ベスの独り言?
番外編です。
本編ではありません。でも、本編の補完話です。
私はベス。
本名 ベスティア -アークラインと申します。
私は今、娘達と一緒に馬車に乗っています。
先程までは、リリとナナが泣き止まず、宥めるのに苦労しました。
今は二人とも、泣き疲れたのか? 静かに寝ています。
二人の寝顔を見ながら、私は考えていました。
どうして、こんなことになったのでしょうか?
私は北の小国の産まれ、生家は伯爵家です。
伯爵家と言っても、人口十万人もいない小さな国の伯爵家。
ここ、アルマルス王国の伯爵家とは比べられません。
私の国は、小さく、弱い国です。
私はその弱い国のアークライン伯爵家の三女として生を受けました。
伯爵家の三女とは言え、私はさほど重要視されることはありませんでした。
産まれて十歳までは、貴族の作法を叩き込まれ、その後成人までは、侍女としての教育を受けました。
成人後は、とある王国の王子のもとに、侍女として仕える予定でした。
転機を向かえたのは、私が十二の時。
アークライン家に、冒険者が逗留した時でした。
初めて会う本物の冒険者。
私は、この冒険者との出合いが私の人生を変えたと思っています。
冒険者が領内に滞在中は、彼らから冒険談を沢山聞きました。
彼らの成功談、失敗談はとても面白く、私は興奮して聞いていました。
彼ら冒険者が去った後、私にはある決意が芽生えていました。
冒険者になってみたい!
所詮、私は三女です。
王家の侍女になるのも、政治的なこと、そこには私の意思はありません。
私は、冒険者のように、自由になりたかったのです。
今思えば、若かったのですね。
多くの人に、迷惑をかけることは分かっていたのに、その時は止まりませんでした。
私は、成人する前に、家を出ました!
供は、エルサルク- レンネット。
そう、私の夫になるエルクです。
エルクは、レンネット男爵の四男でした。
似たような境遇の私達は、年も同じでよく一緒にいました。
私が冒険者になると話すと、あの人はだったら自分も、と言ってくれました。
あの人は、この頃から私に惚れていたのでしょうか?
自惚れですね?
二人で、家を出ましたが、二人だけでは家を出ることは出来ません。
私達には協力者がいました。
私の叔父です。
叔父は、私の良き理解者でした。
叔父自身も家のことで、色々あったようで私が家を出たいと、相談した時は喜んで助けてくれました。
叔父には、生涯頭が上がりません。
そんな叔父を、私はまた、頼ることにしました。
実家には帰れませんし、申し訳ない気持ちも有りますが、他に頼れる人が、私にはいませんから。
話が少し反れましたね?
家を出て、二年程かけて、アルマルス王国の首都、ドラゴンズガーデンに着きました。
二年の間、アルマルスの国境の街で冒険者登録をして、初級のGランクからEランクになるまでいました。
なぜ、すぐに王都に向かわなかったかというと王都では、初級の冒険者は仕事が殆どないからです。
これは国境の冒険者ギルドで聞いた話でしたが、実際は仕事が有っても初級冒険者では王都での生活費が稼げないからだということでした。
どうせ、冒険者になるなら一度は王都で仕事をしてみたい、そう思っていましたが思わぬ時間がかかりました。
結果としては、遠回りをして良かったと思いました。
私達二人は、いわゆる世間知らずだったからです。
ですが、私達には人より優れた物を持っていました。
こう見えても私は、魔術の使い手です。
初級はもちろん、中級も使えます。
上級は使えませんが、冒険者の仕事で使う魔術は大抵が初級と中級です。
上級はめったに使いません。
というよりは、上級魔術を使える人間は殆どいませんでした。
私が知っている上級魔術を使える人間は、ノーマンとご主人様ぐらいです。
この二人は異常です?
おそらく、ナナも使えるようになるでしょう?
私はたまに、リリとナナが本当に私の娘なのか、不思議に思うことがあります。
リリは剣の才能を、ナナは魔術の才能を持っています。
どちらも私とエルクよりも才能があるのです。
本当にどうしてなのか?不思議です。
エルクは、剣が使えました。
幼い頃から。剣ばかり教えられたそうです。
達人とはいきませんが、それなりに使えます。
そんなエルクをリリは、わずか七歳で抜いてしまったのです!
ナナは、五歳足らずで私を上回る魔術を使えるのです。
本当は誇りに思うべきなのでしょうが、複雑な気持ちになるのです。
『強すぎる力は災いを呼ぶ』
昔から言われる言葉です。
現に私は、そういう人達を知っています。
私の娘達も、もしからしたら?
そう思うと怖いのです………。
あらいけない。また、話が反れましたね?
どこまで話したかしら?
ああそうです。思い出しました。
冒険者になって、王都に向かうあたりでしたね?
