悪いクセ。
「この」
剣で受けた。
更に、悪手。
「甘い」
弾き返せないなら、終わり。
「なんの」
無理な態勢。
足さばきが悪い。
「お留守」
足を払って、転ぶよ。
「あっ」
剣を突き付け。
「おしまい」
「ふぅ~、やっぱりまだまだだな」
うん、まだまだだよ。
「もう一度、頼む」
受けてあげる。
「試したいことが、有るんだ」
試す!
楽しみ!!
「行く」
「来い」
ダンは基本、受けてばかり。
もっと、積極的なら良いのに?
素早く、懐に。
そして、突く。
「よし!」
半身で、引いた。
でもね。
すぐに、追撃。
横払い。
「あれ?」
なんか、違う?
剣で受けた?
ううん、違う。
何か別の?
「ダン?」
「よし、成功だ! どんどん来い!」
む?
調子乗ってる?
ダンのくせに?
「本気だす」
「いつも本気だろ?」
違う。
本気の本気!
怪我しても、大丈夫だよね?
直せるから。
「怪我しろ」
「ひどくね?」
ひどくない。
ダンが悪い。
それに、笑ってる?
ダンのくせに生意気。
「折れろ」
「女の子のセリフじゃない!」
本気で殺る。
本気の踏み込み。
三連突き。
避けれる?
キン!って、受けた?
ウソ?
「何で?」
「さて、何ででしょう?」
やっぱり生意気。
何度も、突く。
何度も、切りつける。
どれも、通らない?
何で? 何で? 何で?
「インチキ?」
「実力だよ」
嘘だ。
インチキだ!
でも、これなら?
大丈夫だよね?
まだ、一緒だからね?
一人は、嫌だよ。
「負けたら、ダメ」
「努力します」
大丈夫じゃないかも?
※※※※※※
剣王祭本選の会場は、今まで戦ってきた円形闘技場の中でも、最大級の大きさだった。
数万人を収容できるメザスの闘技場。
その闘技場内は収容人数を大きく上回る人数を抱え込み、歓声とも、怒号とも取れる声とともに人が溢れていた。
私はその満員の闘技場で、最悪最強の相手と試合を行う。
と言うか、こんな大勢の前で戦うのかよ?
多すぎね、多すぎるよ?
前世を含めてこれだけの人前に出ることなんて無かったよ。
私は剣王と戦う前に、まずこの大勢を前にした緊張と戦うことになった。
小市民の私には場違いな場所。
今まで聞いた怒号や罵声、歓声なんて比じゃない。
足が、ガクブル。
手先が、小刻みに震える。
体からは、嫌な汗が滴る。
喉はカラカラ。
思考は、さっきから空回り。
何で、俺は此処に居るの?
夢じゃね?
夢だよね、これ?
現実逃避の真っ最中。
闘技場に入る前から此処で戦うのかよ、と思っていたが、実際に闘技場内に入るとその規模に薄ら笑いを浮かべてしまう始末。
現実的じゃない非現実。
正に、異世界ファンタジー!
一通り現実逃避を行い、ようやく現在の状況を受け入れ始める。
今から、公開処刑が始まる。
執行人は剣王、それに抗う私。
さっきまでの緊張感から一転。
現実を受け入れた私は、沸々と怒りが込み上げてくる。
この理不尽で、クソッタレな世界。
ただで殺されて為るものか。
これを演出した奴らの言いなりで、終わるものか!
思いを新たにした私は静かにその時を待つ。
怒りを胸に秘め、それを爆発させる瞬間を待つ。
早く、早く、早く戦わせろ。
今までにない好戦的な自分がいる。
抑圧された感情を押さえきれない。
やれることはやって来た。
後は全てをぶつけて戦うだけ。
でも、まともにやっては返り討ちに会う。
落ち着け、落ち着け。
大丈夫、落ち着いてやれば大丈夫。
作戦通りやれば、何とかなる。
ならない時は、最大級の魔術をぶちかます!
生き残ることが目的だ。
勝敗は、二の次。
生き残る、絶対に!!
そして、大歓声の中、ついに出番がやって来る。
運営人が、私を呼びに来る。
覚悟を決めて、いざ、決戦。
入場口がやけに長く感じる。
地鳴りのような大歓声が徐々に近づく。
耳鳴りがする。
集中できない。
ここで開き直れたらどんなに楽だろうか?
でも、私はそんなに図太くはない。
怒りが引き、恐怖が顔をだす。
いっそこの場で魔術を使うか?
悪魔の囁きが耳を撫でる。
ばか正直に戦う必要はない。
逃げ出そう。
そうすれば?
……バカな考えだ。
逃げ出しても奴隷紋で居場所がばれる。
奴隷紋を無効化する方法は考えたが、結局試さなかった。
試して成功しても、その後が。
私はいつもこうだ。
流れに任せて自分で道を歩けない。
後悔してももう遅い。
目の前に戦う道がある。
ならせめて前を向こう。
逃げ出さずに立ち向かおう。
そして、入り口をくぐり中央に向かう。
頭が真っ白になる。
目の前に自分よりも大きい人がいる。
ニヤニヤと笑みを浮かべて私を見ている。
なんだその顔は。
そんなに戦うのが楽しいのか?
ふざけやがって俺は道化か?
それとも哀れな生け贄か?
見ていろ、目にもの見せてやる。
そう易々と殺られて為るものか。
感情が高ぶる。
今度こそ、はっきりと意識した。
私の中の黒い感情が目の前の男を殺せと叫ぶ。
抗え、もがけ、意地汚くとも勝てばいいのだ。
私は今、自分の殺意を意識した。
相手が何か話しているが何も聞こえない。
周りの大歓声も聞こえない。
ただ一点に意識が集中する。
この理不尽に抗う、ただそれだけだ!
お読みいただきありがとうございます。
応援よろしくお願いいたします。




