旅程の中で?
土下座事件から翌日、ダーシュ傭兵団は別の街に向けて出発した。
本来なら興行を終えると、直ぐにも別の街に向かうのだが、今回は売上から報酬を貰うまで時間がかかり、更に報酬が予想以上に多かったことで、新たに人員整理を行うことで、一月以上も滞在していた。
私達が、昼食を摂りに戻ると、団は移動の準備を慌ただしく行っていた。
私は、ドッチさんから移動の連絡をもらい、直ぐにも移動の準備をした。
でも持っていくもの等ほとんど無く、準備じたい必要無かったが、急な移動の為に団の準備に駆り出されることとなった。
団員達も急な移動で、大慌てで準備することになり、不平、不満を言う者も少なく無かった。
その日一杯で準備を終えて、次の日の朝方には出発することになった。
傭兵団の人数は、約百人。
その内の十名程が、先行して次の街に入る為に色々と準備する。
残りの団員は、次の街に入るまでゆっくりと進む。
途中の村に寄って、旅に必要な物資を買い付けたり、簡単な商売(売春)を行ったりする。
私のような奴隷は、雑用を命じられたり、空いた時間に鍛練を行う。
しかし、この傭兵団の護衛や、専属剣闘士は自己鍛練をあまりすることが無いようだ?
街までの移動で、思うような鍛練を行うことが出来ないが、それでも体を鍛える事は必要だ!
でも、旅の間、傭兵団の皆が鍛練を行っている姿を目にすることは、あまり無かった。
それどころか、私達の鍛練を茶化す始末。
「お、仲が良いね♪御両人♪」
「精が出るねえ~、頑張れよ~♪」
「たまには、サボったって良いんだぞ?」
こんな感じだ?
真面目に鍛練している自分が、たまにバカらしく思えてしまう?
しかし、手を抜く事は出来ない!
初めての試合で、私は人を殺している。
試合の勝敗が逆だったら、死んでいたのは私だったはずだ。
その事を思うと、今度は焦りが出てくる。
自分が強くなる為に、もっと鍛練の時間が欲しい!
でも、無いものねだりは出来ない。
地道に、コツコツとやるしかない。
旅の移動には、当然、野営もある。
そして、食事も質素な物になる。
豆と少しの野菜が入ったスープに、これでもかと、固く焼いたパン、飲み水はない。
私は魔術を使って水を出し、固いパンはスープに浸して食べる。
質素な食事は前世でも経験しているが、この固いパンは食べたことがない。
まるで石を食べるような感じだ。
小さい頃に、興味本位で石をかじったことがあるが、その固さまんまなのである。
そして、その固さゆえに、千切れない!
この固いパンを食べ始めの頃には、パンが千切れなくて悪戦苦闘することになった。
この食事を体験したことで、改めて自分の境遇を知ることが出来た。
しかし、他の団員から聞いた話では、これより酷い食事があるらしい?
そんな食事は体験したくないものだと、思った。
食事は、まぁいい。
問題は、トイレだ!
野営の経験は、狩り等で経験済み。
しかしそれは、少人数でのこと。
今の私がいる野営の人数は、百人近く。
この人数のトイレは、ほぼ垂れ流し。
川が近くある場合は、川辺で済まし。
そうでない場合は、穴を掘ってその中に。
しかし、面倒くさいのか、大半は垂れ流しなのだ。
女性が多いこの団で、これなのだ。
私は、トイレは穴を掘ってそこで用を足す。
手を洗うのに、魔術を使う。
魔術を使える私は、まだいい方だ!
大半の人は、手も洗わない。
これが異世界のトイレ事情なのか、と愕然とする。
そりゃ~、疫病も蔓延しますわ?
せめて、自分の周りが疫病にかからないように、トイレを作る(穴を掘るだけ)。
そして、手を洗う水を出して置く。
これだけでも、疫病に掛かりにくくなるはずだ…………たぶん?
そして、更に問題なのが、夜だ。
夜、寝るときは交代で寝る。
街道の近くに野営していても、モンスターは表れる。
それに、盗賊や、時には傭兵が襲って来ることもある!
その為、交代で見張りを行う。
戦える者が少ないので、当然、私も見張りに立つのだが………。
ここで問題が!
私とレティは、ほぼ一緒に行動している。
一緒にいない時は、トイレと水浴びぐらい。
そう、寝るのも、起きるのも、一緒!
私が寝る時、レティも一緒に寝る、それだけなら別に問題ない。
問題なのは、レティが私にくっついて寝るのだ!
対面で寝るのではなく、私の背中に手を回して抱きつく形で寝るのだ。
そして、私の背中にレティの……………。
救いがあるのは、レティが服を着て寝ていることぐらい。
これなら、服を脱いで別々に寝る方が、まだ、ましだ!
そして、寝言がまた、良い! じゃない、酷い!
「う、そこ、違う。 そう、そこ」
「駄目、もっと。 そう、もっと強く」
正直、寝不足で辛い。
しかし、レティと一緒に寝ることで、悪夢を見ることが無くなった。
そして、気分が沈んで、憂鬱になることもない。
レティの存在は、私の中で救いに繋がっているのかもしれない?
別の意味で、災いになっているようにも感じる?




