善意は悪意?
「よう、久し振りだな」
「お久し振りです。ローさん」
「お前さんには、悪いが、勝たせてもらう。こっちは生活が係ってるからな」
「こっちは、生き死にが掛かってますよ?」
「そうだったな」
戦う前のやり取り、笑顔で受け答えをするローレックさんには、余裕が見て取れる。
「パパ~、がんばって~」
「がんばって~」
客席から、ローレックさんを応援する声。
見れば、奥さんと娘さん達がいた。
ローレックさんは、手を上げてそれに答える。
「娘達も見てる。かっこいいところ見せないとな?」
「なんで、俺なんですか?」
「あん?」
「なんで、俺なんですか? 他にも相手が居るじゃないですか? どおして?」
「う~ん、連れの女の子でもよかったが、娘達に恨まれそうだからな。それに……、まぁ、細かいことは気にするな? 殺しゃしないから」
「…………そうですか」
納得はしないが、レティより私を選んだということなのか?
「それより、始まるぞ?」
短くもないやり取りは、審議役の声で終わる。
「………以上だ。それでは、始め!」
「いくぞ。少しは抵抗してみな?」
ローレックさん、いや、もうさん付けは要らないか。
ローレックが私に向けて構えを取る。
彼の身長は、170程に見える。
そんなに高くない、しかし、槍の長さは二メートルを越えている。
槍の穂先が、私に向けられている。
今にも、突き出されそうに見える。
一方、私は身長160程、リーチが違い過ぎる。
装備は、薄手の皮鎧に厚手の皮手袋、皮のすね当て、盾は持っていない。
右手に刃の欠けたブロードソード。
私の戦闘スタイルは、相手の攻撃を受けずに避けるが信条だ。
奴隷の装備は、支給品が殆ど。
武器や防具を買い揃えることは出来ない。
故に、武器にも、防具にも期待してはいけない。
自分を守るのは、自分の技量次第だ!
私がローレックに勝つ為には、槍の間合いの懐に飛び込み、接近戦を仕掛けるしかない。
それは当然、相手も分かっているので、懐に入れない戦い方をするだろう?
よしんば、懐に入れても対処出来る技量を持っているはずだ!
考えれば、考える程、私の勝ち目が見えて来ない。
救いがあるとすれば、決着は早期にならないことだろうか?
何故なら、早期決着ならば、貰える賭け金が少ないのだ。
今回の賭けは、どちらも早期決着に賭けている人が多い。
相場は、ローレックが1、私が3。
これに、時間経過が加わる。
時間がかかれば、かかるほど、賭け金が多くなる。
当然、借金の返済をしなくてはならないローレックは、時間をかけて私を倒しに来るだろう?
だから、序盤は手を抜いた攻撃を仕掛けてくるはずだ。
そこに私の勝機があるはずだ!
序盤の攻撃で、槍の戦い方に慣れる。
そして、中盤以降に私が攻勢をかける。
重い鎧に身を固めた相手との戦いは、この一年で慣れている。
なんとかなるはずだ、たぶん?
「来ないのか? なら 」
ローレックは、私が攻勢してこないと分かると、自分から仕掛けてきた。
こっちの思惑通りだ!
だが、その攻撃は私の予想を上回った!
「そら、そら、そら」
「くっ、速い」
鼻唄を歌うような感じで、突きを繰り出すローレック。
それを、必死の思いで避ける私。
全然、想定通りじゃない!
「どうした、どうした?こんなもんじゃないだろう?」
更に突きの速度を速めるローレック。
そして、私はそれを避けるが、避け損なって傷を負っていた。
腕、足から血が流れる。
幸い、傷は深くなく、薄皮を斬られてただけ。
これでも、手加減されているのだろう?
ローレックは、息も切らしていない。
「てんで見込み違いだな? 聞いていた話と違うじゃないか?」
「聞いた話? 何のことです?」
ローレックは、一旦攻撃止めて、ため息を吐いた。
「お前さん、あのオルタスに勝ったんだろ?」
「オルタス?」
「オルタスに勝ったお前が、この程度の訳ないよな? それともまぐれなのか?」
「まぐれじゃないですか、たぶん?」
「まぐれの訳ない!俺はオルタスを知っている。奴がまぐれで、負ける訳ない!」
驚きだ………、ローレックはオルタスを知っていたのか?
しかも、戦ったことがある感じだ?
「だから、俺は、お前に興味を持った。オルタスに勝ったお前が、どんな奴か知りたかった?」
「じゃあ、今までやり取りは?」
「お前を知るためさ? 戦う前にどんな人となりか知っておきたかったんだ。でも、期待外れだ」
「戦う前? 始めから、俺と戦うつもりだったんですか? でも、さっきは?」
「知りたきゃ、俺に勝ってみな? オルタスに勝ったように、な?」
ローレックが再び、攻勢をかける。
今までやり取りは、善意じゃない?
そして、この戦いも始めから仕組まれていた?
なんで、どうして?
私の頭の中は、疑問だらけで一杯だった……。




