全部こいつが悪い?
レティが怒っている?
レティの肩が、ワナワナと震えいる。
近くにいる私には、はっきりと分かる。
彼女の怒気が、伝わってくる。
「ドグラ!てめえー、騙しやがったな!」
「濡れ衣だ!わしは知らん!」
ドグラと、賊のボスらしい人が、大声で喚いている?
二人は、知り合いか?
ドグラの前には、ドッチさんと護衛が二人。
賊は、ボスらしい人と他に六人程。
私とレティは、賊の後ろにいる。
まだ賊は、私達に気づいていないらしい?
ドグラと、賊のボスの話し合い?が続いている。
すると、どうやらドッチさんが、私達に気づいたらしい?
ドグラに耳打ちしているのが、見える。
「形勢逆転だな。私の勝ちだ!ラグラド」
「何だと、てめえー 」
ドグラが、ドッチさんを押し退けて前に出る。
勝ち誇らんばかりのドヤ顔で、胸と腹を反らす。
その姿は、滑稽だ。
「後ろを見ろ!挟み撃ちだ。今、降伏すれば「貴様ー、私の弟を返せー!」
ドグラが、話をしている最中に、レティがラグラド?に怒鳴った!
こんな大声出せたんだ?
私は、いきなりの事で口をポカーンと開けてしまった。
それは周りの人達も同様で、私達の方を向いて、ポカーンとしている。
「貴様、私が話して「お前!答えろ!弟を何処にやった?」
ドグラの言葉を遮り、再度、レティがラグラド?に問いかける?
ドグラの顔が、ドヤ顔から一転、真っ赤になっていく。
「何だ~、この小娘は?わしは知らんぞ?
こんな小娘?」
ラグラドはこっちを見て、頭を掻きながら答える。
先程までドグラに怒鳴っていたが、今は毒気が抜かれたのか、困り顔になっている。
「十日前に貴様達は、傭兵団を襲ったはずだ!
忘れていまい!」
「十日前? はて? 襲ったか?」
ラグラドは、近くの部下に聞いている。
「ロドーの事じゃないですか?たぶん?」
「ロドーねぇ~……」
ラグラドが、腕を組み、頭をひねっている?
しかし、レティが、こんなに流暢に話せるとは?
普段から、こんな風に話してくれたらどんなに楽か?
それにしても、何? この雰囲気?
周りは、火が上がって、煙が立ち込め。
更には、あちこちから悲鳴が上がっているのに、ここだけ空気が弛緩している?
そんな弛んだ空気を引き裂いたのは、ドグラの怒声だった。
「レティ!貴様! 私が「うるさい!今は、こっちが重要なの 」
「き、き、き、さ、ま~」
「お、落ち着いて、ダグラ様 」
ダグラが、こっちに向かって来るのを、ドッチさんが抑えている。
頭に血が上りすぎて、この状況を忘れてるんじゃあるまいか?
こっちは、襲われた側、向こうは、襲う側。
あんたが死んだら、どうすんねん!
いや、別に死んでもいいのか?
等と、考えていると。
「おー、思い出した!あのたいした稼ぎに成らなかった奴か?」
「弟を、奴隷達を何処にやった!」
「知らん。覚えておらん。いちいちそんな事、覚えておれるか?」
ラグラドが、レティに最悪の返事を聞かせる。
見ればレティから、ユラユラと怒りのオーラが、発せられたように見えた。
「死ね 」
小さくレティが呟いたのが、聞こえた。
たぶん私にしか、聞こえないほどの小さく、また、感情の籠らない声だったと思う。
レティは呟き様、ラグラドに向かって行った。
「レティ!やめ…」
レティ、止めろと言ってやりたかったが、無理だった。
頭に血が上った人に、何を言っても無駄だ!
私もレティの後を追う。
「なんだ、殺る気か? お前ら殺すな!女は高く売れる」
「隣のガキは、どうしやす?」
「死なない程度に痛めつけろ!」
「「「殺るぞー!」」」
殺すなって言ったじゃん?
いや、こっちも殺る気満々だけどさ?
特に隣の女の子が!
私達の前に三人が、立ち塞がる!
「レティ!一緒に「いらない。邪魔なだけ」
うわっ、邪魔って言われた!
確かに、レティに比べたら私は弱いけど、でもコイツらあんまり強くないよね?
さっきの奴らや、最初に襲ってきた奴らも、たいしたことなかった。
それにコイツらより、ラグラドは圧倒的に強そうな気がする。
三人の後ろで、悠然と構えるラグラド。
その姿が、
デカイ!
前に出ている三人が、小さく見える?
この世界では、闘気が使えなければ、デカイ奴が強い!
体がデカイ=力が強いだ!
レティは、そんなことは考えていないだろうけど?
そして、結果として私はレティの邪魔をしなかった。
出来なかったと言うべきか?
レティは真っ直ぐ、ラグラドに向かっていたので、三人に囲まれる形になった。
三人が、レティを囲んで一斉に襲いかかる!
「死ねやー!」
「もらったー!」
「当たったらいてぇぞ?」
三人が物騒なことを言いながら、武器を降り下ろす。
だから、殺すなって言ったじゃん!
レティはその攻撃をバックステップで交わす!