私達二人、ペアを組んで仕事をこなしEランク冒険者になるのに、一年程かかりました。
そして、王都に来たのです。
そこで私達は、冒険者に登録したばかりのノーマンと出会ったです。
その時のノーマンは、成人したばかりでまだあどけなさがありました。
ですが、黒髪、黒眼は大変珍しく、また、見た目華奢な体つきですが、かなり鍛えられているのがわかりました。
このノーマンとの出合いが、私達二人の人生に深く関わることになるとは、思いもしませんでした。
本当にこの頃は、可愛らしい顔をしていたんですよ。
でも ……………
私達二人は、初心者冒険者のノーマンとパーティーを組むことにしました。
なぜ、そうしたのか?
私達は、王都は初めてです。
ノーマンも、右も左も分からない田舎者です。
初めて同士で、気が合ったのか?
単に、ノーマンの押しを断り切れなかったのか?
あの時、ノーマンと関わらなかったら?
たまに、考えてしまうのです。
私達二人、彼と出会わなければ?
でも、私達は出会ってしまった。
関わってしまった!
ノーマンと、パーティーを組んだのは半年程。
その半年間は、今までの二年間が色褪せてしまう程の濃密な半年間でした。
一言でいえば、トラブルの連続でした!
どうして、そうなるのか?
なぜ、こうも厄介事に巻き込まれるのか?
例えば、初めは居なくなった猫の捜索の依頼が、いつの間にか、盗賊団の討伐依頼に?
果ては、奴隷の解放に発展しまい?
それが縁で、王都の貴族と関係を持ち?
貴族間の厄介事に首を突っ込む羽目に成るなど?
普通では、考え着かないような、思いも寄らない出来事が、次から次にやって来るのです?
しかも、本来ならE級冒険者である私達が受ける事の出来ない依頼を受けてしまえたり?
本当に、その当時は訳が分からず、必死に依頼を果たす事で精一杯でした。
ですが、後で彼の詳しい素性を知って納得しました!
彼があの悪名高い、アンドール家の人間だったとは?
アルマルスの王都に行く前に、他に冒険者から、『アンドールの人間に関わるな!関われば災難に見舞われる?』と教えられたのに。
アンドールの人間の悪名は、冒険者では有名でした。
アルマルスで冒険者をする人間にとって、アンドールと関わるのは、タブーとされていました。
なぜ、タブーなのか?
それは、もう、言わずとも分かって貰えると思います。
半年程経って、ノーマンから彼の素性を教えられて、私達は彼とパーティーを別れました。
初めに教えてくれれば、パーティーを組むこともなかったのに。
そう考えていました。
でも、彼の、ノーマンの身になって考えてみると、少しだけ同情してしまいます。
彼だって、アンドールの人間でなければ、他の冒険者と変わらずパーティーを………… 。
組めるはずが、ありません。
あのトラブル体質は、アンドールの人間だからという分けでは、ありません!
今、思い返すだけでも、よくあの半年間で死ななかったものだと、思います。
あの時、私が魔術を使えなかったら?
マルクが来るのが、少しでも遅かったら?
ノーマンが、…………。
たらればを挙げれば、切りがない程、危険が一杯でした。
本当に、あの当時を思い出しす度、冷や汗が出ます。
でも、……… 楽しかった。
あの半年は、その後の冒険者人生では味わえなかったスリルと興奮が有りました。
そう、私が冒険者を目指したきっかけ、生きている実感を感じました。
怖い思いもしましたが、楽しかった。
本当に、そう思います。
ノーマンと別れた後、私達は王都を離れて、アルマルス中を訪ねました。
北の小国で育った私達には、何もかも新鮮で驚きに満ちて…………、
いませんでした。
北も南も、違いが有るとしたら、食べ物と気候の違い、話す言葉に、風俗の違い、建物が違うこと、着ている物も違う。
でも、心踊らされる程のことでは、ありませんでした。
違う場所に行けば、些細な違いは有りますが、さほど珍しい物が有るわけでもなく。
冒険者の仕事も、さほど変わらず、退屈、とはいきませんが、私が冒険者達に聞いた、心奮わせる冒険談を経験することは、有りませんでした。
そんな時に思い出すのが、王都の半年間でした。
あれから、何度か他の冒険者とパーティーを組みましたが、あの半年を上回る出来事に遭遇することは無く。
私とエルクは、何気なくあの半年のことを話しては、あんな思いはしたくない、でも、物足りない思いを感じていました。
それからある程度の時が経ち、私達は冒険者を辞めて、落ち着くことにしました。
エルクが私と結婚することになったからです。
二人で祖国を出て幾年か?
やっと結婚話をしてきた時は、何を今更と思いましたが、エルクに返事をした時、私は思わず涙を流し、彼も泣いて喜んでいました。
どちらも近くに居すぎて、臆病になっていたのかもしれません。
答えを出すのに、どちらも時間がかかりましたけど………。
そして私達は、再び王都に赴きました。
王都で仕事を探し、ここに居を構えるつもりでした。
私は宿で、エルクが帰って来るのを待ってました。
これからの生活のことを考えながら、あれこれと夢想していました。
そこへ、エルクが帰って来ました。
厄介事を連れて来て……………。
そう、ノーマンを連れて………。
ノーマンとの再会
あの日別れた、あどけない少年は逞しい青年になっていました。
思わず見とれてしまい、ぼーっとしてしまいちょっと顔が赤かったかも?
