19-3
無駄のない流れるような剣の軌道上で、ゴーレムたちの首が胴体からするりとずれて、転げ落ちていく。
「わわっ」
マリサの動きに目を奪われ、危うくゴーレムの拳を食らうところだった。
ギリギリのところで躱し、下から斜めに剣を振り上げ、ゴーレムの首をはねる。
その後も、絶え間なく襲ってくるゴーレムたちと戦いながら、マリサの観察を続けた。
二次試験で戦った彼女は、確かに圧倒的だった。
だけど今、ゴーレムたちを屠り続けている彼女は、さらにその上をいっているような気がする。
どれだけゴーレムたちが集まって攻撃しようとも、マリサには通用しない。まるで遊び、戯れだ。
見れば、マリサはその場から大きく動いてはいない。敵を待ち、攻撃射程圏内に入ってくる奴から順に、殺している。
彼女の周囲には、ゴーレムたちの屍たる土や泥の山が、形成されつつあった。
彼女の顔には、表情は無いように見える。だけど、ゴーレムの首を斬って絶命させるその一瞬だけ、口元に冷たい笑みが浮かんでいるように見えて、思わずゾッとした。
楽しんでる。ファミリアを殺す、その行為を。
だけど、不思議とそこから目を逸らそうとは思わなかった。それどころか、もっと彼女の戦いぶりを見ていたいとさえ感じていた。
それが叶わないことは、怒涛のごとく押し寄せるゴーレムたちが教えてくれたけどね。
……そうだ。とにかく今は、1体でも多くのゴーレムを倒すことだけに集中しよう。
その瞬間から、私は勝手に、マリサと競い始めた。
彼女が、私の存在に気がついているかどうかはわからない。気がついていたとして、彼女が私と競おうなどとは思わないだろうことも、なんとなく想像できる。
だったら、こっちで勝手に競ってみようと思ったんだ。
彼女が1体倒せば、私も1体倒す。いや、彼女が1体倒せば、私は2体だ。
そんな意気込みでスピードを上げ、ゴーレムたちに自ら突撃し、その首に刀身を潜り込ませていった。
しっかし、斬っても斬ってもキリがない。1000体ってのは、こんなに多いものなのか。
もう、開始からどのくらいの時間が経ったのだろう。
絶え間なく剣を振っていたせいか、じょじょに疲労が溜まってきているのを感じていた。
少しずつ、剣のキレが悪くなっている。片手でゴーレムの首を斬り飛ばせなくなってきたし、全方向に神経を注がなくちゃいけないもんだから、思考も鈍ってきた。
何より、息が上がる。苦しい。
両手で握った剣で繰り出す袈裟懸けの一撃で、ゴーレムの首を斬って着地。
「――あっ!」
次の瞬間、足首がぐねっとなって世界が回転した。一瞬の後、後頭部と背中に衝撃が走り、軽く悶える。
「くぅ……」
どうやら、ゴーレムの死体に足を滑らせてしまったらしい。そんなことにも気が回らないほど、疲れていたのか。
起き上がろうと地面に手をついたところで、私は暗い影に覆われる。
「……!」
囲まれた。そう理解した直後、私は倒れたままその場から横に素早く回転する。
直後、弾ける地面。衝撃でちぎれ飛んだ雑草や砂埃が、私の視界を奪う。
その衝撃波を生んだのは、もちろんゴーレムの拳だ。それが打ち込まれたのは、私が直前まで倒れていた場所。
ゴーレムの拳は、その場をわずかにへこませていた。直撃したらどうなるか、想像に難くない。
「くそっ」
残っている力を振り絞り、すぐに立ち上がると、それに合わせるように迫るいくつかの拳を身体を捻りながら躱し、どうにかゴーレムの包囲網から抜け出す。
そこで安堵の息を吐き、すぐに反撃に移る。
私の気配に、私を囲んでいた全てのゴーレムがこちらを向いた。
マッドマンに比べれば、こういう反応は天と地ほどの差があるね。ただ、そこから素早く行動に移せないから、こいつらは弱いんだ。
でも、もしもその弱点が無かったら、私はさっきの拳の直撃を受け、大怪我をしていただろう。
最悪、死んでいたかもしれない。
怖い想像を振り払い、私は体重を乗せた攻撃をゴーレムたちの首に吸い込ませていく。
もう、思いっきり体重を乗せないと、首を斬り落とせないんだ。
一つ、また一つと首を斬る。
鈍い音を立てて崩れていくゴーレムを横目にしながら、それでも私は、尚、敵に向かっていく。
疲労なんて、言い訳にならない。疲れたから倒せませんでしたなんて、傭兵が言えるか? 言えないね。言っちゃ駄目だ。
肉体の限界を超えても、戦い続けなくちゃいけない。だから、こんなところで諦め癖なんてつけるわけにはいかないんだ。
苦しくても、辛くても、敵を斬る。斬り続ける。その思いだけが、私を突き動かしていた。
「――!」
そして現れる、冷笑を纏った銀光。
思わず立ち止まってしまった私の前で、マリサが剣を振っている。
彼女がさっきまでいた場所に目を向けると、あれだけいたゴーレムはすでに、1体残らず土色の山と化していた。
「なっ……」
どうやら、次なる獲物を求めて、私のところまで来たようだ。
マリサは、私のことに気がついてはいるようだけど、こちらに目を向けることはない。
疲労など全く溜まっていないかのごとく変わらない動きで、ゴーレムを次々に斬殺していく。
彼女の姿を見ているうちに、私は目が覚めたような感覚に襲われた。
そして、その後のことはおぼろげにしか覚えていない。
マリサに負けまいと、私も剣を振り、敵を倒し続けた。それだけは、言い切れる。
だけど、どのように動き、どのように敵を倒し、そして何体の敵を倒したのか。そういった細かいことはほとんどわからない。覚えてない。
無意識――とはまた別の、不思議な感覚。自分でも、うまく言い表せない。
だけどきっと、マリサに負けたくないという対抗心、いや、闘争心のようなものが、私の身体を動かし続けたんだと思う。
いつしか、私の思考は完全に停止し、何も感じなくなっていた……。
「――おいっ! ティナ!」
「――っ!」
パッと意識が戻り、最初に目に入ったのは、私を見下ろす3対の瞳。
「……?」
横になっている私を、イライザ、フランカ、マリサが見つめている。
……なんだ? なかなか状況を把握できない。
「やれやれ。ぶっ倒れるまで戦い続けるなんてな。無茶しすぎだぜ、ティナ」
「え……?」
ゆっくりと、重たい身体を起こす。
目に入るのは、土色の山がいくつも乱立する、草原の景色。その中に、会話をしたり、身体を休めている受験者たちの姿がある。
……どうやら、終わったらしい。とりあえず、それだけは理解した。