そして、三人が次の行動に移す前に、レティが前に出る。
レティは、右手に片手剣のブロードソードを、左手にショートソードを持っていた。
それらの剣を一閃する。
「かっ」
「フュッ」
「あっ、あ、あ 」
三人の喉笛が斬られていた!
三人は喉元を押さえるが、傷が深いのか、多くの血が吹き出していた。
そして、三人がその場で倒れる。
そしてレティは、ラグラドの前に立った。
コッエー、マジにヤバイ?
レティを怒らせないと、思った瞬間だった!
一瞬の出来事だったが、何とか目で追えた。
大人三人を、一振りで倒す!
目の前で見たが、凄いと思うよりも、恐ろしさが勝る。
恐い、恐い、恐い!
ラグラドに近寄って行くレティ。
ラグラドは、大きな斧を持っている。
見た感じで、射程は二メートルから、三メートル程だろうか?
一方で、レティの射程は一メートル半だろうか?
最悪、半分程の射程だ。
つまり、相手の有効射程内での戦いになる。
レティは、どうやって戦うのだろうか?
私は注意深く、この戦いを見守ることにした。
と言うか、手が出せない!
一種異様な雰囲気を、辺りから感じる。
う、動けない?
私が固まっていると、レティが無造作に近寄って行く。
「あー、たく。殺しやがって?どおしてくれようか、ねぇ~!」
言葉の最後の部分で、ラグラドが片手で斧を横凪ぎにする。
レティは、屈んでそれを交わす!
そして、次の瞬間にはラグラドが手を返す。
しかし、斧は、手が、無くなっていた?
ラグラドも気づいていなかったのか、顔がキョトンとしている?
「は、何だ。手が、ねえ? 手が、手が、ねえぞー!」
右手の手首から先が、無い!
たぶん、さっき屈んで交わした時に、切り落としたのだろう?
全然、気づかなかった。
避けたことに目がいって、どうやって斬ったのか、見落とした!
しかし、ラグラドは右手首が無くなっても、攻撃を止めない。
今度は、左手に拳を作り、レティの真上から降り下ろす!
「この小娘がー!」
レティはその拳を右に避ける。
ラグラドの拳が地面にめり込む、ことは無かった。
今度ははっきり見えた!
レティが手首を斬り落としたのが!
右側に避ける前に、左手首を斬っていた!
右側に避けたように見えたのは、斬った時の反動のようなものだろうか?
「ぐ、ぐわ~、手が、手が~。ちくしょう、ちくしょう~」
ラグラドは、両手を見て絶叫している。
今度は、蹴りでも繰り出すのかと思ったが、突然ラグラドが両膝を着く?
レティがラグラドの正面に回っていた。
「ぐあ~、ぐぞ、ぐぞ~」
ラグラドの絶叫が続く。
レティは、ラグラドが動く前に、太ももの部分を斬ったようだ?
あの丸太のようにデカイ、太ももを斬っていた。
太ももからは、血が大量に出ている。
そして、両手からも血が、止めどなく出ている。
あれでまだ意識が有るのか?
正直、私なら既に、意識が無いだろう。
「最後の質問、弟を何処に売ったの?」
レティがラグラドに問いかける?
そして、ラグラドは?
「知るか!知っていても、教えん!」
ラグラドは、血の気が引いた顔に、笑みを浮かべながら、そう答えた。
「 そう 」
レティがラグラドに背を向けた瞬間。
ラグラドの喉元から血が吹き出していた。
ラグラドは何も言わずに、地面に倒れこんだ。
*********
この後、賊の掃討が行われた。
ラグラドが亡くなったことで、賊の戦意は喪失。
無駄に抵抗して、死ぬよりも投降する者が多かった。
それでも、何人かは抵抗して死んだ……。
私はこの時、掃討戦には加わらず、怪我人の治療をしていた。
レティは、私の近くに居て、怪我人に包帯を巻いていた、無言で………。
私はレティに、聞きたいことができたが、今は聞かずにおこうと思った。
それくらいは空気が読める。
この賊の襲撃で、死者は六名。
負傷者は、数十名。
賊は、三十名が投降した。
賊の総数は知らないが、逃げ出した者も含めると、五、六十名ぐらいだろうか?
死者の数が、思ったよりも少なかった。
逃げるよりも、抵抗しなかったことで、殺されることが無かったようだ?
その代わりに、怪我人が多かった。
殆どは、乱暴されていた。
ダグラは、ラグラドの死体に蹴りを入れながら。
「どうだ!このバカものめ!こうしてやる、こうしてやる、こうしてやる」
その様は、見ていられない。
死体に鞭打つ、という言葉が在るが。
実際に、その光景を見ると、見ているこっちが居たたまれない。
更には……、
「被害より、儲けが出るな?これは!
フフフ、フハハハ、ハハハハ~。
笑いが止まらんとは、この事よ!」
ろくな死にかたをしないな、この男は?
辺りの光景を見ながら、この笑い声を聞くと、怒りよりも、呆れる………。
正直、疲れた。
肉体的に、精神的に。
私が、疲れて、地面に座っていると、レティが近寄って来る。
「隣、いい?」
「へ?ああ、良いよ?」
無言で、レティが私の横に座る。
そして、私にもたれ掛かる。
私は、私達は無言で朝日を眺めていた。