でも、我に帰った後は、嫌な予感しかしませんでしたけど。
エルクから、ノーマンと出会った経緯を聞き、私はノーマンを見つめていました。
ノーマンは、私達に改めて挨拶をした後に、用件を話し始めました。
用件を纏めると、別れた後の簡単な経緯から始まり、その後、ある貴族の要請で戦地に赴き戦功を挙げ、その貴族のお抱え騎士に成ること、そこで従者が必要になり、ギルドに引退する冒険者に依頼に来ていた。
と、その話を大袈裟に身振り手振りを交えつつ、面白可笑しく話す姿は、あの頃と変わらない姿で。
本当にあの頃と変わらない姿に少しほっとしました。
私達は彼に恨まれていると、思っていましたから。
でも彼は、私達にあの頃と変わらず接してくれました。
彼が帰った後、私達二人はほぼ即決していました。
不安が無かった訳ではないですが、冒険者の時程の危険が有るわけでは無く。
それに、辺境の開拓村に赴任するなら、荒事に慣れていますから大丈夫だと判断しました。
でも、ノーマンは何故、わざわざ辺境の騎士に成るのか?
彼の実力なら、王家の直臣に成ってもおかしくないのに?
疑問はつきませんでしたが、私達のしらない事情が、教えられない何かが、彼にも有るのでしょう。
それにしても、私達は貴族の生活が嫌で家を出たのに、また、貴族の生活に戻るなんて?
それも、使用人の立場になって?
叔父が知ったら何と言うか?
でも、私達はノーマンに少なからず負い目が有りましたし、ちょうど良かったのかもしれません。
その後、改めてノーマンに話を聞きに行った時、マーサに会いました。
マーサは、女の私から見ても、見とれてしまう程の美しい女性でした。
ノーマンとマーサ、美男美女とは、この二人をさすのではと思った程です。
マーサは、よく気が利く人でした。
笑顔を絶やさず、周りを明るくし、ノーマンを立てる事も忘れず、私達を持て成してくれました。
私は、女として負けた、と思いました。
帰り際のエルクの慰めが、心に痛かったのは忘れられません。
そして、ローダン村の生活が始まりました。
ローダン村の12年は、私にとってかけがえのないものです。
ノーマンとマーサには、男の子が、私達には二人の娘が、騒がしくも忙しい、笑い声の絶えない毎日で本当に楽しかった。
その毎日も、楽しいことばかりではありませんでしたが、ノーマンとマーサの子であるご主人様が怪我をして、死にそうになったことも有りました。
ノーマンが、リリを泣かしたり、ナナを泣かしたり、御主人様を死にそうな目に会わせたり。
あらっ?主にノーマンが原因ですね?
あの人のトラブルメーカー振りは、村の生活でも、健在でしたね?
そういえば、御主人様は怪我をする前は、やんちゃでイタズラ好き、オマケにエッチな子供でした。
ハイハイができた頃から、家中を徘徊し、主にマーサと私を困らせていました。
歩けるようになると、庭に出て、いつの間にか居なくなってしまうし。
皆で家の周りを、探しても見つからず途方にくれて、家に帰ると、ちゃっかり家に居たり。
たまに、グズっている時は抱き抱えてみると、遠慮なく胸を触ってくるし、それがまた、嫌らしい触り方で……、
走り回れるようになると、マーサや私のスカートの中に入って来たり、お尻を触って来るようになりました。
一応、服の上からですけど、でも、…………
本当に手がつけられない程のやんちゃでした。
ノーマンの子供の頃は、こんな感じかしらと、マーサと二人笑いながら話していました。
でも、怪我をした後は、別人でした!
あれほどやんちゃだったのが、嘘だったように、真面目なおとなしい子になっていました?!
どちらが良かったかは、わかりませんが?
少なくとも、娘にイタズラすることがなくて、良かったです。
もし、前のままだったらと思うと…………。
今では、本当に頼れる男の子になりました!
でも、私達を待っていたのは、悲しい別れでした。
マーサが亡くなり、夫とノーマンは戦で亡くなり、そして、私達のかわいい息子は………。
ええ、そうです。
私は、御主人様を息子と思っています!
私とエルクの間には、残念ながら息子は出来ませんでした。
ノーマンとマーサの間には、娘が出来ませんでした。
だから、私とマーサは、それぞれの子供を自分の、自分達の子供として育てようと話し合いました。
ノーマンとエルクも、その気持ちでした。
私達は、家族です。
でも、いま、家族は離ればなれになりました。
別れ際、御主人様、いえ、私達の息子はこう言ってくれました。
『今は、離ればなれになるけど、必ず、会いに行くから、その時は、………また、家族で暮らしましょう』
私は、御主人様が、私達を家族だと思ってくれたことに………。
娘達も、御主人様にすがり付いて離れませんでしたが、御主人様の言葉で手を離しました。
今、馬車の中で、私は思うのです。
また、いつか、その日が来ることを、私は、私達は、待っています。
二人の娘の寝顔を見ながら、私は、そう思うのです。




