殺し合い?
「ハァー、ハッ」
テッドは真っ直ぐ私に向かって突進してきた。
不味い、全然構えてない。
テッドが向かってくる。
は、速く反応しないと。
テッドが私の目の前に立ち剣を振り上げる。
は、はやく……ない?
テッドが私の目の前に来るまで、どのくらいの時間がかかっただろうか?
一瞬か? いや、違う。
おそらくは数秒はかかったはずだ。
なぜ、そう感じたか?
答えは簡単、もっと速い相手と戦っていたからだ。
ノーマンとリリならば十メートル程離れても、一瞬で間合いを摘めてしまう。
エルクでさえ、二、三歩で間合いを摘める。
だが、テッドは少なくとも、五、六歩は係っていた。
これなら充分に対応出来る!
テッドの最上段からの降り下ろしを、私は体を半身にして交わす。
更にテッドが降り下ろした剣を派ね上げて、私を切りつけてくる。
だがこれも予想の内。
私はサイドステップを踏む感じで間を取る。
その間を剣が素通りする。
テッドは袈裟斬りで私に斬りかかる。
しかし、私には当たらない。
少し体をずらし間を取る。
これだけで剣は私の体に触れることが出来ない。
続けてテッドの猛攻が私を襲うが、全く当たる気配が無い。
外野からはヤジが飛び交う。
「どうした、当たらないぞ」
「ガキのお遊戯じゃねぇんだぞ!真面目に殺れ」
「そこのガキもかわしてばっかじゃあ~な~、試合になんねぇぞ~」
中には酔っぱらいが居るのか、卑猥な言葉も聞こえてくる。
外野は気楽で良いよな?
こっちは命が係っていると云うのに。
しかし、外野の声を聞き分けることが出来る程、私は冷静だとも言える。
相手は鬼のような形相でこちらに向かって着ている。
死刑囚だったか?
おそらくこの試合に勝てば恩赦で釈放されるのか?
もしくは刑期が課せられて数年か?
はたまた十数年の刑期に減刑されるというところか?
まさしく鬼気迫るとはこういう感じなのだろう?
だが、だからと云って負けてやる道理はない!
こっちだって生き残りたいのは同じなんだから!
数十秒か、数分か、経っただろうか?
テッドも剣を振り回して疲れたのだろう?
肩で息をし始めた。
「クソっ、こんなはずじゃ。ハァ、ハァ、ハァ」
テッドは息を切らせながら悪態を浸く。
しかし、この死刑囚テッドは戦闘に関しては素人だな。間違いない!
まず、剣の持ち方がなっていない。
片手剣を両手で持つなんて普通はしないよ。
たしかに、場合によっては両手で持つのは有りだが。
片方の手を空けておくのは剣を使う者には常識だ。
何故なら空けておくことでバランスを取ったり、相手を殴りつけたり、もしくは掴んだりとか出来るからだ。
それに足下がふらついている。
剣を降った後その剣の重さに振り回されている。
剣を扱った事も無ければそれを振り回す筋力もない。
それらを考えるにテッドは剣術を知らない。
更に体力も無い。
剣を振り回して数分もしない内に息が上がるなんて、考えられない?
体力は、基本中の基本だ!
技術を補うのは、体力!
ノーマンが教えてくれたこの世界の常識だ!
多分?
こうして冷静に考えると私が負ける要素は皆無だ。
私はテッドの攻撃を交わし続けたが、息も上がってない。
おそらく私が攻勢に転じれば、相手は避けることも出来ないだろう?
そうなると、弱い者いじめをしているように感じるだろう?
なんか、拍子抜けしてしまう。
こんなに簡単で良いのか?
私は自分が思うよりも強かったということか?
そして、やはり私の周りの人間が異常に強かったということか?
いやいやいや、待て待て待て。
この思考は不味い!
まだ、勝ってもいないのにこの考えは不味い!
絶対に油断に繋がる!
私が思考していると息を整えたテッドが再度、攻撃を仕掛けてくる。
「いい加減、喰らえ」
また、上段からの降り下ろし。
私は同じ攻撃かと思い、私も先ほどと同じように半身で避けた。
それがいけなかった!
テッドは降り下ろした後にバランスを崩した。
私はそう判断した。
「ウオオオォォー」
その瞬間、テッドは私に体当たりしてきた!
バランスを崩して、直ぐには攻撃して来ないと判断した私はこの体当たりに反応出来なかった。
まともには体当たりを食らわなかったが、思わず倒れこんでしまった!
や、ヤバイ、不味い、不味い、不味い!
「悪いな、坊主」
倒れた私にテッドの剣が降り下ろされようとしていた!
だが、その降り下ろしは私の体験した降り下ろしよりも遅かった。
ノーマンやリリの降り下ろしはもっと速かった。
それにノーマンなら降り下ろしなんて選択しない。
首筋に剣を当てるだけで事足りるからだ。
確かに今は殺し合いの最中ではあるが?
勝つだけなら剣を降り下ろすよりも、剣を当てるだけでいいはず?
頭で疑問に思いながらも体はきっちり反応してくれた!
私はテッドの体当たりを交わそうとして交わせず、尻餅をついている状態だった。
だが、剣が目前に迫ってはいたが余裕で交わせた!
剣を交わすために前転してその反動で起き上がる。
体制を整えて剣を構えて相手に正対する。
「クソっ、大人しくしていろ!痛くしないで殺してやるから、な?」
テッドがふざけた事を言っている。
『痛くしないで殺してやるから?』
剣で刺されたら、痛いに決まっている!
それに何で殺されなけばいけないんだ?
剣闘士の試合は相手が降参するか、動けなくするか、審議役がもう戦えないと判断して試合を止めるかだ。
そして、最悪の結果として死亡がある。
それらを踏まえるとテッドの勝利条件は、私の死亡ということになる?
本当にそうか?
確かめたいが、そうも出来ない?
させてもらえないだろう。
テッドが再び私に攻撃して来たからだ。
「いい加減、終わりにしよう」
その意見にはこっちも賛成だ。
「そうだな、終わりにしよう」
私は雑念を振り払い、勝つことに専念することにした。
テッドの剣撃を受け止める事なく振り払う。
「なっ、なに?」
これは剣術の初歩で自分の剣を傷めないようにするためだ。
剣術の初歩ではあるが成功させるのは難しい。
実際、教えて貰った時にこれは上級者向けだと感じ、ノーマンにも文句を言ったものだが帰ってきた答えはこれだ。
『後から習うより、最初に習って練習し続けることで、身に成る! と、じいさんは言っていた』
じいちゃんの受け売りかよと思ったが、今は習って良かったと思う。
上級の技ではあるがこれが使えるのと使えないのとを考えると、使えるほうが良い!
私が持っている剣は所々が欠けている。
まともに剣で打ち合うと最悪、剣が折れてしまうかもしれない。
そうなれば?
最悪の結果が、頭を過る。
剣を跳ね上げられたテッドは、一瞬信じられないという顔をしていた。
そこで私はテッドに前蹴りを食らわせる!
「グハッ」
まともに蹴りを食らったテッドは、体をくの字に曲がらせる。
更に私は踏み込んで顔を殴りつける。
「グホッ」
たたらを踏むテッドに止めの蹴りを食らわせる!
「グアッ」
尻餅をつき起き上がれないテッドに、私は剣を突き付ける。
これで、チェックだ!




